最近の水温の状況と海洋熱波・寒波(2021/1)

最近の水温の状況

先月から今月にかけての日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。

図1は、昨年12月10日と今年1月19日の海面の水温の平年との差を見たものです[1]。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく12月10日と1月19日の、水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。

大蛇行が先月より成長しており、冷水渦がはっきりしてきています(図1,2、A)。大蛇行の影響で黒潮が東海沖では北寄りを流れ、沿岸で平年より温度が高くなっていますが先月ほどではありません(図1,2、B)。以前に大蛇行からちぎれた冷水渦が九州南東に近づいています(図1,2、C)。

親潮周辺では「2020年の親潮をアニメーションで振り返る(親潮ウォッチ2021/1)」で解説したように、暖水渦が東に寄り親潮の南下をさまたげる効果が弱くなっており、先月より平年より高い水温の領域が小さくなり(D)、平年より低い領域が大きくなっています(E)。

黒潮続流が平年より北を流れているため、水温が平年より高くなっています(F)。

先月の記事で触れていた日本海の高い水温(G)は12月中旬以降の大雪の降雪量増加の一因となった可能性があります。(気象庁「令和2年12月中旬以降の大雪と低温の要因と今後の見通し」(PDF)5ページ目参照。「対馬暖流」が強く大雪?も参照)。寒気に熱を奪われて海面では日本海南部や東シナ海では平年より冷たくなっています(図1(b))。しかしながら、海面の日本海北部(図1(b))や、日本海の海面下(図2(b))では平年より高い水温が続いています。

今後の日本周辺の水温については、「季節ウォッチ」も参考にしてください。

Fig1

図1: 海面の温度の平年との差(℃)。[上段]2020年12月10日。[下段] 2021年1月19日。

 

Fig2

図2: 水深100mの水温の平年との差(℃)。[上段]2020年12月10日。[下段] 2021年1月19日。

海洋熱波・海洋寒波

海洋熱波とは、数日から数年にわたり急激に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は過去100年間で大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。

図3は、海洋熱波でよく用いられている基準[2]を使って日本周辺の海面での海洋熱波の発生状況を見たものです。数字が1以上になっている所が統計的に10%以下しか発生しない高い温度である海洋熱波が発生している所です。数字が大きいほど強い海洋熱波であることをしめしています。図1(b)が平年よりどれだけ水温が高いのかを温度差でしめしているのに対し、図3はその温度のまれさの度合いをしめしています。

日本の南方や、日本海北部、黒潮続流で海洋熱波が発生しています。北海道南東では暖水渦により局所的に海洋熱波が発生しています。

一方、平年より温度が低い海洋寒波も発生しています(図3で負の値)。黒潮大蛇行による冷水渦、東シナ海、北海道東方沖が海洋寒波になっています。

Fig3

図3: 2021年1月19日における日本周辺海面の海洋熱波と海洋寒波の発生状況。

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2012年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。
  2. [2]JCOPE2Mの1993~2012年のデータを使い、統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合に海洋熱波としています。平年との差が海洋熱波の基準(90%タイルと気候平均の差)の2倍以上である場合は2,3倍以上である場合は3とカテゴリー化しています。笹川平和財団・海洋危機ウォッチ「【研究紹介】 海洋熱波 -marine heat waves-」参照。逆に統計的に10%以下(10パーセンタイル)の低温が5日以上続いた場合には海洋寒波としています。