ちきゅうレポート
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「エヌビーシーの戦い(修羅の刻・外伝)」2010年9月30日

むか~し、むか~し、沖縄のニライカナイと呼ばれるところに、「イヘヤキタ」とよばれる海の底に、小さな生物たちの村があったそうじゃ。

イヘヤキタ村には、ふるくから言い伝えがあってのぉ~、

・・・マグマ大使とかいう神さんが、イヘヤキタ村の、さらに地の底の深くにねむっておられる、そのおかげでイヘヤキタ村は、あったかくて、すみやすくて、たいそう豊かな地の恵みがある・・・といわれておったんじゃ。

イヘヤキタ村には7つのおーきな岩があったんじゃ。

それぞれエヌビーシーNBC、エスビーシーSBC、シービーシーCBCとか、それはそれはダッサ~い名前がつけられておったんじゃ。

マヤ暦1995年に、トクシュホージンとかいう今は滅んでしまった遠い国の、おおそうじゃ、ジャムステックとかいう名の国じゃったとオジイにきいたさー、それがイヘヤキタ村に侵攻してきてのぉ、その侵攻軍の一味にいた「黒めがねイシバシジュンイチロー」とよばれるおっさんくさい若者が、North Big Chimney, South Big Chimney, Central Big Chimneyというように安易な名前をつけたそうじゃ。センスがみじんもかんじられんのぉー。

なぜワシが平気でイングリッシュをしゃべれるかって、それは突っ込み禁止じゃ。物語の構成上しかたないんじゃ。しかも、市原悦子ナレーションバージョンだったはずが、気がつけば一人称物語に変わりつつある。さすがに後先考えずに、物語をつくるとロクなもんにならんのぉー。まあいい、しょせん読者は、数人じゃ。

さてさて、その大岩じゃったのぉー。大岩からは、熱くてクッサーイ水がふきでているんじゃ。その熱くてクッサーイ水のおかげでのぉー、ワシらコシオリエビは暮らしていけるんだがのぉー。

見てみぃー。ワシの立派なひげを!ムナ毛を!わき毛を!ギャランドゥ毛を!もも毛を!すね毛を!一つ飛ばしたが気にするでない。

この立派な剛毛には、極限環境微生物がびっしり「よーしょく」されとるんじゃ。見よ、ワシのムナ毛を、硫黄食いとメタン食いのプロテオバクテリアで、アデ○ンスも真っ青のふさふさじゃわい。

これをのぉー、このバルタン星人のような手でしごくんじゃ。ときには脚も使うがの。で、たっぷりとれたこのプロテオバクテリアを、グワッてほおばるとのぉー、

「うわー、プロテオバクテリア味の宝石箱やー」

てな具合になるんじゃ。

おっと、年をとると話が脱線していかんのぉー。とにかく、この大岩たちは神聖な場所として、イヘヤキタ村のすべての者どもから崇め恐れられておる場所なんじゃ。

なかでものぉー、エヌビーシーと呼ばれる大岩こそ最も神聖な場所とされておったんじゃー。30mはあろうかその偉容。てっぺんから吹き出す白い炎のような熱臭水。それはそれは神聖な場所だったんじゃ。

エヌビーシーの近くに住んどるワツジと呼ばれる顔のでかいコシオリエビがおるんじゃが、ここ数年、よく「ユーフォー」みたいな未確認飛行物体が飛来してのぉー。ときどき人間とよばれる恐ろしい生き物が「コシオリエビ」を誘拐したり、エヌビーシーをたたいたりしている姿が目撃されておるんじゃ。

村の者のなかには、「いつか人間がエヌビーシーを破壊しにくる」ってパニックになっている奴もおってのぉー。いやいやあのエヌビーシーが、人間ごときに破壊されるはずがなかろうと長老たちは騒ぎを鎮めとったんじゃ。

たしかに、エヌビーシーはキラキラした金属の固まりでの、いま話題沸騰中のレアアースメタルの宝庫と考えられておるがのー。しかもあのエヌビーシーの中にはワシらが食ったことない、超好熱メタン菌とかいう世界3大珍味もおるらしいがのぉー。食ってみたいのぉー。

じゃがのぉー、あのエヌビーシーにピンポイントでドリル砲をぶち込むのはどうかんがえても無理じゃろー。無駄・無駄・無駄・貧弱ぅ・貧弱ぅ・貧弱ぅ。

ところがじゃ、ゾロアスター暦2010年9月26日のことじゃったかのぉー。ついに来たんじゃ。その時が。ドクリツギョーセーホージンと名を変えたジャムステック国の1031(てんさい)ちきゅう船がのぉ、エヌビーシーに攻撃をしかけたんじゃー。

司令官はサワダとかいう「チョイ悪」でのぉー、BHI砲という大層な武器でエヌビーシーをぶち抜こうとしたんじゃあ。サワダはのぉー、「地図をグルグルまわすタイプのおんな」に似たところがちょっとあってのぉー。タカイとかいうイケメン科学者の指示するポイントがよくわからなくて、何度もタカイに聞き返すのでタカイはとうとう「何度言えばわかるんだ、このチョビ髭が!」とブチギレタという笑い話がのこっとるがのぉー。

とにかく1031ちきゅう船のドリル砲が、数センチの狂いもなくエヌビーシーに突き刺さった瞬間は、感動もんだったらしいんじゃ。イケメン科学者タカイも「この瞬間を10年待ち望んだんじゃ。うっひょー串刺し、串刺し。」と踊り狂っていたらしんじゃ。

1メートル、2メートル、3メートルを入ってゆくドリル砲。それは1031ちきゅう船の勝利を誰もが確信したんじゃろ。

タカイは、エヌビーシー名付け親で、今は「おっさん臭いおっさん」になってしまったイシバシジュンイチローと、ニヤニヤしながら「カッケー!これカッケー!」とさわいでいたんじゃ。

そのときじゃった。エヌビーシーに異変が起きたんじゃ!とつぜん掘削孔から、熱臭水がものすごい勢いで吹き出したんじゃ。

いわゆる沸騰と言う奴だのぉー。あるはずのない高温の熱臭水溜まりをぶち抜いたんだのぉー。ぼふっぼふっと吹く熱水。カクンとドリルが動いたかと思った瞬間、腕ひしぎ逆十字がきまってのぉー。信じられんのぉー。

1031ちきゅう船はしっぽを巻いてひきあげたんじゃあー。それは大変な落ち込み具合だったんじゃあ。掛ける言葉はなかったほどじゃと言われておる。

イヘヤキタ村の生き物は誰彼なしに、「エヌビーシー様がとうとうお怒りになったんじゃ。エヌビーシー様が1031ちきゅう船を撃退したんじゃ」と言い出したんじゃ。そうかもしれんのぉー。

しかしじゃ、1031ちきゅう船の攻撃が去ったあと、やつらが残した深さ10メートル以上の穴は、エヌビーシーに確かな足跡を残したんじゃ。あの岩山を全く崩すことなく、直径3mぐらいのてっぺんのど真ん中に、美しい穴をあけたんじゃあ。その穴からは、以前の白い炎のような熱臭水ではなくて、もうもうとしたクロクロスモーカーが出てきたと言われておる。さらに穴の周りには、1031ちきゅう船が逃げ帰ったあとに残したキラキラの金属硫化物の破片がいっぱいあったんじゃあ。

1031ちきゅう船の奴らは、とうとうエヌビーシーの中がどのようになっているかを知ってしまったんじゃ。

たしかに今回の攻撃は断念しよったが、いずれ奴らは絶対来るじゃろ。それは間違いない。

最後にヒゲをはやしたおっさんがパイプをくわえる(かわりにタバコをくわえて)こう言ったんじゃ。

「I shall return.」

きっとくるー♪きっとくるー♪

(おしまい)

(この物語もフィクションですが、微妙に真実も含まれます。なお登場する人物やエビは実在しません。)