現場観測班

現場観測班 成果報告4

連携研究者:北海道大学山口 篤准教授・松野孝平博士課程3年

1. 研究方法
海洋生態系において、生物を介した深海への物質輸送は「生物ポンプ」と呼ばれる。このうち、セジメントトラップによって採集される、動物プランクトンの糞や死骸による輸送分は、受動的輸送「パッシブフラックス」と呼称される。一方、動物プランクトン自体が鉛直移動することによる輸送分は、能動輸送「アクティブフラックス」と呼称され、動物プランクトン相に季節的な鉛直移動を行うカイアシ類などの割合の多い高緯度海域(南大洋や北太平洋亜寒帯域)では、パッシブフラックスと同等ぐらいの輸送量があることが知られている。

北極海は環境の季節変化が顕著で、動物プランクトン相には季節的な鉛直移動を行うカイアシ類が卓越するため、アクティブフラックスによる輸送は多いことが予想されるが、その量の詳細は不明である。本研究は、北極海St. NAPのセジメントトラップ(180 m)に採集された動物プランクトンスウィマーを解析し、動物プランクトン輸送量、群集構造および主要種の個体群構造の季節変化を明らかにしたものである。主要種については、発育段階、油球蓄積量および雌成体の生殖腺発達も解析し、生活史解析の補助資料とした。

2. 研究経過
本研究によって得られた知見は、大きく以下の3点にまとめられる。1.動物プランクトン群集の種組成は季節的に大きく3群集に分けられ、特に極夜の1〜2月に群集構造が変わることが明らかになった。2.主要種としてカイアシ類4種の生活史が明らかになった。このうち2種は中層性の肉食性カイアシ類で、世界で初めての知見である。3.北極海の中層(180 m)に北太平洋産カイアシ類種(Neocalanus cristatus)の休眠可能個体(C5期)が周年を通して出現することが明らかになった、という3点である。
このうち、1の極夜にも動物プランクトンの群集構造が変わっていたことは、日照時間や水温変化といった環境変化の鍵刺激なしに、動物プランクトン(北極海産カイアシ類のCalanus hyperboreus)が自発的に休眠から覚醒し、再生産を開始していたことに起因しており、カイアシ類の体内時計の存在を示唆する、学術的に価値の高いものである。2の中層性カイアシ類の生活史を2種について明らかにしたことは、中層における物質循環を明らかにする上で、今後欠かせない知見である。3の太平洋産カイアシ類の休眠可能個体が北極海の中層に周年を通して出現していたことは、将来的に北極海の結氷期間が短くなれば、太平洋産カイアシ類が北極海に移入・定着できる可能性を示唆するもので、学術的また社会的なインパクトも大きい知見である。この内容はOxford Journalの国際誌「Journal of Plankton Research」に既に投稿しており、2013年3月現在、査読中である。

3. 今後の展望
現在解析の行われていない、1 mm以下の区分の小型スウィマーの試料や、次年度と次々年度の試料も解析を行っていく予定である。また、180 mの試料だけでなく、1300 mの試料に関しても深層におよぶ鉛直区分採集試料と合わせて解析を行う予定である。

また、現在は動物プランクトンによるアクティブフラックスは、個体数データ(ind. m-2 day-1)でのみ表現されているが、2013年の夏季〜秋季に行われる、北海道大学おしょろ丸とJAMSTECみらいの航海では、本研究で扱った動物プランクトンのバイオマスデータ(湿重量、乾重量、有機物、炭素および窒素量)を測定することによって、上記個体数データをバイオマス単位に変換し、パッシブフラックスと比較可能な単位(mg C m-2 day-1やmg N m-2 day-1)でのアクティブフラックス量を明らかにし、彼らの物質輸送に果たす役割を評価する予定である。

4. 成果発表
「学会発表 口頭」
1.Matsuno K., A. Yamaguchi, I. Imai, J. Onodera, S. Chiba and N. Harada. Seasonal changes in zooplankton community. ESSAS Annual Science Meeting, Hakodate, Japan, January 2013.
2.松野孝平・山口 篤・今井一郎. 北極海における動物プランクトン群集の水平、季節および経年変動について. 2013年度日本海洋学会春季大会 東京海洋大学(東京)2013年3月.

「学会発表 ポスター」
1.Matsuno K., A. Yamaguchi, I. Imai, J. Onodera, S. Chiba and N. Harada. Seasonal changes in mesozooplankton swimmers collected by sediment trap moored in the western Arctic Ocean. Third International Symposium on the Arctic Research – Detecting the change in the Arctic system and searching the global influence –, Tokyo, Japan, January 2013.