中層フロート温度・電気伝導度センサー用校正バスの温度特性及び校正試験結果

井上 亜沙子*1、宮崎 基*2、伊澤 堅志*3、安藤 健太郎*3、高槻 靖*3、水野 恵介*3

要旨

Argo計画で投入する中層フロート搭載センサーの校正に用いる恒温水槽の温度特性を評 価した。このシステムの持つ温度の校正誤差範囲を求めるために、SeaBird社製の温度セン サー(SBE3型)を恒温水槽内の半径方向、または鉛直方向の各点に設置し、各設定温度に おける基準点との温度差を求めた。その結果、この恒温水槽では±1.7mK以内の誤差範囲 で温度の校正が可能であることが分かった。
中層フロートを実海域へ投入する前に、この恒温水槽を用いて8本のセンサーの検定を 行った。その結果、温度に関しては、30℃から1℃までの各設定温度における基準器との差 の平均が約1mKで、標準偏差が0.5mK前後であった。電気伝導度に関しては、大きく値 がずれた1本を除いて、24℃において基準器との差の平均が0.5mS/m(塩分値換算で 0.0042psu)、標準偏差が0.2mS/m(塩分値換算で0.0016psu)であった。大きく値のずれ た電気伝導度センサーに関しては、校正を行った。さらに本論では、今後センターにて使 用する可能性のある中層フロート用センサーについての検定を行い、その結果についても 議論した。

キーワード:「Argo計画」、中層フロート、校正バス、温度分布、誤差範囲

Stability of Water Temperature in the conductivity and temperature calibration system and Result of calibration experiments

Asako Inoue*4、Motoki Miyazaki*5、Kenji Izawa*6、Kentaro Ando*6、Yasushi Takatsuki*6、Keisuke Mizuno*6

Abstract

The purpose of this study is to investigate the temperature distribution in the bath of the conductivity and temperature calibration system (CT bath system) equipped for Japanese-Argo program in 2000, and to show the results of calibration of sensors which were actually launched in 2001 in the North Pacific as the Japanese-Argo floats. On the temperature and conductivity sensor calibration, controlling temperature of water in the bath during calibration is the most important issue, so the temperature distribution during calibration was examined. As the results of this experiments, water temperature was well controlled within 1.7mK.
The calibrations before the deployment of floats were also performed for eight sensors. The results of JAMSTEC calibration showed that the difference of temperature calibration from the manufacturer's calibration was within 1mK with the standard deviation of less than 0.5mK, and that of conductivity calibration from the manufacturer's was 0.5mS/m (corresponding to 0.0042psu at 24 degree-C) with the standard deviation of 0.2mS/m (corresponding to 0.0016psu at 24 degree-C).

Keywords : Argo project,Argo profiling float,Calibration bath system,temperature distribution,error range

*1 (株)マリン・ワーク・ジャパン・海洋科学部
*2 海洋科学技術センター・地球観測フロンティア研究システム
*3 海洋科学技術センター・海洋観測研究部
*4 Department of Marine Science, Marine Works Japan LTD
*5 Frontier Observation System for Global Change
*6 Ocean Observation and Research Department


1. はじめに

2000年に始まった国際プロジェクト「Argo計画」は地球全体の海洋変動を リアルタイムで計測するという大規模な計画である。 日本では平成12年度より開始されたミレニアムプロジェクトの 一環として文部科学省、国土交通省が連携し、 水産庁の協力のもとで「高度海洋監視システム(Argo計画)の構築」 としてこの計画を推進している。 この計画は、海面より2000mまでの水温・塩分の鉛直プロファイルを 測定する中層フロート(以下フロート)を世界中の海で3000台程度展開して、 リアルタイムでデータを取得し、長期気候変動予報の飛躍的な向上を 目指すものである(水野、20001))。 このフロートは一度投入されると水深2000mで漂流し、 10日に1度、水温・塩分を測定しながら浮上してそのデータを送信し、 再び水深2000mへ沈降する。 フロートのバッテリーの寿命は約4年間であり、 その間この動作を繰り返すよう設定されている。 この間フロートは無保守で運用されるため、 機構の堅牢さとともにセンサーの経時的な安定性が要求される。

現在、海洋科学技術センター(以下センター)では、 Argo計画の中で、フロートに搭載されるセンサーの精度向上に 関する研究に取り組んでいる。 各フロート用のセンサーが達成すべき測定精度は、 塩分0.01psu、水温0.005℃を目標としているが、 技術上最も問題となるのが、塩分の測定精度である。 塩分は海水の電気伝導度・水温・圧力の3要素から計算 によって求められるが、 電気伝導度と水温の高精度な測定が必要である。 陸上で使用されるオートサル等の測器や 船上で使用されるCTD(電気伝導度・水温・圧力計)の様に、 センサーの保守・管理が常時行えるならば、 目標としている測定精度をクリアする事は十分可能であるが、 フロートの場合は一度海へ投入した後に回収して、 センサーの保守・管理を行う事は非常に困難である。

Riser and Swift(2001)2)は、 彼らが投入したフロートに搭載されている電気伝導度センサーの 経時変化について調査した。 これらのセンサーは平成12年度にセンターで運用したものと同じ SeaBird社製のSBE41型で、電極式の電気伝導度センサーである。 いくつかのフロートについては、 フロート投入直後から数回にわたって塩分が低く測定され、 徐々に正常な値に戻っていく現象が認められたが、 ほとんどのフロートは投入後3年程度経過しても非常に安定しており、 高い精度を保っていることが示されている。 投入直後に塩分が低く測定される事については、 電気伝導度センサーのセルの入口に取り付けてある生物付着防止剤 (船底塗料)がセルの内壁に流れ出し、 センサーの計測領域が狭くなったために、 測定される電気伝導度が小さく(塩分値が低く)なった と推測している。 Riser and Swift(2001)2)は、 彼らの使用しているものと同型のセンサーに関しては、 数年にわたって少なくとも塩分0.01psuの精度を 保っていると報告している。

しかし、同型のセンサーであっても明らかに経時変化を 起こしているセンサーも存在する。 今後フロートの投入台数が増えれば、 補正を必要とするセンサーも増えることが推測される。 これらを踏まえてフロートより得られたデータの品質管理として、 気候値などよりデータを補正する方法を研究中であるが (小林ら、20013))、 フロート投入前のセンサーの校正値は、 データ補正する上で最も信頼できるものである。 そのためには、フロート投入前に校正システムを用いて、 センサー精度の保守・管理を行うことが重要である。

2. フロート用校正バスについて

センターではフロート搭載センサーの精度を自ら保守・管理するために、 SeaBird社製の大型校正バスを整備した(写真1)。 この校正バスは、同一濃度の人工海水を用いて 30℃から1℃の間の数点で温度を安定させ、 温度および約6S/mから3S/mまでの電気伝導度の 検定を同時に行う方式である。 同様の方式はトライトンブイ用センサーに対しても 既に実施されている(松本ら、20014))。

トライトン用校正バスでは基準器にSeaBird社製のSBE3型の 温度センサーとSBE4型の電気伝導度センサーを用いているが、 フロート用校正バスの基準器はそれに加えてSBE5型のポンプを備え、 温度センサーから電気伝導度センサーへ海水を循環させている。 両センサーはダクトで繋がっているため、 同じ海水を計測していることになる。 採水器にもこのポンプ内を循環する海水が供給されるので、 電気伝導度センサーが測定した海水と採水した海水は同じである。

写真1の校正バスの隣に位置する架には上からPC、 センサーインタフェース部、水温制御部が組み込まれている。 また写真には写っていないが、校正バス内の海水を加熱冷却する装置で ある大型のチラーも設備されている。 この校正バスでは一度に5台のセンサーが校正可能であり、 フロート用センサーがトライトン用センサーよりも大型であるため、 トライトン用校正バス(100l)より大型(φ54cm×H100cm, 250l)である。 また、トライトン用校正バスでは底部に冷却コイル、 中心に加熱コイルが取り付けられているのに対し、 フロート用校正バスでは中心に冷却コイルと加熱コイルの 両方が取り付けられている。 図1にフロート用校正バスの構造と内部の海水の対流について示した。 校正バス中央に設置された筒状の構造物の中には2つの攪拌器と 加熱コイル(上)と冷却コイル(下)が取り付けられ、 海水は筒の中を上方から下方へ対流し、筒の外を下方から上方へ対流する。 写真2はフロートより取り外したセンサー部を校正用容器に 取り付けた状態を写したものである。 フロート用センサーを校正する際には、 フロート本体からセンサー部を取り外し、 さらにバス内にセンサーを収めるために データ送信用のアンテナも取り外してから、 センサー部を校正用容器に取り付ける。 また、センサーは容器底部に位置する水中コネクタにより センサーインターフェース部に接続される。 センサーインターフェース部は各センサー間の 電極同士の干渉を防止するために電源を含めた アイソレーション回路が組み込まれている。 電源はAC/DCコンバータにより、 シリアル信号はフォトカプラによりアイソレーションされている。 一方でトライトン用校正バスでは、 センサーがそれぞれ内蔵電池により動作し、 センサーとの通信は電磁誘導伝送によって行われるために、 センサーはもとよりアイソレーションされた状態にある。 この部分もトライトン用校正バスと異なる点である。

フロート用に開発された電極式および電磁誘導式の各種センサーを この校正バスで正確に検定するためには、 校正バスの温度特性を確認し、その性能を評価する必要がある。 本文では校正バス内の温度分布を評価する実験を行ったので報告する。 また、実海域に投入したSeaBird社製センサー(SBE41型)の検定 およびフロート用に開発されたFSI(Falumouth Scientific, Inc.) 社製センサー(EXCELL型)の検定を実施したので、 その結果も併せて報告する。


写真1 中層フロート搭載センサー校正用恒温水槽(校正バス)
Photo 1 Argo float calibration bath (left) and controller(right).


写真2 センサーを校正する前の状態。 フロートから取り外したセンサー部を校正専用の容器に取り付ける。
Photo 2 Argo CT (Conductivity and Temperature) sensors(SBE41) attached to end-cap for connecting to signal cable. Before calibration, sensors have to be removed from Argo float.


図1 校正バスの構造
Figure 1 Configuration of Argo calibration bath.

3. 校正バスの性能評価

校正バス内の温度分布を評価する実験を行った。 方法としては、同型の温度センサーを小型恒温水槽を用いて 基準器に対する器差を求めた後、 校正バス内の半径方向および鉛直方向に温度センサーを設置し測定を行った。 いずれの場合も、基準器は校正バス内に定められている吊り具位置に設置し、 そこを基準点とした。

3.1. 温度センサー間の器差の補正

温度センサーは、SeaBird社製のSBE3型を用いた。 温度センサーの測定精度と器差を確認するために、 SeaBird社製の小型恒温水槽(φ35cm×H54cm, 55l)を使用して測定を行った。 実験当時、小型恒温水槽の温度コントロール装置が故障していたため、 室温1点のみの測定を行うこととし、 恒温水槽内を室温になじませるために攪拌器を用いて対流させた。 これまでのSeaBird社による検定履歴よりSBE3型の温度計の器差は、 一般に傾きが変わるのではなく、切片が変わる事が分かっており (SeaBird Electronics、19955))、室温1点の測定で 切片を補正することとした。 測定は0.25秒に1回の測定周期で5分間行った。 基準にしたセンサーは、 実験当時メーカーでの校正日が最も新しかった Serial Number (以下S/N) 2522とした。 図2に測定結果を示す。 測定時間全体に渡って、全てのセンサーが徐々に昇温している様子が見える。 これは前述のように、温度コントロール装置が故障していた原因で、 恒温水槽内の温度が室温に徐々に近づいていったためである。 しかし、全体の変化はほぼ平行であり、 瞬間的には恒温水槽内の温度がほぼ均一である事が分かる。 この結果より求めた、温度分布測定に使用した温度センサーと 各センサーの基準値に対する差の平均(器差)および標準偏差を表1に示す。 各センサーの基準器に対する差の標準偏差はいずれも0.1mK以内で 測定されていた事が分かる。 表中のS/N 1207のセンサーは器差の測定後に納品され、 SeaBird社で校正してから日が浅い事から、 改めて器差の測定は行わなかった。 他のセンサーと条件が異なる事を考慮し、 温度分布測定ではS/N 1207のセンサーを最も精度が悪いと思われる場所に設置し、 結果は参考値に留めた。


図2 小型恒温水槽における室温一点の温度測定結果
Figure 2 Time change of temperature measured by four SBE3 sensors during one-point calibration near room temperature.
The water temperature in the bath gradually increased towards room temperature,
however differences among each sensor were almost unchanged during calibration.

S/N
SeaBird社での校正日
差の平均値 (器差) [mK]
差の標準偏差 [mK]
ex08
07-Jul-99
-0.9
0.086
ex06
30-Jul-99
-1.8
0.086
2609
15-Sep-00
-1.0
0.087
2522
22-Sep-00
1207
18-Nov-00
表1 温度分布測定で使用した温度センサー(SBE3型)のSerial Numberと基準器 S/N2522から求めた各センサーの器差及び標準偏差。
Table 1 Serial Numbers of all sensors used for measurement of temperature distribution, and the average and standard deviation of each sensor referred from S/N2522. The date of calibration by manufacture is also shown.

3.2. 温度センサーの設置点と測定方法

校正バスの同心円上の温度分布については、 SeaBird社のSBE41型のセンサーを用いて先に測定を行っている。 校正バスの吊り具位置は6ヶ所あり、それぞれ2ヵ所は相対している。 基準器(定位置)に対する位置を3回にわたって変え、 設定温度30℃から1℃までを測定したところ、 いずれの場所においても基準器との差は2mK以内であり、 Argo計画で求める水温精度を確保している事が分かった。 そこで今回の温度分布実験は、校正バスの半径方向と鉛直方向とに分けて それぞれ2回ずつ行うこととした。 S/N 2522のセンサーを基準器とした。 設定温度は30℃、24℃、20℃、15℃、9℃、5℃、1℃の7点とした。 なお、実験当初、チラーによる温度コントロールの不良が原因で、 低温での温度が安定しなかったため、 半径方向の1回目の測定では設定温度が30℃、24℃、20℃、15℃の4点のみ 結果が得られた。 基準器において、各設定温度の標準偏差が3mK以内に到達し、 その温度を1時間保持した後に約10分間の測定を行った。 温度分布測定時の校正バス内における各センサーの半径方向測定の 1回目と2回目の配置を図3に、鉛直方向測定の1回目と2回目の配置を図4に示す。 全ての測定で基準器は、校正バスの吊り具位置となる水面から深さ20cm、 攪拌器から9cmの場所にセンサーを上方に向けて設置した。 半径方向測定の1回目では、S/N ex06のセンサーを基準器と同心円上の点 (以下基準円)から内側へ7cm、 S/N2609とS/N1207のセンサーを基準器の対称点から外側へ3cm毎に設置した。 半径方向測定の2回目では、 基準円から内側へ3cm毎に、S/N ex08 とS/N ex06のセンサーを、 基準円から外側へ3cm毎にS/N2609とS/N1207のセンサーを設置した。 なお、センサーの設置深度は水面下20cmで、 センサーの向きは上方である。 鉛直方向測定の1回目は、基準円より、水面下40cm、50cm、70cmにセンサーを 下方に向けて設置した。 鉛直方向測定の2回目は、同じく基準円より、水面下30cm、50cm、70cm、90cmに センサーを下方に向けて設置した。


図3 半径方向の温度分布測定におけるセンサーの配置
Figure 3 Locations of temperature sensors (SBE3) during the measurement experiment of temperature distribution in radius direction.


図4 鉛直方向の温度分布測定におけるセンサーの配置
Figure 4 Locations of temperature sensors (SBE3) during the experiment of temperature distribution measurement in vertical direction.

3.3. 温度分布測定結果 各設定温度における基準器の温度と標準偏差を表2に示す。 これより、検定時の校正バス内の温度は、 標準偏差0.2mKから0.7mKの範囲で安定していた事が分かる。 半径方向と鉛直方向の温度分布の測定結果を図5に示す。 各センサーの値は先に求めた器差であらかじめ補正した。 また、各測定方向の1回目と2回目の各設定温度における基準器の測定値差の処理は、 2回目の測定値に合わせることとし、 各センサーの1回目の測定値に基準器の測定値差を付け足して補正した。 図5から、半径方向では各設定温度において、 基準値との水温差の平均が水面下20cmの深さにおいて、 基準円の内側7cmから外側3cmまでの10cmの幅で±2mK以内に収まっている ことが分かった。 鉛直方向では水面下20cmから70cmまでの深さで±1mK以内に収まっている ことが分かった。 校正バスの外側と下側で計測値が基準値から大きく外れた原因は、 バス内の水は中央に設置されている筒内を上方から下方へ、 外側を下方から上方へと循環しているので、 その場所が攪拌器で循環している水の流れにぶつかり、 温度が均一になっていないためと考えられた。 また、基準器との水温差が±2mK以内となった場所において、 JIS Z 9090の「校正方式通則」6)に従い、誤差分散を計算したところ、 この校正バスが持つ校正の誤差範囲は±1.7mKという結果になった。


図5 温度分布実験における(上)半径方向の温度分布(下) 鉛直方向の温度分布。いずれも基準器(S/N2522)からの値のずれを示す。
Figure 5 Temperature distribution relative to reference points. Upper panel shows temperature distribution in radius direction, and lower panel does the same except for in vertical direction.

設定温度
半径方向測定
鉛直方向測定
Ref T[℃]
T Standard Dev [mK]
T Standard Dev <[mK]
30
0.66
0.67
24
0.46
0.62
20
0.73
0.43
15
0.20
0.66
10
0.35
0.46
5
0.53
0.44
1
0.25
0.57
表2 温度分布実験における各設定温度での測定時の基準器の標準偏差
Table 2 The standard deviation of reference sensor at each calibration point during the experiment of temperature distribution measurement.

3.4. まとめ

温度分布実験の結果をまとめると、 校正バスの半径方向では水面下20cmの深さにおいて、 基準円の内側7cmから外側3cmまでの10cmの幅で、 鉛直方向では基準円の水面下20cmから70cmまでの深さの範囲で、 水温差が±2mK以内になることが分かった。 また、この校正バスが持つ温度の校正誤差範囲は約±1.7mKであり、 Argo計画で求められている水温精度を確保できることが確認された。

しかし、この実験では温度センサー間の器差を除くことにより 精度良く実験を行うことができたが、 絶対値を必要とする校正では基準となるセンサーの精度が 正しいことが前提になる。 トライトン用センサーの校正に使用されている基準器の履歴では、 約5ヵ月間でわずか1mK以下のずれが生じるのみであることから、 温度センサーの校正結果からは、 基準器のずれはほとんど無視してよいと考えられる。 しかし、センサーが突然ずれる事も考えられ、 より信頼性のある検定を行うためにも、 SeaBird社以外に他のトレーサブルな温度センサーと 比較することが考えられた。

4. 校正バスで行われた各種センサーの検定について

4.1.  フロート用センサー(SeaBird社製SBE41型)の検定結果

2001年7月までに実海域へ投入したフロートのうち、 8本についてセンサーの検定を行った。 いずれのセンサーもSeaBird社製のSBE41型である。 自らの検定技術を確かめるために、納品直後に検定を行い、 メーカーとの比較を行った。 図6に各センサー毎の30℃から1℃までの各設定温度における 基準器との差の平均および標準偏差を示す。 また、表3に24℃における基準器と検定器の電気伝導度の差、 また24℃のときの電気伝導度から計算される塩分値を示す (文中においても、塩分値換算の場合24℃におけるものを使用する)。 図6から温度については、30℃から1℃において基準器と検定器の差が 1mK以内で、標準偏差は0.5mK以内と、 校正バスの計測誤差範囲内であることが分かった。 表3から、塩分の差については、 大幅にずれているS/N0158のセンサーを除いて、 Argo計画で求める塩分値0.01psuよりも高い精度であり、 S/N0158のセンサーを除いた差の平均は0.0042psu、 その標準偏差は0.0016psuであった。 基準器とS/N0158の塩分の差は0.016psuと大きく、 原因については以下の事柄が考えられる。 S/N0158のセンサーは2000年9月に購入したフロートであるが、 メーカーの校正日より1年近く経過した後に、 初めてセンターで検定を行っている。 購入してから検定するまでの間は、フロートの浮力調整を3度行っており、 フロートの解体などの作業を行っているうちにセンサーを汚してしまった 可能性が考えられる。 S/N0158のセンサーに関して、センターでの検定を4度にわたって行っており、 それぞれの差が0.5mK程度であった為、 センターでの最新の検定結果を用いてこのセンサーを校正した。

松本ら(2001)4)も指摘しているが、 このシステムにおける電気伝導度検定の誤差は (1)標準海水自体のエラー(2)バスの温度特性 (3)オートサルによる計測(4)採水作業 (5)バス内の基準器(電気伝導度センサー)の補正等、 温度検定よりもエラー要因が多数存在する。 また、松本ら(2001)4)によれば、 SBE37型のセンサー検定でメーカーとの比較では差の標準偏差が 6S/mにおいて、0.7mS/mであり、 塩分値換算でほぼ0.006psuの値が報告されている。

基準器の経時変化を監視するために、 検定後に毎回、基準器としている電気伝導度センサーの補正係数を求めている (図7)。 補正係数とはオートサルで測定した電気伝導度比から計算した電気伝導度と、 設定温度24℃の時の基準器の電気伝導度との比をとったものである。 この値を毎回トレースする事によって、 基準器の精度および電気伝導度についての検定精度を確認している。 これによれば、図中の円で囲った値のうち、 最も大きくずれた1月25日の補正係数で基準器を補正する場合、 補正しなかった時との差が塩分値換算で 0.028psuになる。 また、この時に採水した3本の塩検ビンのオートサルによる塩分測定値は、 それぞれ32.3343psu、32.3358psu、32.3328psuで、 最低値と最高値で0.003psuの差があった。 このように塩分値に差がでた原因としては、 標準海水の測定においてオートサルは安定していたので、 使用した塩検ビンが十分乾燥せずに水滴が混入していた事による、 採水自体の失敗が考えられた。この様な検定は失敗とみなし、 再検定を行うこととしている。

以上のように電気伝導度検定の複雑さを考慮して、 トライトンブイ用センサーの検定では、 電気伝導度の検定結果が基準器の測定値から0.001S/m以上離れた場合には 再度センサーを校正するというように、 校正基準が温度に比べるといくらか低く設定されている。 そこで、フロート用校正バスでも、トライトン用校正バスと同様に、 当面は0.001S/mを校正基準に設定し、 センサーの検定本数をこなしていくうちに独自の校正基準を設けるようにする。 校正バス内の気泡が電気伝導度センサーに付着する事によって計測値が 変化する問題は、基準器にポンプが備わったことでほとんど解決しているため、 基準器の測定エラーは小さくなり、校正基準は高くなることが期待される。


図6 設定温度7点における温度センサーと基準器の差の平均(◆)及び 標準偏差(エラーバー)。
Figure 6 Average(◆)and standard deviation (error bars) of temperature differences (residuals) from reference sensor at 7 calibration.


図7 オートサルにて測定した電気伝導度と校正バスの基準器が 測定した電気伝導度の比を表す。 縦軸は比で、横軸は年月日を示す。 この値が1から大きく外れた場合は採水ミスを疑い、再検定を行う。
Figure 7 Conductivity ratio (correction factor to reference conductivity sensor) is shown for each calibration date, calculated as the ratio of measured conductivity to true conductivity calculated from sampled salinity measured with Autosal®. The ratio sometimes shows large difference as indicated with a large circle, in most case, such values are caused by a contamination during water sampling.

4.2. フロート用センサー(FSI社製EXCELL型)の検定

この校正バスではSeaBird社製の電極式センサーの他に、 フロート用に開発され製品化されているFSI社製EXCELL型の 電磁誘導式センサーの検定も試みた。 電極式の電気伝導度センサーは、 センサー内部の電極で直接海水に電流を流して電気伝導度を計測する のに対し、電磁誘導式の電気伝導度センサーはセンサーの周りに 電磁誘導により間接的に電流を発生させ、 電気伝導度による電流の変化を検出している。 検出部の構造によってはこの電流の流れる場が大きいので、 正しく塩分校正を行うには校正バスの検定可能な計測範囲より場が 小さい事が必要である。FSI社製のセンサーの検定に使用した基準器は、 SBE41型を検定したときと同じS/N 2522のセンサーである。 電気伝導度センサーの場を考慮して、 センサーが校正バスの計測範囲の中央に位置するように設置した。 温度に関しては、基準器との差が±1mK以内であり、 Argo計画で求める測定精度には十分な結果であったが、 電気伝導度に関しては基準器との差が非常に大きく出た。 原因として考えられる要因の一つとしては、 電気伝導度センサーの計測範囲が校正バスの大きさを越えている ということである。 このため、FSI社製のセンサーについて、 校正バスよりも幅の大きなコンテナを用意し、 コンテナの壁とセンサー間の距離を変えながら電気伝導度を計測することで、 電気伝導度センサーの計測範囲を確認する実験を行った。

寸法44×64×34cmのコンテナに人工海塩を溶解させた水を入れ、 その中に白金水温計と攪拌器を入れて簡易バスを作った。 簡易バスの中にFSI社製のセンサーを入れて、 簡易バス内の中央層(9点)、下層(9点)、底層(9点)の 合計27点でそれぞれ1分間ほど計測を行い、 簡易バスの電気伝導度との比較を行った。 簡易バスの電気伝導度は、 採水した簡易バスの水の電気伝導度比をオートサルで測定し、 そこから計算して求めたものである。 図8はセンサーの測定点を示したもので、 最も壁から遠い点は縦壁(短辺)から32cm、横壁(長辺)から22cm、 底から15cmのA1(中央)であり、 最も壁に近づく点は縦壁から8cm、横壁から5cm、底から4cmのC3(底層)になる。 図9は中央層、底層の各層をA1からC1へ、A2からC2へ、 A3からC3へセンサーを移動した場合の測定結果である。 ここでは、最も設置条件が良いと考えられる中央層と、 最も設置条件が悪いと考えられる底層とで比較を行うことにした。 図9より最も設置条件がよいと思われる中央A1からC1のラインで、 すでに電気伝導度が0.1%以上減少していることが分かる。 これは塩分値に換算して0.03psuもの違いが出る。 これより、この実験で使用した簡易バスの大きさではFSI社製の 電気伝導度センサーの計測領域は確認できず、 この簡易バスよりもさらに計測範囲の狭いフロート用校正バスでは 検定が不可能であることが分かった。 現在の校正バスではFSI社製の温度センサーの検定は十分に行えるが、 電気伝導度センサーの検定を行う場合は、 より大きな校正バスを用意する必要がある。 それにはまず、より大きな簡易バスを用いて、 電気伝導度センサーの計測範囲を正しく確認する必要がある。


図8 簡易バス内のFSI社製センサーの設置場所。 水平方向にA1からC3までの9ヶ所を設け、 それを鉛直方向に中央、下層、底層の3層で計27箇所にて計測を行った。
Figure 8 Location of FSI sensor for the wall effect experiment of conductivity sensor of "Inductive cell". The wall effects were measured at 9 points horizontally (A1 to C3 in the upper panel), and at 3 levels (middle to bottom in the lower panel).


図9 FSI社製センサーを簡易バスの中央層と底層の A1からC1へ、A2からC2へ、A3からC3へ移動した時の電気伝導度の減少。
Figure 9 Results of wall effect experiment for middle layer and bottom layer. The horizontal axis shows the distance from sidewall, and the vertical axis shows the ratio of conductivity reduction.

5. まとめ

本論文ではArgo計画で使用される校正バスの温度特性を明らかにし、 このシステムが持つ誤差範囲を求めることが第一の目的であった。 また、フロート用に開発されたセンサーの検定結果を併せて報告した。 以下に要旨をまとめる。

  1. 校正バスの温度分布測定から、 半径方向では水面下20cmの深さにおいて基準円から内側へ7cm、 外側へ3cmの合計10cmの範囲で、 鉛直方向では基準円の水面下20cmから70cmまでの深さの範囲で、 ±1.7mK以内の誤差範囲で温度の計測が可能であることが分かった。
  2. 基準器に関して、電気伝導度センサーは標準海水により トレーサビリティーが確保されるが、 温度センサーのトレーサビリティーが現状では確保されていない。 信頼性のある検定を行うためにも、 今後はSeaBird社以外で他のトレーサブルな温度センサーと比較 していく事が考えられた。
  3. 現在までに投入を行ったフロートの内、 8本のSeaBird社製のSBE41型センサーについて検定を行っており、 温度については30℃から1℃までの各設定温度で、 基準器との差の平均が約1mK、標準偏差が0.5mK前後であった。 また電気伝導度については、 S/N0158のセンサーを除いて24℃において基準器との差の平均が 0.5mS/m(塩分値換算で0.0042psu)、 その標準偏差が0.2mS/m(塩分値換算で0.0016psu)であり、 Argo計画で求める塩分精度0.01psuより高い精度であった。
  4. S/N0158のセンサーは、 24℃において基準器との電気伝導度の差が2.1mS/m(塩分換算で0.016psu)と、 Argo計画で求める精度より低かったため、 最新の検定結果の補正係数を用いて校正した。
  5. 校正バスによる電気伝導度検定の手法の複雑を考慮して、 フロート用校正バスでは、電気伝導度センサーの校正基準を トライトン用校正バスと同様に、 当面は0.001S/mを校正基準に設定し、 センサーの検定本数をこなしていくうちに独自の校正基準を設けるようにする。
  6. 現在センターで運用している校正バスでは、 FSI社製の温度センサーについての検定は十分行えるが、 電気伝導度センサーについては、 センサーの計測範囲が校正バスの大きさを越えてしまうため、 検定が不可能であった。 今後、FSI社製の電気伝導度センサーを検定する場合は、 現在の校正バスよりもさらに大きな校正バスを用意する必要がある。

謝辞

すでにトライトン・プロジェクトでセンサーの校正を行っている (株)マリン・ワーク・ジャパンの長濱哲哉氏から 校正バスの運用技術およびセンサーの校正技術を教えていただき、 Argo計画にもその技術を取り入れることができた。 また、校正バスの温度分布測定を行うに際しセンサーの器差計測には、 海洋観測研究部の河野健氏より小型恒温水槽を借用した。

引用文献

  1. 水野 恵介,"高度海洋監視システム(Argo計画)構想について",日本造船学会誌,854, 485−490(2000)
  2. Stephen C. Riser and Dana D. Swift,"Long-Term measurements of salinity from profiling floats",Journal of Atmospheric and Oceanic Technology,(2001,Submitted)
  3. 小林 大洋,市川 泰子,高槻 靖,須賀 利雄,岩坂 直人,安藤 健太郎,水野 恵介, 四竃 信行,竹内 謙介,"HydroBaseを用いたArgoデータの補正法T−ポテンシャル電気 伝導度の導入", 海洋科学技術センター試験研究報告第44号,(2001)
  4. 松本 健寛,長濱 哲哉,安藤 健太郎,植木 巌,黒田 芳史,高槻 靖,"トライトンブイ の水温・塩分(電気伝導度)計の経時変化と補正",海洋科学技術センター試験研究報告第 44号,(2001)
  5. SeaBird Electronics,Application note no.31,(1995)
  6. JIS Z 9090,測定−校正方式通則,日本工業標準調査会,(1991)