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研究紹介

 深海化学合成生物群集の食物連鎖は,光合成に依存した深海生物群集とは基礎生産者が異なる.深海化学合成生物群集を構成するメガベントスのうち,局所的に数10kg/m2を超えるような大きなバイオマスとなるような動物群(シロウリガイ類,シンカイヒバリガイ類,シボグリヌム類)は,共生細菌に栄養を依存している.相模湾初島沖の水深1180mには,メタン湧水に伴う化学合成生物群集が形成されている.クダマキガイ科腹足類のツブナリシャジクPhymorhynchus buccinoidesは,この群集の固有種であり密集して生息し局所的にバイオマスは大きくなる.本種は,還元環境を示唆する灰色/黒色に変色した堆積物域の1カ所の露頭にのみ見つかっている.
 我々は,相模湾初島沖の化学合成生物群集の食物連鎖と,ツブナリシャジクがなぜ特定の露頭にしか分布しないかを明らかにするために,ツブナリシャジクの食性を解析した.なお,これまでの研究で,ツブナリシャジクの消化器官内容物は空であるため,消化器官内容物からは食性を見いだせないことがわかっている.そこで,食性はin-situにおける摂食行動観察,同位体,共生細菌の有無,歯舌構造の観察,ベイトトラップによる蝟集効果実験によって解析した.その結果,ツブナリシャジクのδ13Cは同所に生息するヘイトウシンカイヒバリガイBathymodiolus platifronsに近い値となること,鰓には共生細菌がいないこと,歯舌は微小で機能的ではないこと,ツブナリシャジクは魚には蝟集しないが潰したヘイトウシンカイヒバリガイに蝟集することがわかった.これらのことから,ツブナリシャジクはヘイトウシンカイヒバリガイを摂食することが明らかになった.また,ツブナリシャジクは,おそらく生きているヘイトウシンカイヒバリガイを襲って捕食するよりは,むしろ死んだ個体の軟体部を吸引するように摂食していると推察された.ヘイトウシンカイヒバリガイは,他の露頭にも生息しているが,それらの場所にはツブナリシャジクは分布しない.したがって,ツブナリシャジクの分布を決める要因としては,食物環境だけでは説明できないことが示唆された.

関連論文
Fujikura, K., T, Sasaki, T. Yamanaka & T. Yoshida (2009) Turrids whelk, Phymorhynchus buccinoides feeds on Bathymodiolus mussels at a seep site in Sagami Bay, Japan. Plankton and Benthos Research 4:23-30.
Watanabe, H, K. Fujikura, G. Kinoshita, H. Yamamoto & T. Okutani (2009) Egg Capsule of Phymorhynchus buccinoides (Gastropoda: Turridae) in Deep-Sea Methane Seep Site in Sagami Bay, Japan. Venus, 67: 181-188.

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図1 ヘイトウシンカイヒバリガイBathymodiolus platifrons の殻表に産み付けられたツブナリシャジクの卵カプセル.
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図2 ヘイトウシンカイヒバリガイをつぶした後に蝟集するツブナリシャジク.

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