Seasonal Prediction

 熱帯太平洋のエルニーニョ/南方振動現象(ENSO)とENSOモドキ、熱帯インド洋のダイポールモード現象(IOD)は世界各地の天候と私たちの社会に非常に大きな影響を与えます。したがって、これらの気候変動現象の発生を事前に予測することができたならば、私たちの社会にとって非常に有益となります。1980年代中盤以降、世界中の多くの研究所と気象予報機関はENSO予測のための様々な数値予測モデルを開発してきました。また、最近ではいくつかの先端的なモデリンググループがIODとENSOモドキの予測に挑戦しています。

 この数十年間で数値天気予報の分野は目覚しい進歩を遂げ、天気の数値予測は私たちにとって、とても便利なものであることが認識されてきました。天気予報は比較的短期間(約一週間)の予測なので、海洋は変化しないという仮定のもとで大気モデルのみを用いて行うのが一般的です。しかしながら、大気―海洋相互作用に強く依存するENSO、ENSOモドキ、IODを予測するのに大気モデルのみを用いるのは理想的ではありません。大気―海洋相互作用を現実的にシミュレートする大気海洋結合モデルを用いるのは極めて適切な方法でしょう。

 私たちはEU―日本の共同研究のもと、気候変動予測のためにSINTEX-F1大気海洋結合モデルを開発しました。2005年来この季節予測システムを用いて1年先までの気候変動予測を行い、その予測情報をJAMSTECのウェブサイト上で公開してきました。私たちのモデルの季節予測は多くの成功を収め、SINTEX-F1はIOD、ENSO、ENSOモドキなどの熱帯の気候変動現象の予測に関して世界最先端のモデルの1つとなりました。

モデル

 EU-日本の共同研究で開発した大気海洋結合大循環モデル「SINTEX-F1」を使用しています。SINTEX-F1は大気モデルECHAM4と海洋モデルOPA8で構成されます。ECHAM4は約100kmの水平解像度、19の鉛直層数を持っています。OPA8は2度のメルカトルメッシュ(赤道付近では約0.5°)、31の鉛直層数を持っています。大気モデル、海洋モデルはカップラーOASIS2を通して、フラックス調整することなく2時間毎に結合しています。

初期値とアンサンブル実験

 大気海洋結合システムは強い非線形性を持つため、初期値や使用する物理スキームの違いによって得られる解がばらつきます。したがって、初期値や物理スキームの違いに起因する予測の不確実性を軽減するために、多くのアンサンブルメンバーで予測を行っています。私たちの予測システムでは、初期状態を作成する際にモデルの海面水温を3段階の強さで3種類の観測海面水温に緩和しています。さらに、その各々に対して3種類の大気―海洋結合スキームを使用しています。合計で27のアンサンブルメンバーで季節~経年の気候変動予測を毎月実施しています。