アルゴフロートの通信状況

中島宏幸*1 高槻靖*2 水野恵介*2 竹内謙介*3 四竃信行*3

要旨

アルゴ計画によって投入されたフロートは現在ARGOSシステムを使って データ通信を行っている。 その通信状況を分析することは、効率の良い通信設定を把握し、 今後投入するフロートの設定に反映させることを可能にする。 海洋科学技術センター/地球観測フロンティア研究システムが投入した 17本のアルゴフロートについて通信状況をフロート浮上中の 衛星の軌道などを求めることによって解析した結果、以下のことが分かった。 全フロートの平均の受信率は52%、エラー率は21%であった。 日本に最も近い海域では平均より受信率が7%低く、エラー率が3%高かった。 12~18時(JST)においては受信率が9%低く、エラー率が4%高かった。 これらの原因の1つとして混信が考えられる。 第2世代のARGOS衛星を介した通信は第1世代より受信率は10%ほど 高かったが、エラー率はあまり変わらなかった。 以上の結果とARGOS衛星の軌道を考慮すると、 日本近海に投入するアルゴフロートのデータを効率良く受信するためには、 フロートが海面に滞在する時間帯を0~8時に設定するのが望ましいことが分かった。

キーワード:アルゴフロート・データ通信・ARGOSシステム

Data communication status of the ARGO floats

Hiroyuki NAKAJIMA*4 Yasushi TAKATUKI*5 Keisuke MIZUNO*5 Kensuke TAKEUCHI*6 Nobuyuki SHIKAMA*6

Abstract

We investigate the data communication status of the ARGO floats, that deployed until February 2001 in the seas adjacent to Japan. The mean receive rate of the data via the ARGOS system, which calculated from the periods while floats flies overhead of the float, is 52%. The mean error rate of the transferred data, which detected by the CRC code in the data, is 21%. These rate varied according to the float position and the periods during the float stayed at the sea surface. East of Japan (35-40N,140-145E)was the worst 5 degrees-grid area in communication status, where the receive rate is 7% lower than the average and 3% higher than the average. The worst 6-hour period is 12:00-18:00 in JST, when the receive rate is 9% lower than the average and the error rate is 4% higher than the average. The communication status seemed to be affected by interferences of the radio were around Japan. The second-generation Argos instruments have about 10% higher receive rate than the first-generation ones, but no difference found in the error rate. Considering the orbits of the ARGOS satellites, most effective periods for data communication from the ARGOS floats in the seas adjacent to the Japan is 00:00-08:00 in JST.

Keywords : ARGO float, data communication, ARGOS system

*1 株式会社 マリン・ワーク・ジャパン
*2 海洋観測研究部
*3 地球観測フロンティア研究システム
*4 Marine Works Japan Ltd.
*5 Ocean Observational Research Department
*6 Frontier Observational Research System for Global Change


1.はじめに

2000年に開始した国際プロジェクトであるアルゴ計画により、 ALACE(Autonomous Lagrangian Circulation Explorer)フロート1)と同じタイプのフロートが全球で約3,000本展開される。 フロートには水温/塩分(電気伝導度)センサーが取り付けられており、これにより、年間約10万点に及ぶ水温/塩分の 鉛直プロファイルと、滞在深度における流速の分布が得られるようになる2)。 現在、プロファイリングフロートが測定したデータの通信にはARGOSシステム3)が用いられているが、 通信システムの制約のために一度に送られるデータ量は限られており、データは分割されてフロートから送信されている。 観測したデータを完全に取得するには、これらの分割されたデータの全てをエラーを含まない状態で取得する必要がある。 データ通信を確実に行うため、プロファイリングフロートは8~21時間海面に滞在してデータ送信を行っている。 データをより確実に取得するためには現在の通信状況を把握し、今後投入するフロートの設定に役立てることが必要である。 また、フロートの電池容量の半分はデータ送信に費やされているため、海面に滞在する時間を短縮することが出来れば、 データ送信による電池の消耗を抑えることになりフロートの寿命を伸ばすことが出来る。

 一方、これらのプロファイリングフロートで得られるデータに関して現在一番問題になっているのは 塩分を長期にわたって精度良く測定することである。塩分は水温と電気伝導度によって求まるが、 電気伝導度センサーは微妙な物理的変形や表面の汚れなどによって水温センサーに比べて短期間で精度が低下する可能性が 高い。これまでに、生物付着が原因と考えられる電気伝導度センサーの大きなドリフトがあった(例えば、4))ため、 現在はフロートに用いられるセンサーには生物付着が起こりにくいように薬品が塗布されている。 しかし、生物付着が起こりやすい海面に滞在している時間を短くすることも、電気伝導度センサー精度の 長期安定性に寄与することが期待できる。

 本稿では、まず、今後投入するプロファイリングフロートの通信設定に役立てるため、 これまで海洋科学技術センター海洋観測研究部/地球観測フロンティア研究システム(以下JAMSTEC/FORSGCと記す)が 投入してきたプロファイリングフロート(以下アルゴフロートと呼ぶ)について通信状況を解析し、 効率の良い通信時間の設定について検討した。

2.アルゴフロートの通信状況

解析に用いたアルゴフロートは2001年2月までに投入した17本のフロートである(表1)。 データ通信に用いているARGOSシステムでは一度に転送できるメッセージは最大32bytesであるが、 アルゴフロートの1回の観測に対するデータ量は約400bytesになるため、データを12~14のメッセージブロックに分け ブロックにつけられた番号順に、繰り返し送信している。 各ブロックにはCRCコードが付加されているので、 受信したデータから計算されるCRCコードと比較することにより通信途上でエラーが生じたかどうかを知ることが出来る。 送信したデータは、フロート上空を通過するARGOS衛星を介してARGOS受信局に送られ、E-mailなどによってユーザーへ送られる 。

WMO ID
ARGOS ID
CTDセンサー
滞在深度(m)
平均海面滞在時間(hour)
海面滞在周期(JST)
観測周期
送信周期(秒)
投入日(JST)
29032
28935
SBE
1500
19
17h~12h
(18h~13h)
28日
90
2000/3/22
29033
28936
SBE
1500
19
17h~12h
(10h~05h)
14日
90
2000/3/22
29034
28938
SBE
2000
21
22h~19h
10日
90
2000/10/21
29035
28940
FSI
2000
21
22h~19h
10日
90
2000/10/21
29042
06496
SBE
2000
8
02h~10h
10日
44
2001/2/16
29043
06495
SBE
2000
8
06h~14h
10日
44
2001/2/16
29044
06498
SBE
2000
8
10h~18h
10日
44
2001/2/16
29045
06497
SBE
2000
8
12h~20h
10日
44
2001/2/16
29046
06500
SBE
2000
8
16h~24h
10日
44
2001/2/16
29047
06499
SBE
2000
8
18h~02h
10日
44
2001/2/16
29048
06503
SBE
2000
8
21h~05h
10日
44
2001/2/16
29049
06502
SBE
2000
8
00h~08h
10日
44
2001/2/17
29050
06504
SBE
2000
8
04h~12h
10日
44
2001/2/17
29051
06505
SBE
2000
8
10h~18h
10日
44
2001/2/17
29052
06506
SBE
2000
8
14h~22h
10日
44
2001/2/17
29053
06507
SBE
2000
8
21h~05h
10日
44
2001/2/17
29054
06510
SBE
2000
8
01h~09h
10日
44
2001/2/18
表1 2001年2月までに投入したアルゴフロートの概要
WMO ID:世界気象機関(World Meteological Organization)によるフロート固有の番号。
ARGOS ID:ARGOSシステムで用いられる送信機(PTT)の識別番号。全てのフロートはWebb社製のAPEX型フロートである。
WMO ID 29034,29035は2001年1月28日、29042は2001年2月25日、29047は2001年6月6日以降データが受信されていない。 29032は2000年8月9日〜2000年10月18日、29033は2000年8月9日〜2000年11月4日の間、 海水の表層の密度がフロートの密度より軽くなったためにフロートが海面まで浮上出来なかった。 この間フロートは海面近くを漂流したと考えられ、フロートの浮上〜下降のサイクルがずれた。 2000年秋以降の滞在時間帯をそれぞれ括弧内に示す。
Table 1 Summary of the ARGOS floats deployed before February 2001 by JAMSTEC/FORSGC.

 ARGOS衛星は、高度850km、周期102分、軌道面速度毎時西向き25度(赤道で2800km)の太陽同期の極軌道を航行している。 その結果、衛星はあるARGOS送信機との通信可能範囲を毎日ほぼ同じ時間に通過する。 衛星は地表面の直径約5000kmの範囲と通信可能であり、高緯度になるほど重複する範囲が増加する。 2つの衛星が、あるARGOS送信機の通信可能範囲を通過する1日当たりの回数は、極では28回、赤道では6,7回になる。 フロートと衛星の通信が持続する時間は1回当たり平均で10分、最長で15分である3)。 衛星の軌道は、衛星の軌道要素が与えられれば、ケプラーの法則によって求めることが出来る。 ここではARGOSで現在用いられている5つの衛星について北米防空司令部(NORAD)によって提供されている軌道要素と フリーソフトであるPREDICT(http://www.qsl.net/kd2bd/predict.html)を用いて、 フロートが海面に滞在している時間にフロートから見た衛星の俯角が0°以上になる軌道を全て計算し、 これを通信可能時間とした(図1)。 通信可能時間を送信周期で割ることによりフロートが衛星に送信できるデータ数(受信可能数)を求めることが出来る。 また、実際に得られたデータから受信したデータ数(総受信数)、 エラー無しで受信したデータ数(エラーなし受信数)が分かる。 総受信数の受信可能数に対する割合を受信率、エラーを含む受信数の総受信数に対する割合をエラー率として統計をまとめた。 17本のアルゴフロートの2001年6月8日までの通信状況について求めたところ、 全193回の浮上に対する受信率は平均52%、エラー率は21%であった。以下、 海域や通信時間帯などによる通信状況を解析した結果を示す。


図1 アルゴフロートと通信可能なARGOS衛星の軌道の例(WMO ID:29054の2001年2月27日の浮上時)。
水色の☆はフロートの位置、軌道上の赤色の☆は位置が計算された時刻における衛星の位置である。
また、ARGOS衛星がフロートの位置を計算した時刻における位置、軌道上の+の印はフロートデータの受信時刻における
衛星の位置であり、黒色はエラー無し、赤色はエラーありを示す。
Fig. 1 Example of ARGOS satellite tracks which possible to communicate with ARGO float.
Lite blue star indicates the ARGO float position.
Black and red crosses on the satellite track show the ARGOS satellite positions when satellite received data from the float without error and with error, respectively.
Red stars show the satellite positions when float position fixed.

2.1 海域別の通信状況

海域による通信状況の相違を把握するために、北緯30~45度、東経135~145度の海域を5度格子に区切り、 格子ごとに受信率・エラー率を算出した(図2)。 これによると、日本に最も近い海域では平均に比べて受信率が7%低くエラー率が3%高い。 受信率・エラー率の相違は南北方向よりも東西方向の方が大きい。 日本に近い海域で、受信率が低くエラー率が高い原因には日本の陸上からの電波による混信の可能性が考えられる。 また、現在運用されているARGOS衛星はNOAA-D,H,J,K,Lの5つであるが、 搭載されている通信システムの違いにより、第一世代のグループ(NOAA-D,H,J,以下Argos-Iと記す)と 受信感度の向上などが図られた第2世代のグループ(NOAA-K,L,以下Argos-IIと記す)に分けられる5)(表2)。 これらの2つのグループに分けた場合、エラー率には明白な差が見られないが、 受信率はArgos-IIの方がどの海域でも5~15%高かった。


図2 緯度経度5度格子毎の海域別の通信状況
Nはフロートの浮上回数である。
Fig. 2 Status of the data communication via ARGOS system in each 5 degrees-grid.

Satellite Name
Band-width
(KHz)
Receiver
(dBm)
Proc.Units
Link Speed
(bits/sec)
NOAA-D
24
-128~-108
4
720
NOAA-H
24
-128~-108
4
960
NOAA-J
24
-128~-108
4
1200
NOAA-K
80
-131~-108
8
2560
NOAA-L
80
-131~-108
8
2560
表2 ARGOS衛星に搭載された通信機器の概要
Table 2 Characteristics of the ARGOS instruments on the NOAA satellites.

2.2 通信時間帯による通信状況

通信時間帯による通信状況の相違を把握するために、 日本時間の0~6時、6~12時、12~18時、18~24時に分けて受信率・エラー率を算出した(図3)。 これによると、0~6時は平均に比べて受信率は4%高く、エラー率は4%低かった。一方、12~18時は平均に比べて受信率は9%低く、 エラー率は4%高かった。6~12時および18~24時は受信率は0~6時と同程度だが、エラー率は0~6時より4%高かった。 これは、日本の社会活動から生じる電波による混信の増減を反映している可能性がある。 衛星を2つのグループに分けた場合、受信率・エラー率の時間帯による明白な差は見られなかった。


図3 通信時間帯による通信状況
Nはフロートと衛星の通信回数である。
Fig. 3 Status of the data communication via ARGOS system in each 6 hours period.

2.3 季節変化による通信状況

3ヶ月ごとの受信率・エラー率の変化を調べることで、季節による通信状況の相違を調べた。 投入してから1年以上稼働しているアルゴフロートはWMO ID:29032,29033(以下番号のみ記す)であるので、 これら2本のフロートについて調べた(図4)。 2000年4~6月は他の期間に比べて10%以上受信率が高かったが、2000年7月以降の受信率には明白な差は見られなかった。 またエラー率は全期間を通じて変化は小さかった。 これから季節による受信率・エラー率の変化はほとんどなかったと言える。


図4 3ヶ月ごとの通信状況
フロート29032と29033について示した。但し、これらのフロートは浮力の問題で浮上出来ない時期があったため、 29032は2000年8月9日〜2000年10月18日まで、29033は2000年8月9日〜11月4日までのデータはない。 NOAA-Lは2000年秋に打ち上げられ、10月以降利用可能となっている。Nはフロートの浮上回数である。
Fig. 4 Status of the data communication every 3 months for the float 29032 and 29033 from April 2000 to June 2001.

2.4 海面状況と通信状況

アルゴフロートは海面に浮上して通信を行うため、海面の波高が高い場合にはフロートの姿勢が安定せず、 通信状況が悪化する可能性がある。そこで、気象庁の近海波浪モデルによる波高データを用いて、 フロートの浮上していた海域における波高と受信率・エラー率の相関を調べた(図5)。 波高と受信率の相関係数は0.02、波高とエラー率の相関係数は0.29となり、受信率は波高によらないが、 エラー率は波高とともに高くなる傾向が見られた。 Davisら1)はALACEと同形の海面フロートを用いて風速とフロートの位置決定数および風速と総受信数の相関を調べ、 それぞれに相関は見られなかったと報告しているが、今回の結果と矛盾しない。


図5 フロートの浮上海域における波高とフロートの通信状況
Fig. 5 The receive rate(red triangle)and the error rate(green circle) vs. wave height where floats stayed.

2.5 衛星における受信レベルと通信状況

衛星における受信レベルが取得出来た2001年3月17日〜2001年6月7日の期間について、 衛星がアルゴフロートから受けた電波の受信レベルと受信率・エラー率の関係を調べた。 図6は各フロートの、エラー率と受信率、平均の受信レベルとその標準偏差および全フロートの平均の受信レベル、 海面に滞在している時間帯を示す。29047の受信レベルは他のフロートに比べて約3dBm高かったが、 受信率・エラー率ともに他のフロートと大きな差はなかった。一方、29046は他のフロートに比べて1~2dBm低めであり、 受信率は最も低く、エラー率は最も高かった。特に受信率の低下よりもエラー率の増加の方が他のフロートとの差が大きかった。他のフロートはフロートによって受信率やエラー率が変動するが、受信レベルと相関があるようには見えない。かえってフロートの浮上時間帯との関係によって受信率とエラー率が上下しているようである。2.2節より12~18時の時間帯はエラー率が最も高く受信率が最も低く、0~6時の時間帯はエラー率が最も低く受信率が最も高いことが分かっている。29042~29054のフロートは海面滞在時間が短いため、浮上時間帯に12~18時の時間帯が含まれるとエラー率が高く受信率が低くなり、0~6時の時間帯が含まれるとエラー率が低く受信率が高くなっている。  衛星の2つのグループについての、受信レベルごとのエラー率・受信率、平均受信数、受信回数を図7(Argos-I)、 図8(Argos-II)に示す。図7,8より、受信レベルが高いときに受信可能数が多いことが分かる。 これは衛星がフロートの真上に近いところを通過するときほど受信レベルが高くなることを示唆している。 また、受信レベルが-128dBmより下がると急激にエラー率が上がり受信率が下がっている。 受信率・エラー率の加重平均を、Argos-Iの公称受信感度である-128dBmを境に分けて算出し、図中に点線で示した。 加重平均で比較すると、Argos-I,IIともに-128dBm以下は-128dBm以上より受信率は25%低く、エラー率は17%高くなっていた。 Argos-IIはArgos-Iより受信率が-128dBm以上、以下ともに約10%高いが、エラー率には明白な差は無かった。  29047は11回浮上した後、データが受信されていないが、電源電圧の下がり方が急であったことから 電池がなくなってしまった可能性が高い。上述したように受信レベルが他のフロートより3dBm高かったが、 この原因が送信電力の違いによるとすると、他のフロートの倍の送信電力であったことになる。 これが29047の電源電圧が急に下がった原因の一つである可能性がある。

図6 アルゴフロートの受信レベルと通信状況
上から順に通信状況(赤△:受信率,緑○:エラー率)、受信レベル(平均値(○)と その標準偏差および全フロートの平均の受信レベル)、浮上時間帯を示す。
Fig. 6 The receive rate, the error rate(upper panel)and the receive level(middle panel)for each float from Mar. 17, 2001 to Jun. 7, 2001. Periods of the float stayed at the sea surface for each float are also shown in lower panel.


図7 受信レベルごとの通信状況(Argos-I;D,H,J)
上から順に、通信状況、データ受信数、通信回数を示す。
通信状況の図中の点線は、-128dBmで分けて算出した受信率とエラー率の加重平均を示す。
Fig. 7 Communication status in each receive level for the 1st generation satellites(Argos-I;D,H,J).


図8 受信レベルごとの通信状況(Argos-II;K,L)
図7と同様である。
Fig. 8 Same as Fig.7 except for the 2nd generation satellites(Argos-II;K,L).

3.考察

アルゴフロートが海面に滞在している時間帯と受信率の関係および5度格子に分けた海域と受信率の関係から 、日本近海の特に12~18時の時間帯には受信率が低くエラー率が高いことが分かった。 これは混信によって生じている可能性が高い。受信率とエラー率の状況から日本近海でフロートを投入する場合は、 フロートが海面に滞在する時間帯が0~6時を含むように設定すべきだということが示唆される。 衛星についてはArgos-IとArgos-IIの間に受信率で10%の差があるので 、受信感度の高いArgos-IIが通過する時間帯にフロートが浮上するようにすれば、エラー率は変わらないものの、 受信率は改善し、より効率的にデータを受信できると考えられる。 ARGOSシステムに用いられている衛星は太陽同期であるのでその軌道を太陽時で示すと図9のようになる。 フロートの海面滞在時間を29042~29054のように8時間に設定する場合には、図9より、受信率が良いArgos-IIが通過し、 かつ混信を最小限に抑えられる0~6時の時間帯を含む時間帯は0~8時であることが分かる。 これらの結果よりフロートが海面を0~8時に滞在するように設定することが望ましいことが示唆される。 また、今回の結果をみる限りでは、季節と受信率・エラー率の相関および波高と受信率の相関は特に見られなかったが、 エラー率は波高とともに上昇する傾向があった。  現在フロートの海面滞在時間は、フロートが海面に滞在する間にARGOS送信機が機械的に繰り返し送信するメッセージブロック を、データの信頼性のために複数受信出来るように設定されている。ARGOSシステムのハード面の機能向上がないとすると、 フロートの海面滞在時間を短縮するには、上記のようなデータ通信途上に生じるエラーを最小限に抑える通信設定を調べるだけではなく、 12~14個のそれぞれのメッセージブロックの受信回数についても解析する必要がある。 現段階ではフロートの海面滞在時間の短縮の可否は判断できない。  JAMSTEC/FORSGCが投入したアルゴフロートの平均の受信率は52%、エラー率は21%である。 ワシントン大学のRiserは日本海や大西洋などでアルゴフロートを投入しており、 Webページを通じてアルゴフロートのエラー率・受信率などの情報を公開している。 ワシントン大学が使用しているフロートと我々のフロートのタイプは同じWebb社製のフロートである。 これによると2001年7月27日の時点で日本海では受信率86%、エラー率17%、大西洋では受信率85%、エラー率17%である。 受信率はJAMSTEC/FORSGCの方が30%低くなっているが、これは受信可能数の算出方法がJAMSTEC/FORSGCと ワシントン大学では異なっているためである。受信可能数を算出するのに使用する通信持続時間に、 ワシントン大学では衛星の周期のうち実際にデータを受信出来た時間帯を使用しているのに対し、 我々は既述したようにフロートが海面に滞在している時間に衛星の俯角が0°以上になる軌道を全て計算したものを 使用しているため、受信可能数はワシントン大学よりJAMSTEC/FORSGCの方が多くなり、 受信率は低くなる。ワシントン大学と同じ算出方法による受信可能数を使用するとJAMSTEC/FORSGCの全フロートの 受信率は88%(表3)となり、ワシントン大学と同程度の値となる。しかし、地理的に近い、 ワシントン大学が運用している日本海のフロートと比べても我々のフロートのエラー率は高めである。 このエラー率の差の原因は不明である。 データをリアルタイム伝送していた6)。沖ノ鳥島は孤島で陸の影響を受けにくく、 陸上の固定したアンテナからデータを送信していることから、 アルゴフロートに生じるようなエラーが起こりにくいと考えられる。 そこで、比較のために2000年4月のARGOSの通信状況をフロートと同様に計算したところ、 受信率81%、エラー率8%であった。また、Sherman(1992)7)はスクリップス海洋研究所(SIO)において、 ARGOSのパフォーマンステストを実施し、受信した全データの9%に少なくとも一つ以上ビットエラーがあり、 生じたエラーは単純なビット落ちというよりもノイズバーストのために連続して生じていることを示唆する分布を得ている。 これらから、ARGOSシステムの特性としてエラーが1割弱生じていると考えられる。 一方、高槻ら8)が用いていたフロートはアルゴフロートよりも小型で、エラー率は20~50%に及んでいた。 高槻らはエラー率の高い原因はフロートの動揺の可能性があるとしている。 JAMSTEC/FORSGCとワシントン大学のアルゴフロートのエラー率は20%前後で ARGOSシステムの特性によるエラー以外の約10%のエラーの原因に、 2.1節,2.2節で示唆されたような混信や海面からのアンテナの高さ、フロートの動揺の影響などが考えられる。

 
JAMSTEC/FORSGC
ワシントン大学
 
JAMSTEC/FORSGCの計算方法
ワシントン大学の計算方法
日本海
大西洋
受信率(%)
52
88
86
85
エラー率(%)
21
17
17
プロファイル数
193
2564
537
表3 JAMSTEC/FORSGCおよびワシントン大学が投入したフロートの通信状況
Table 3 The receive rate and the error rate for the floats operated by JAMSTEC/FORSGC and University of Washington.


図9 ARGOSシステムに用いられているNOAA極軌道衛星の軌道
時刻は太陽時を示す。
Fig. 9 Orbits of NOAA POES(Polar Orbiting Environmental Satellites) used for the Argos system

 

4.まとめ

アルゴフロートからの通信状況を解析することによって以下のことが明らかになった。
・ARGOS衛星の軌道から求められた受信可能数と実際に受信したデータ数から求めたデータ受信率は平均52%であった。 また受信したデータのエラー率は平均21%であった。
・海域別には日本に最も近い海域は平均よりエラー率が7%高く受信率が3%低かった。
・時間別には12~18時の時間帯は平均より受信率が4%低くエラー率が4%高く、 0~6時の時間帯は受信率が9%高くエラー率が4%低かった。
・平均の受信レベルとエラー率・受信率は、特に受信レベルが低くない限り相関は見られなかった。
また、受信レベルが-128dBmより低くなると受信率は25%低くなり、エラー率は17%高かった。
・第2世代のArgos-IIによる通信は、Argos-Iと比べて10%近く受信率が良かった。
しかし、エラー率はあまり変わらなかった。以上の結果より、日本近海に投入するアルゴフロートの データを効率良く受信するためには、フロートが海面に滞在する時間帯を衛星D,J,K,Lが通過する0~8時に設定するのが 望ましいと言える。今後、フロート海面滞在時間の短縮の可否を検討するため、 データ通信途上に生じるエラーを最小限に抑える通信設定に加えて、メッセージブロック別の受信状況の調査が必要である。

謝辞

衛星軌道の計算にはJohn A. Magliacane氏によるフリーソフトであるPREDICT(http://www.qsl.net/kd2bd/predict.html)を 使用させて頂きました。波高と通信状況の関係の解析のために気象庁気候・海洋気象部海洋気象情報室より波高データを、 衛星における受信レベルと通信状況の解析のために株式会社キュービック・アイの弥富秀文氏から受信レベルのデータを、 また、海洋科学技術センターの中埜岩男氏には沖ノ鳥島のARGOS通信データを提供して頂きました。 ここに厚く御礼申し上げます。

参考文献

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