和辻 智郎

Tomoo Watsuji Ph.D.
研究員
SUGARチームの「甲殻類ヒーロー」といえば和辻さん。深海サイエンスの最先端を行くレアなエビやカニ(スケーリーフットやゴエモンコシオリエビ)の飼育に挑戦し続ける姿に心を動かされる人は多く、なるほど、よく新聞社やテレビ放送局の方からお電話がかかって来るわけです。時には文字通り命懸けでこれらの採取・飼育を行って来た和辻さんの情熱のほどについてはBlueEarth108号をご覧下さい。(→こちらをクリック。)それではさっそくお邪魔してみましょう!

★ 現在の研究テーマの概要について教えて下さい。

    光の届かない深海では植物が育たないので、動物と微生物だけの世界が広がっています。そのような極限環境に住む動物の中には微生物と共生して生きている変わり者がいます。でも、意外とその共生関係について分かっていないことがたくさんあります。その原因の一つは深海動物を生け捕りすることの難しさにあります。つまり、生け捕りできれば、共生する微生物がどのように動物に利用されるかも調べることができるのに、捕獲の際の急激な水圧変化でバタバタと死んでしまい、そのような研究ができないのです。そのため、まずは深海共生動物の生け捕り方法や飼育方法を確立することを私は目指しています。そして、生きた共生動物を研究に用いてその巧みな共生の仕組みを調べるなど共生動物の本質に迫りたいと考えています。

★ どのような経緯で現在の研究に携わることになったのか教えて下さい。

    私が子供の頃の授業では環境問題、食糧危機、野生動物の絶滅などのトピックが時折、取り上げられる時代でした。そして、私はその度に心を痛めるようなナイーブな子供でした。また、当時これらの問題を解決する夢のような技術としてバイオテクノロジーがもてはやされていて、「これだ!」と乗せられた幼少の頃の私はそのまま農学部へ進むことになりました。

★ きっと子供時代からの純粋な志を持ち続け、大学時代も優秀な学生さんだったのでしょうね!

    実は大学院時代は大変だったんですよ!バイオテクノロジーの現場である農学部へ入ると、環境を変える程の力が微生物に備わっていることを知りました。微生物に惹かれて大学院へ進み、カビの呼吸についての研究に携わることになりました。ところが、嫌気呼吸、酵素等に関する研究を行ううち、うまくいかないことが多くなってきました。この状態が何年も続くことになろうとは当時は知る由もありませんでした。何と研究5年目に突入してもこの状況は改善されず、実験に次ぐ実験に失敗し、解決の糸口が見つからないまま時ばかりが経っていきました。辛い時期でしたね。そして、さらに指導教官だった教授が筑波大を去られて行きました。先生もいなくなってしまうというどん底の状況でしたが、逆に、「ああ、それなら自分でテーマを見つけて実験すればいいのか・・・!」と思いました。吹っ切れたことや見方を変えたことがプラスに働き、結果、実験は成功しました。行き詰まっていたのは実験の内容というよりも、常識という限られた視野のもとで研究を行っていたことに問題があったんだと思います。その後は多くの人に助けられながら、夢にまで見た卒業を何とかギリギリですることができました。

★ そんなご苦労があったとは、大変でしたね。それでも研究者になることを決められたのは、その博士課程3年目の最後の成功が  きっかけだったのですか?

    研究者になると決めたというよりも、運良く研究者になれただけです。しかも、現在は本当にありがたいことに、「海に関すること」という緩い縛りの中で自由に研究をさせてもらっています。そして、このJAMSTECという世界でもトップレベルの研究所で、日本人が誇りに思えるような研究を行いたいと思っています。あと、遠くない将来において飢餓が拡大すると予想していますので、食料問題の解決という研究策も練っているところです。学生時代はなかなか研究がうまくいかずに苦労しましたが、おかげで失敗の数とこなした実験量には自信があります。「失敗は成功のもと」と言われるように、今では身に付けてきた幅広い技術と共に役に立っています。

★ 頼もしいですね。では最後に、研究に対してのお気持ちをお聞かせ下さい。

    私は生物学が好きです。生物と関わる研究をすることが楽しいのです。なぜ生物が好きか?それは、研究対象の生物に対して自分と同じ「生き物」として愛情を持ちやすいからです。そして生物は不思議や謎に満ちています。それらを調べて理解したり、新たな発見をするのはとても面白いですよ!

★ インタヴュー後の感想 by 館洞

    どういうわけか、SUGARチームのメンバーには穏やかで朗らか、そして実際の年齢よりも若めに見える方が多いのですが、和辻さんはまさに典型的なシュガラー(SUGARER: SUGARチームの人、の意)です。会話の相手に対し独特の安心感を与える「カニとエビのプロ」だと思ってはいましたが、私自身その安心感がどこから来ているのか今回インタヴューをするまでわかりませんでした。しかし、ついに突き止めました。そう、和辻さんは、学生時代にとことん研究がうまくいかない辛さを知り尽くし、実験に次ぐ実験を重ね、それでも研究を投げ出すことなく、時に恐ろしく険しい研究者への道を歩んで来られた強者だったのです。ここまでやって来られたのは、和辻さん独自の「ピント合わせ能力」のおかげでしょう。つまり、今自分の手元にある研究・実験をうまくいかせるためにはどうしたらいいか、という「近距離」をしっかりと見つめると同時に、それらの研究が世界と人類、全ての生物を守ることや問題(たとえば食糧問題など)を解決することにどう役立たせることが出来るのか、またそのためにはどこから手をつけるべきなのか、という「遠距離」の対象も常に見ているということです。近くのものと遠くのものに常に目をやりながら研究をしているので、近くのものがちょっとうまくいかなくなってしまった時は遠くを見て目を休め、「あそこへ到達するためには、どうやって行けばいいか?」という風に、次の手順を考えられます。研究者を続けて行くための素質として、このような高度な「遠近両用フォーカス能力」は必須だと思いますが、特に和辻さんはその能力に付け加えて、その粘り強さとマイペースさが強みだと言えるでしょう。ご自分で発明された特別飼育水槽で飼っている深海のカニたちを優しいまなざしで見つめ、笑顔で「かわいいでしょう?」とおっしゃる和辻さん。そして、Blue Earth108号にもあるように、船が沈むかと本気で心配になるような嵐に遭おうと、海賊出没海域を航行中であろうと、「何が何でもスケーリーフットを生きたまま持ち帰るのだ!」とますます研究者魂を燃え立たせます。スケーリーフット研究等の関係でメディアに登場することも多く、これからも彼の研究とひらめきから目が離せません。
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