プロジェクトの成果
世界最深の海底下微生物群集と生命圏の限界を発見
地球深部探査船「ちきゅう」による統合国際深海掘削計画(IODP)第337次研究航海「下北八戸沖石炭層生命圏掘削」の成果として発表された論文が、米国科学アカデミーの機関誌であるPNAS(Proceedings of National Academy of Science)より2017年コザレリ賞(Cozzarelli Prize)に選定されました。


授賞式での筆頭著者Elizabeth Trembath-Reichert (中央)と共著者Victoria Orphan(右)


論文タイトル:
Methyl-compound use and slow growth characterize microbial life in 2-km-deep subseafloor coal and shale beds

掲載誌:
PNAS October 31, 2017. 114 (44) E9206-E9215; https://doi.org/10.1073/pnas.1707525114

著者:
Elizabeth Trembath-Reichert, Yuki Morono, Akira Ijiri, Tatsuhiko Hoshino, Katherine S. Dawson, Fumio Inagaki, and Victoria J. Orphan.

JAMSTEC News
世界最深の海底下微生物群集と生命圏の限界を発見
地球深部探査船「ちきゅう」による統合国際深海掘削計画(IODP)第337次研究航海「下北八戸沖石炭層生命圏掘削」により青森県八戸市沖の約80kmの地点(水深1,180m)から採取された海底下2,466mまでの堆積物コアサンプルを分析した結果、海底下に埋没した約2000万年以上前の地層に、陸性の微生物生態系(石炭の起源である森林土壌の微生物群集)に類似する固有の微生物群集が存在することを発見しました。それらの微生物群集は、堆積物1cm3あたり100細胞以下と極めて微量であり、海洋科学掘削により、世界で初めて海底下深部の生命圏の限界域に到達したことを示唆しています。

一方、栄養源に富む海底下約2kmの石炭層では細胞数が100倍以上増加する傾向が認められました。石炭層から採取されたサンプルを用いて、下降流懸垂型スポンジリアクターによる培養を試みたところ、天然ガス(メタン)を生産する世界最深の嫌気性微生物群集の培養に成功しました。


海底下約2kmの石炭層を含むコアサンプルから、バイオリアクターを用いて培養された世界最深部の海底下微生物群集の走査型電子顕微鏡写真。石炭を栄養源として有機物を分解しメタンを生成する。スケールは5μm(1μmは1/1000ミリ)。
写真提供:井町寛之 (JAMSTEC)



論文タイトル:Exploring deep microbial life in coal-bearing sediments down to ~2.5km below the ocean floor.

掲載誌:Science magazine, July 24th 2015, doi:10.1126/science.aaa6882

著者:稲垣史生,1,2* Kai-Uwe Hinrichs,3* 久保雄介,4,5 Marshall W. Bowles,3 Verena B. Heuer,3 Wei-Li Hong,6 星野辰彦,1,2 井尻暁,1,2 井町寛之,2,7 伊藤元雄,1,2 金子雅紀,2,8 Mark A. Lever,9,a Yu-Shih Lin,3,b Barbara A. Methé,10 森田澄人,11 諸野祐樹,1,2 谷川亘,1,2 Monika Bihan,10 Stephen A. Bowden,12 Marcus Elvert,3 Clemens Glombitza,9 Doris Gross,13 Guy J. Harrington,14 堀知行,15 Kelvin Li,10 David Limmer,12,d Chang-Hong Liu,16 村山雅史,17 大河内直彦,2,8 小野周平,18 Young-Soo Park,19§ Stephen C. Phillips,20 Xavier Prieto-Mollar,3 Marcella Purkey,21 Natascha Riedinger,22,c 真田好典,4,5 Justine Sauvage,23 Glen Snyder,24,e Rita Susilawati,25 高野淑識,2,8 田角栄二,7 寺田武志,26 戸丸仁,27 Elizabeth Trembath-Reichert,28 David T. Wang,18 山田泰広5,29
(*共同首席研究者)

所属:1. JAMSTEC高知コア研究所、2. JAMSTEC海底資源研究開発センター、3. ブレーメン大学(ドイツ)、4. JAMSTEC地球深部探査センター、5. JAMSTEC海洋掘削科学研究開発センター、6. オレゴン州立大学(米国)、7. JAMSTEC深海・地殻内生物圏研究分野、8. JAMSTEC生物地球化学研究分野、9. オーフス大学(デンマーク)、10. クレイグベンター研究所(米国)、11. 産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門、12. アバディーン大学(英国)、13. レオベーン大学(オーストリア)、14. バーミンガム大学(英国)、15. 産業技術総合研究所環境管理研究部門、16. 南京大学(中国)、17. 高知大学海洋コア総合研究センター、18. マサチューセッツ工科大学(米国)、19. 韓国地質資源研究院(韓国)、20. ニューハンプシャー大学ダーラム校(米国)、21. ネブラスカ・リンカーン大学(米国)、22. カリフォルニア大学リバーサイド校(米国)、23. ロードアイランド大学(米国)、24. ライス大学(米国)、25. クイーンズランド大学(オーストラリア)、26. 株式会社マリン・ワーク・ジャパン、27. 千葉大学大学院理学研究科、28. カリフォルニア工科大学(米国)、29. 京都大学大学院工学研究科

2015年7月24日に報道発表
ポストクルーズ会議および国際シンポジウムが開催されました


2015年4月13-15日に航海後研究会議が台湾・国立中山大学で行われました。会議では乗船研究者に加えて、航海後に参加した研究者も含めて、研究の現状と今後の共同研究について話し合われました。

航海後研究会議の翌日、国際シンポジウム「Frontiers in Marine Geology - Deep Life and Deep Carbon」が開催されました。海底下深部の生命圏と炭素循環について、Exp 337の結果を含めた最新の成果が紹介され、この分野の研究をさらに進めるために海洋科学掘削の重要性が再認識されました。

>>詳細はこちら
科学報告書が出版されました(2013.9.30)
Integrated Ocean Drilling Program Expedition 337 Proceedings
Deep Coalbed Biosphere off Shimokita
Microbial processes and hydrocarbon system

>>2013年9月30日出版
航海の予備報告書が出版されました
Integrated Ocean Drilling Program Expedition 337 Preliminary Report
Deep Coalbed Biosphere off Shimokita
Microbial processes and hydrocarbon system
The Digital Object Identifier (DOI) for the report is doi:10.2204/iodp.pr.337.2012

なお、本航海で取得したデータとサンプルの公開は、航海終了から1年後を予定しています。

>>ちきゅうラボ・データセンター
予備報告書(Preliminary Report)
航海完了!海底下2,466メートルからのサンプル採取に成功

▲画像をクリックすると拡大します。


▲画像をクリックすると
動画を見ることが出来ます。
本研究航海は、海底下の炭素循環システムとそれに重要な役割を果たしていると考えられている地下深部の生命活動を解明することを目的とし、八戸沖の海域において、海底下1,276.5m~2,466mの区間で、コア試料を採取するとともに、地層の物性データの取得を行いました。今後、海底下深部の石炭層を起源とするメタンハイドレートや天然ガス等の形成に寄与する地下微生物活動の評価、および遺伝子情報の解析や培養観察による微生物代謝機能および進化プロセス等について、地球科学や生命科学を融合した最先端研究を展開します。なお、本航海に関する具体的な研究成果については、論文等としてまとまった段階で公表します。
2012年9月27日に報道発表
海洋科学掘削における世界最深度掘削記録を更新!


2012年9月6日に海底下からの掘削深度2,111mを超え、海洋科学掘削の世界最深度記録を更新しました。従来の海洋科学掘削の世界最深度記録は、1993年に米国のジョイデスレゾリューション号が赤道太平洋エクアドル沖でライザーレス掘削により到達した、海底下2,111m(水深3,462.8m)でした。
2012年9月6日に報道発表
太古の地層からなる海底下深くの過酷な環境に、多くの生命が生きていた!

▲画像をクリックすると拡大します。
2006年に実施した地球深部探査船「ちきゅう」慣熟訓練航海において下北半島八戸沖の46万年前の地層サンプルから採取した個々の微生物細胞の栄養源の取り込みについて、超高解像度二次イオン質量分析計(NanoSIMS)を用いて高精度に測定し、一立方センチメートルあたり一千万細胞を超える微生物が、炭素や窒素を極めてゆっくりとした速度(大腸菌の10万分の1以下)で取り込む能力を有する「生きている」細胞であることを明らかにしました。

この研究成果は、米国科学アカデミー紀要PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 誌)に掲載されました。

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新しい培養手法により効率的にメタン生成菌を培養することに成功!


2006年に下北半島八戸沖にて実施した地球深部探査船「ちきゅう」慣熟訓練航海で海底下から採取した地層サンプルを用いて、従来の培養法では実験室内で培養が極度に困難であったメタン生成菌をはじめとする多種・多様な海底下微生物を効率的に培養および純粋分離することに世界で初めて成功しました。

この研究成果は、英国科学雑誌Natureグループの微生物系専門誌The ISME Journalに掲載されました。
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深海底下に広がるアーキアワールドを発見~世界各地の海底堆積物から大量のアーキア(古細菌)を検出~


2006年に下北半島八戸沖で実施した地球深部探査船「ちきゅう」慣熟訓練航海で採取した地層サンプルなど世界各地(16か所)の海底下試料から微生物の極性脂質とDNAを抽出し、海底下生命圏には大量のアーキアが生息していることが明らかになりました。

この研究成果は、英国科学雑誌Natureに掲載されました。
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