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アプリケーションラボ(APL)

APLコラム

茨城県の海岸に打ち上げられた多数のイルカと海洋異変について

4月10日の朝、茨城県の海岸に、150頭以上のカズハゴンドウイルカ(Peponocephala electra)が打ち上げられているのが見つかりました。原因は不明です。ここでは当時の海洋の状態を中心に考察してみましょう。

図1は海洋研究開発機構アプリケーションラボが定期的に発信しているJCOPEデータを用いて、今年の4月1日から10日の海面水温が平年値とどのくらい違っていたかを示したものです。厳しい冬が続き、茨城県の沿岸域には例年より3度以上も低い海水温が広がっていました(図1赤矢印)。JCOPEの海流のデータ(黒矢印)によれば北から冷たい親潮が入り込んでいる状況だったことがわかります。このような海洋の状況がイルカの行動になんらかの影響を与えた可能性があります。

図1 最近6年間の4月上旬の日本近海の海面水温異常(カラー)と10メートル深の海流(矢印)

カズハゴンドウは親潮と黒潮の混合域の餌生物の密度の高い水域で捕食活動をしていたと考えられます。この種類のイルカは暖海性なので、混合水域の冷たい親潮の複雑な挙動に少なからず影響を受けた可能性があるのです。沖合いから茨城県の遠浅の沿岸に移動し、漂着してしまったのは、沿岸域に移動したところ、遠浅であるため、超音波を使用したエコロケーションによる位置確認に乱れが生じたことが直接的な理由として考えられます。

この種類は集団で行動しているので、群れの行動をリードする個体(複数個体)がシャチや大型のサメによる追跡を受け、沿岸域に集団をミスリードしてしまったのかもしれません。しかも沿岸域には親潮系の冷水が入り込んでいるために暖海性のカズハゴンドウは衰弱し、海岸に漂着した可能性があります。過去を振り返ってみると2011年春にも茨城県海岸で多数のイルカがうちあげられたという報告があります。この時も沿岸域には冷水が入り込んでいたようです。

地磁気の乱れによってリーダーのエコロケーションに狂いが生じた可能性もあります。この種の乱れの空間スケールは千キロメートル以上と大きく、図2に示した茨城県にある日本基準の地磁気観測所―柿岡地磁気観測所―のデータが参考になります。今回のイルカ異変の期間では絶対値が46000nTに対して、変動成分は100nTですから、変化分は0.2%以下とわずかであり、今回のイルカの異変については磁場変動によるものとは考えにくいようです。

図2 柿岡地磁気観測所で観測された地磁気変動 (単位はnT:ナノテスラ、H:水平成分、X:北向き成分、D:偏角、F:全磁力)

死亡したイルカの解剖結果や病理学的な報告が待たれます。イルカの集団上陸死は各地で頻繁に報告されていますから、その真相を究明するために海洋物理学、気候学、地球物理学、海洋生物・生態学、病理学などの専門家が学際的視点から調査研究を進める必要があります。

美山 透(海洋物理学/JAMSTECアプリケーションラボ)
宮澤泰正(海洋物理学/JAMSTECアプリケーションラボ)
宮崎信之(海洋生物学/東京大学名誉教授)
浜野洋三(地球物理学/JAMSTEC地球深部ダイナミクス研究分野)
山形俊男(気候力学/JAMSTECアプリケーションラボ)