精密培養・飼育班

「海洋酸性化の影響を測る」

木元 克典(海洋研究開発機構)
 生物が受ける海洋酸性化の影響の度合いを数値で評価することは難しい。炭酸カルシウムを構成する炭酸イオンの濃度は、通常、水深が深くなるほど低くな り、北太平洋高緯度の海域では、水深150mを境にそれより深い水深で急激に低くなることが知られている。海洋酸性化が進行しなくとも、こうした深層の環 境では、普段から炭酸カルシウムが溶け易い環境になっている。従って、浅い水深に生息するプランクトンの炭酸カルシウム骨格と深い水深に存在する同じ種類 の骨格の密度を測定することで海洋酸性化による溶解の度合いを知ることができる。
 そこで海洋研究開発機構は、北太平洋西部高緯度域のカムチャッ カ半島沖の水深150mと1000mでプランクトンネットを使って浮遊性有孔虫Globigerina bulloidesを採取し、最近開発してきた新しい手法(マイクロX線コンピュータ断層画像法:X線CT画像法)を使って、炭酸カルシウムの骨格密度を 調べた。画像全体が青いのは背景色で、殻の中は空洞なのでそこも青く色づけされている。赤から黄緑色に縁取りのように写っているのが骨格の断面である。色 が赤いほど骨格密度が高い事を表し、色が青に近づくほど密度が低い事を表す。左のCT画像で外観を見る限りでは、水深150mと1000mで違いは見られ ないが、右のX線CT画像では、水深150mの浮遊性有孔虫の骨格断面は赤く、密度が高いのに対して、1000mの浮遊性有孔虫では骨格断面の色が黄色か ら黄緑さらに青色の部分が増えていて、密度が低くなっていることがわかる。
 このX線CT画像を利用した方法を確立することによって、世界でもっとも深刻な海洋酸性化が進行している北極海に生息する生物の炭酸カルシウム骨格が溶けていく様子を数値で表現することで、酸性化の影響評価が可能になると期待される。

酸性化を測る用の図
海洋研究開発機構 木元克典/東北大学 佐々木理

図の説明:北太平洋の西部にあるカムチャッカ半島沖の水深150m(上の画像)と1000m(下の画像)で採取された浮遊性有孔虫Globigerina bulloidesの炭酸カルシウムの骨格密度。左図は、Globigerina bulloidesの表面をスキャンし、コンピュータ上に再構成したX線コンピュータトモグラフィー(CT)画像。中央図は、左のX線CT画像をコン ピュータ上で切断した断面図。右図は、断面骨格の密度を数値化し、数値を色で表現した X線CT画像。画像提供:独立行政法人海洋研究開発機構・木元克典/東北大学総合学術博物館・佐々木理