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研究紹介

 人が生物(生態系)から受ける恩恵,例えば,食糧,医薬品,汚染物質などを浄化する物質循環機能は,生態系サービスと呼ばれる.私たちは,今,生態系サービスを持続的に受けるためにはどうしたらよいか,を考える段階にある.日本は海洋国家で,海の生態系サービスに大きく依存している.私たちが海の生態系サービスを受けるためには,海の生態系の現状を理解することが大切である.それには,海にどのような種類が,どれだけ,いつ,どこにいて,どんな機能を持っているかを知る必要がある.それを知るために,世界80カ国2700人の海洋生物研究者が国際プロジェクト「海洋生物のセンサス」のもとにネットワークを組んでいる.
 日本からも「センサス」に参加し,日本の200海里以内(日本近海)に,どれくらいの種類の生物がいるかを評価した.バクテリアから大型哺乳類をあわせると,33629種が科学的に認識されていることがわかった.これは,全海洋生物種25万種の13.5%を占める.日本近海の容積は全海洋の0.9%にしか満たないが,その小さな容積に多くの生物種が生息していることになる.種の多様性からみれば,日本近海は生物の宝庫なのである.
 なぜ,日本近海の種の多様性は高いのだろうか.理由は2つ考えられる.一つは多様な環境があるためである.一般に,生物の種数は生息環境がバラエティに富むほど多くなる.日本は南北に長く,北には流氷,南にはサンゴ礁もある.深さは,波打ち際から9000mを超える超深海にわたる.海流は,暖流の黒潮と寒流の親潮の両方が流れる.海底は4枚のプレートがぶつかりあい複雑な地形を形成する.このような多様な環境があるために日本近海は生物の宝庫になっていると考えられる.もう一つは,日本は海洋生物の研究を積極的に推進し,多くのデータがあるためであろう.発展途上国近海や外洋,深海などは,データが極めて少ない.本当に日本近海が生物の宝庫なのかを知るには,これらの場所の調査が必要である.
 科学的に正式な記録がない種類数(出現予測種数)は,121913種に達する.これに既知の33629種を加えた155542種が,日本近海の総種数になるわけである.つまり,私たちは未だ20%の種しか認識していない.出現予測種数のうち,最も多いのが線形動物で,既知種はわずか70種に対し予測種数は115010種になる.「海洋生物のセンサス」によると,海全体では微生物の種類数は数千万から数億に達すると示唆されている.「センサス」は種数を評価するだけでなく分布情報も集め,データベースに集積している.これにより,海洋生物の多様性や分布に関するベースラインデータが誰でも利用できるようになった.海の生態系サービスを持続的に受けるために私たちはどうすべきか,それを考えるための科学的データがそろいはじめたのである.

関連論文
Fujikura, K., D. Lindsay, H. Kitazato, S. Nishida and Y. Shirayama (2010) Marine Biodiversity in Japanese Waters. PLoS ONE 5(8): e11836. doi:10.1371/journal.pone.0011836.

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