Sanae Sakai Ph.D.
研究技術専任スタッフ
物腰柔らかで、聡明な瞳がキラッと輝く酒井さん。ポスドク研究員として日々研究に打ち込む姿は真剣そのもの。さて、酒井さんはどんな研究をしているのでしょうか?実験室へお伺いしてみました。
★ 現在の研究テーマについて教えて下さい。
主に3つのテーマに取り組んでいます。1つ目はゲノム解析の仕事で、自ら分離をしたメタン生成古細菌のゲノム解析を行っています。2つ目は海底下や金山など極限環境に生息する微生物の培養を行っています。地球上に存在する99%の微生物は人為的に分離・培養されていないと言われています。最近では分子生物学的なアプローチを使うことによって微生物の培養を経なくても環境中にどのような微生物が生息しているかを確かめることが出来ます。しかし、それらの環境に生息する微生物が実際に何を食べ、何をしているかということは微生物を分離・培養しないとわからない訳です。そこで私は環境中から微生物を分離するという仕事をしています。ですが、難培養と言われる微生物が多く、その培養は一筋縄ではいかないんですけどね…。3つ目は、分離した微生物の分類の仕事です。新しい微生物を分離した場合、その微生物の菌学的特徴を決定し報告(記載命名)を行わないと、正式な分離株として登録されません。そこで、分離した菌株の最適な生育条件、何をエネルギー源として生育しているのかなどを決定します。そして、それら生理条件の比較、16S rRNA遺伝子を基にした分子系統解析などを行い、最終的には分離した菌株が系統分類学的にどのような微生物のグループに属するかを決定します。
★ 専門・好きな分野について教えて下さい。
専門は微生物学で、主に嫌気性細菌の培養を得意としています。大学院での研究テーマが未培養なメタン生成古細菌の培養だったため、未培養微生物やメタン生成古細菌、培養といったキーワードに反応してしまいます。特に好きな菌は?と聞かれれば、「メタン菌!!」と答えちゃいますしね・・・(苦笑)。そんなわけでメタン菌一筋だった私ですが、最近になってやっと真性細菌の培養にも手を出し始め、古細菌・細菌問わずいろいろな種類の微生物を培養してみたいという欲が出てきています。
★ 学生の頃から現在までの大まかな道のりについて教えて下さい。
父が建築関係の仕事をしている影響を受け、中学生のころは建築科のある学校に進みたいと思っていました。しかし、最終的に出身地である福島県いわき市にある高専の建設環境工学科(昔で言う土木科)に進みました。高専では構造力学やコンクリート工学、衛生工学など土木に関係する専門授業を受け、その中で、河川の水質汚染を微生物の働きを利用して浄化するという技術に興味を持ち、大学でも引き続き勉強することにしました。大学は新潟県長岡市にある長岡技術科学大学へ進みました。そこで当時、長岡技大で助手(現在でいう助教)をされていた、同グループの井町寛之主任研究員と出会いました。その頃から井町さんは難培養性微生物の培養に取り組んでおられ、その研究に加わったのがきっかけで微生物の培養に興味を持つようになりました。その後、井町さんがJAMSTECに移動されたことによって、私もJAMSTECで研究する機会を頂け、現在はポスドク研究員として働かせて頂いています。ちなみに、ポスドク研究員としての契約は3年が最長で、あと少しでその3年が終わろうとしているところです。
★ 現在のお仕事に対するお気持ちをお聞かせ下さい。
研究者になろうと思ったのは、学生時代から微生物の培養や実験が好きだったからです。研究が好きなのでこれからも続けたいです。しかし、実は現在の私の最大の関心事は家庭を持つことです。結婚してまだあまり経たないのですが、子供も欲しいし・・・。どうやって研究という仕事と家庭を持つという一大事を両立させていくかを模索中です。欲はそれほど強くないけれど、適度にわがままなので、ワーク・ライフ・バランスが今の私の一番の課題です。
★ お仕事をされていて良かったと思える時や大変な時はどんな時ですか?
微生物の培養が好きなので、これがうまく行った時はもちろん嬉しいですね。ターゲットにしていた微生物が順調に育ってくれた時、また、その微生物を分離出来た時は、目標達成の充実感を味わえます。でも環境中に生息する微生物には難培養な微生物も多く、その培養は一筋縄ではいきません。上手くいかないことの方が多いので、そんな時はやはりへこみます。それから、私は高専時代から工学系の勉強をしていたので、生化学はあまり得意ではありません。テーマの1つとなっているゲノム解析では生化学の知識を要求されるので、慣れるまで苦労しました。しかし、周りの方々の協力のお陰でなんとか結果をまとめることが出来つつあります。それから、雇用形態はある意味、悩みの種ですね。1年ごとの契約更新でしかも最長3年まで更新可能というような形態なので、特に女性が出産・育児をする場合また仕事へ復帰できるか、気になってしまいます。
★ インタヴュー後の感想 by 館洞
未培養微生物、メタン生成古細菌、培養・・・。これらのキーワードに反応してしまい、やる気が出て仕方がないという微生物プロの酒井さんですが、インタヴューを始めて数分ほどで、酒井さんの興味の対象は「研究」と、「家庭を持つこと」の2つであり、しかも今の酒井さんにとってその重要度は後者の方が高いということがわかりました。そこで、ここではヒューマニティーにも興味を持つインタヴュアーとして、女性の仕事と家庭の両立について書かせて頂くことにしました。
色々と誤解・曲解・批判・共感されがちな女性のライフ・ワーク・バランスがトピックとなりますが、私の結論は簡単です。幸運なことに、多くの現代の日本女性には3つの選択肢がある、ということです。1)家庭に専念する。2)家庭外での仕事に専念する。3)家庭と家庭外での仕事をバランスを取りながら何とかこなす。女性には本当に色々なタイプの女性がいて、それぞれが特性と好みを持っていますが、現在、酒井さんは上に挙げた 3)を目指しておられ、私はきっと酒井さんはその目標を達成されると思っています。もちろん、同じ女性にとっても上に挙げた3つの選択肢の希望優先順位が変化したり、前は仕事一筋だったけれど今は家庭が一番大切、と思うようになったり、色々な変化が起こります。大切なのは、自分が幸せだと思えるように自ら決断し、工夫を重ねて機嫌良く暮らせることだと思います。とはいえ、家庭を持ち、子供も欲しいとなると妊娠、出産、育児という一連の大プロジェクトには、愛情、時間、エネルギー、そしてお金も必要になってきます。そこでいかにこの大プロジェクトと、仕事を両立させるかに、多くの女性達が工夫を凝らし、努力し、一生懸命試行錯誤することになります。仕事か家庭かの選択に迫られ、どちらかを諦めなくてはならなくこともあります。しかし、私は酒井さんの研究に対する静かな熱意をお伺いして、きっと仕事も家庭も両立できるようになれると感じます。「欲はあまり強くなく、でも適度にわがまま」と酒井さんご自身おっしゃっているので、おそらく、適度に手を抜きながら楽しんでやっていける性質をお持ちなのだと思います。3)を目指す場合、全てに完璧を目指すのももちろん結構ですが、実際のところ「仕事も家庭も、もっともっと成功したい!」と欲を出しすぎて挫折したり失敗したりしてしまう女性の、何と多いことでしょう。私は酒井さんの優しい笑顔と聡明な瞳の輝きを見る度、きっと優しい奥様・お母様と研究者の三役をこなせる、と感じます。雇用形態等、すぐには個人の力で解決出来ないことも多いですが、可能な範囲内でも少しずつ努力し、人生の夢を叶えていけるよう、頑張りましょう。私も女性として酒井さんのお気持ちを察することが出来るので、自分のことのように応援しています!
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