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大規模並列可視化

Last update : 2012.12.07

超水滴法によって再現された積雲形成と降雨現象の光学特性に基づく可視化表現

 地球シミュレータセンター(現・地球情報基盤センター)で開発された超水滴法を用いた雲形成の連結階層シミュレーションの結果を、光学計算に基づいて可視化する手法の研究を行っています。 情報・計算デザイン研究開発グループでは、モンテカルロフォトン追跡法を用いて積雲中の微小な雲粒による太陽光の多重散乱過程を追跡し、観測者の視線方向へ向かう放射木戸を推定ことで 積雲の光学特性を反映させたリアルな可視化を得ることに成功しました。




精密な光学計算に基づく積雲形成と降雨現象のリアルな可視化表現の例

 積雲を形成する雲粒や雨粒などの水滴の粒径は、0.1μm~1mm程度と、4~5桁程度の大きな幅があります。特に小さい雲粒ではその大きさが光の波長程度であるため、水面における光の反射や屈折のようなシンプルな幾何光学法則はもはや成立しません。ここではいわゆるMie散乱と呼ばれる極めて複雑な確率分布に従うことになります。このようなミクロなレベルで光の多重散乱過程を追跡することは、可視光~赤外域の大気放射による地球表面のエネルギー収支を考察する上でも重要なアプローチとなります。本研究ではこのような大気放射計算と同様の計算手法を可視化表現に応用しました。

 しかしながら、積雲中ではこのような散乱が無数に行われるため、多重散乱過程を厳密に追跡するのは極めて困難です。そこで本手法では、超水滴法に基づく積雲形成シミュレーションによって得られた有限個の超水滴粒子と有限個の仮想的な光粒子(フォトン)の確率的な相互作用をモンテカルロ法に基づいて追跡し、さらに散乱されたフォトンの空間分布から観測者へと向かう光の放射輝度を統計的に推定することにより、現実的に並列計算可能な規模に負荷を抑えて可視化処理を実行しています。

 こうして一連の可視化結果が上図のように得られました。積雲の形成から降雨にかけて積雲の質感が変化していく様子がよく捉えられていることがわかります。

MovieMaker

時間が経つにつれて変化する自然現象を数値シミュレーションすると、時間変化する数値データ が得られます。このような時間変化を伴うデータを観察・分析したい場合には、動画が非常に有効な手段となります。 しかし動画は非常に沢山の静止画像から構 成されているため、一本の動画を作成するには一枚の画像を作成するより遥かに作業時間が掛かってしまいます。 ましてや地球シミュレータで行われている大規 模数値シミュレーションから生み出される巨大なデータから動画を現実的な時間内で作成することは既存のツールでは到底不可能でした。

そこで我々は、そんな 巨大なデータからでも高速に動画を作成できるソフトウェア「MovieMaker」を開発しました。  MovieMakerの開発目標は「1TeraByte(*)のデータから一晩で動画を作れること」としていましたが、開発後の性能計測でこの目標を達 成した事が確認されました。MovieMakarは複数のCPUで処理する並列レンダリングソフトウェアで、ボリュームレンダリングや等値面、流線追跡といった可視化機能をもっています。この MovieMakerは既に研究分野を問わずに様々な可視化・動画作成に利用されています。




MovieMakerを用いた並列可視化におけるデータフロー

3Dベクトルデータの可視化

地球シミュレータでのシミュレーション結果を解析する際、大規模なベクトルデータ(例えば風 の動き)を如何に解析するのかは大変重要な問題です。多くの場合データが格納されている格子点上において、ベクトルを矢印などで表現し解析しています。こ のような表現は分かりやすい反面、扱う格子点が多くなると矢印が密に重なり合うことにより、シミュレーション結果の領域全体(例えば500^3のデータ) を、限られた大きさ(例えば500×500ピクセル)の画像の中で表現しようとすると、何を可視化しているのかがよく分からなくなります。

このような問題を解決するために、矢印など用いた手法ではなく、重なり合う状態を表現するのに適した手法であるボリュームレンダリングを用いて、ベクトルデータを可視 化する事を提案し、研究しています。このようなベクトル場の表現方法は、市販の可視化ソフトではまだ採用されていません。  ボリュームレンダリングを用いるためには、何らかの形でベクトルの成分で表される方向性、ならびに強さといった情報を、スカラー値のデータとして表すこ とが必要です。そのために、Line Integral Convolution (LIC)法などの手法に注目しています。

 LIC法とは、適当な値をもつ格子状のスカラーデータを用意し、各格子点上でベクトルの流線を追跡し、流線の方向に対して格子点上のデータを分布させる ことにより、ベクトル場の振る舞いを、スカラー値で表現する手法です。 LIC法を用いることにより、ベクトルデータを矢印などではなく、曲線的に色調や濃淡で直感的に分かりやすく表す事が出来ます。  そこで、従来2次元場の解析に用いられ開発されているこの手法を、3次元場の解析のために拡張しました。そして大規模なベクトルデータを間引かずに領域 全体を可視化し、その有効性を確認することが出来ました。

 しかしながら、現状のLIC法の計算は大変時間がかかるなどの問題点があります。 そこで、より高速に計算を行うことが可能で、さらに表現をより分かりやすく進化させた、ベクトル値のスカラー値による表現手法を研究しています。



3D LIC法を用いた台風の可視化例



3D Comet-Like Tracer(CLT)法を用いた台風の可視化例

球ジオメトリデータの可視化

地球シミュレータセンター(現・地球情報基盤センター)では、地球の大気や海洋のコンピュータシミュレーションを行っています。それらのシミュレーション結果のデータは、矩形の座標系のデータとして可視化していますが、 地球は実際には球形です。

そこで、実際の地球のように球座標上(緯度・経度・高度)にデータを配置して、雲などを可視化するためのボリュームレンダリングツールを開発しています。このツールを用いることで、地平線が丸くなっている衛星写真のような可視化画像を得ることができます。



球ジオメトリのまま可視化した台風の例