Chikyu Report
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出港2012年07月26日

地球深部探査船「ちきゅう」は、本日八戸港を出港し、約80キロメートル沖合の調査サイトに向かいました。多くの乗船研究者は、7月31日にヘリコプターで「ちきゅう」に乗船することになっています。船上では、掘削チームが、すでにライザー掘削のために噴出防止装置(BOP)や無人探査機(ROV)、音響測位装置(トランスポンダ)やライザーパイプなど様々な準備を進めています。船上ラボの技術支援員も分析機器などの準備に余念がありません。

わたしとKai-Uwe Hinrichsの共同首席研究者、研究支援統括(EPM)の久保さん、そしてキュレーターは、乗船研究者や陸上研究者からの多くのサンプル・分析リクエストに目を通し、「ちきゅう」船上のサンプル採取の方法や掘削コア試料の分析の流れについて計画を練っています。数日後に、研究者チームのメンバーと共に「ちきゅう」に乗船するのが大変楽しみです。

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ちきゅうTV第17話 前編(テキスト版)2012年07月25日

下北八戸沖石炭層生命圏掘削プロジェクトについて共同首席研究者の稲垣史生上席研究員にインタビューした「ちきゅうTV」第17話のテキスト版をお届けします。

JAMSTEC presents Discover the Future 「ちきゅうTV」へようこそ。ナビゲーターのサッシャです。

さて、突然ですが、海洋底の地下に膨大な微生物が存在している、という話を聞いたことがありますでしょうか。実は、最近の研究によって、海底下に広がっている生命圏の生物量というのは、われわれ人間や植物を含む地球上のすべての生命体の炭素量のおよそ10%を占める、と言われる、地球最大の生命圏ではないかと考えられるようになってきました。

さらに、天然ガスやメタンハイドレートなどの炭素資源には、海底深くの生命活動が深く関わっていて、その生命体が地球環境を理解するための重要なカギになるかもしれない、ということなのですが、ではいったい、どんな生き物がいて、どんな活動をしているのでしょうか。

今回、「ちきゅう」は、地球深部の炭素エネルギーや生命活動の実態解明に挑むため、新たな研究航海に挑戦します。

実は、当初この研究航海は、2011年3月15日から実施される予定でした。しかし、東日本大震災の発生によって延期せざるを得ませんでした。そこで今回の「ちきゅうTV」では昨年の初めに収録しました共同首席研究者との対談の模様をお届けしたいと思います。

キーワードは「アーキア」。

それでは「ちきゅうTV」スタートです。



(2011年3月収録)

ナビゲーターのサッシャ:ということでJAMSTEC横浜研究所にやってまいりました。今回の研究航海の共同首席研究者、稲垣史生さんにお話を伺いたいと思います。

それでは稲垣さん、どうぞよろしくお願いいたします。

稲垣史生:お願いします。

稲垣さんは普段はどういった研究をなさっているのですか。

私はいま、高知コア研究所という海洋研究開発機構(JAMSTEC)の中の一つのブランチで研究しているんですけれど、「地球微生物学」というのをやっていまして、単に微生物学だけじゃなくて、地球化学とか、もしくは環境工学などの応用も織り交ぜたような、非常に複合的な分野の研究をしています。

つまり、地球の中に微生物がたくさんいるんだけれど、どこにどれだけの量がいて、それを非常に大きな目で見て時に、気候とか炭素とか窒素とかの物質循環に、どういう影響を与えているのか、そういうことに興味が出てきたんですね。

それで、地球微生物学という、少し複合的な、システマティックな学問を目指して研究をしています。




今回の研究航海のきっかけは?なぜその研究室の外に飛び出ることになったのですか。

そうですね、やはり実際にモノを分析するために、確かに掘っていただいて、それを持ってきて、実験室で「じゃあ、はじめましょう」ということもおそらくできると思うんですね。

ただし、掘削する現場に行ってですね、生ものを適切に処理するというのが最も大事です。

地球の中にも生きた微生物たちがたくさんいる。海底のさらに下にいる。つまり、それは「生もの」で現場で生きているわけですよね。その世界から、一気に掘削をして、我々が住む地表の世界にサンプルがさらされた時に、適切に処理しないと、「生きている」という生命シグナルを捉えることができないんですね。

今回は、八戸、青森に行くわけですよね。なぜ八戸沖なのですか?どういった場所なんでしょう。

八戸沖というのは非常にユニークな場所で、海底下の深いところに、昔は陸だった地層があって、そこに石炭層がある。その上に、海だった地層がある。そこには天然ガスがあるわけですね。さらにその上に、すごく速い堆積速度で積もった若い堆積物があるんですね。この中にはメタンハイドレートがある。こういう、非常にダイナミックなシステムがあって、大陸縁辺の地質がどういう風にできているのかというのを調べる上でも重要だし、「進化」という観点からも非常に重要なんです。

ここまで微生物の話が全く出てこなかったんですが(笑)、この中にどういった生命がどの辺に居たりというのは、もう予想がついているのでしょうか。

2006年にですね、「ちきゅう」は慣熟訓練航海をこの場所で実施していまして、海底下から365メートルまでのコア(柱状の地質試料)を採取しています。その中には、実は海底下の微生物の平均と比べると100倍から1000倍もの微生物がいたんです。




そんなにいるんですか?人口密度というか、微生物密度が高いわけですね。

密度が非常に高いわけです。なんでそんなにいっぱいいるんだろう?というのが不思議ですよね。そこが僕の、我々が知りたい一つの大きな科学目標です。

なんでそんなにいるのかわからないですか?

わからないんです。

でも仮説はあります。海底下深くに石炭層が埋まっていますね。それが熱によって分解して、さらに微生物によっても分解して、いろんなエネルギーが出てくる。

それはジワジワと上がってきて、それをゴハンにして微生物が食べているのではないかと。海底下にゴハンがないと、つまりエネルギーがないと、微生物のポピュレーション、人口密度は小さくなる。

ところが下北八戸沖の海底にはですね、海底下にすごくたくさんのご馳走がある。フードソースがある。それが石炭層じゃないかと考えています。

なるほど。そこで、稲垣さん。その海底下にいる微生物というのは、いったいどんな生命体なのですか。

海底下にはですね。実は「アーキア」という、なんだかよくわからない微生物がたくさんいる、ということが言われています。

ひとくちメモ:
アーキア(古細菌):地球上のあらゆく生命体は、ユーカリア(真核生物)・バクテリア(真正細菌)・アーキア(古細菌)の三つのドメインに分類される。人間などの動物や植物はユーカリアに、微生物の多くはバクテリアとアーキアに属している。


海底下から採ってきたコア試料には、アーキアがすごくたくさんいたということが分かってきて、われわれは、海底下は「アーキア・ワールド」じゃないかって、いま考えているんですね。



ところが、そのアーキア。実は何をやっているか、よくわからないものばかりなんですね。

その中のいくつかは、「メタン菌」。つまり、二酸化炭素を使ってメタンを作る、つまり天然ガスを作る微生物というのもアーキアの一つなんですね。

へー、そんなのもいるんだ。

メタン菌だけじゃないんですが、いろんなアーキアがいて、地球の炭素循環の中で非常に重要な役割をしているんじゃないかと僕らは考えているんです。

[ 後編につづく ]

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ちきゅうTV第17話 後編(テキスト版)2012年07月25日

それでは、今回の研究航海では、具体的にどんな研究をするんですか。

ひとつは、船上で最新の生命検出法を使ってですね、現場で高速かつ超高感度の微生物の検出と、あとは数を数えるという作業をします。

今回は、(海底下)2200メートルまで掘削したいと狙っていますので、生命、海底下における生命の存在域というのを大きく更新するようなことになります。



なるほど。ここが生命が住むのに限界だったんじゃないかと思われていた領域が、もっと深いところでも住んでいるという発見ができるかもしれないという

そうですね。われわれどのくらいまで深くまで、地球の内部に生命体がいるのか、まだわかっていないんですね。それを探るひとつの大きな機会になるだろうと思います。

さらに、天然ガスがたまっていたり、石炭があったりするような場所というのは、これまでの科学海洋掘削では技術的に掘れないような場所だったんですね。

しかし「ちきゅう」という船はですね、石油業界でも使われているような「ライザー掘削」というシステムを持っています。そのシステムを使って掘削すると、ガスがたまっていたり、石炭層が濃集していたりするような場所でもですね、掘削調査をすることができるんですね。




いまの海洋科学掘削の(海底下からの)最高到達深度は2111メートルなんです。それを今回は、最低でも2200メートルまで更新したいと思っていますので、まあ、それは我々の分野というかですね、海洋科学掘削の中でも、大きな一歩になることは間違いないと思います。

稲垣さんが大成功といえるような結果というのは、どういうものを一番想像しているんですか。

ひとつは、科学海洋掘削における世界最高深度のサンプルをゲットする。もうひとつはですね、海底下深くの地殻内流体、というものを現場でチューチュー吸おうという野心的な試みも実は計画しています。

石炭層の周りには、砂岩という砂でできた層があってですね、そこには水がすきまに一杯たまっているわけです。そこには、石炭から染み出たいろんな栄養分=エネルギーが詰まっているわけですよ。

それがゴハンなんじゃないかと。




そう。ただ、コア(柱状の地質試料)を採ってきただけでは、なかなか水の中の成分というのは解析のために十分な量が採れないので、このくらいの(500mlのペットボトル)海底下2000メートルくらいにある水が採れれば、これはもう、ここから得られる科学的な情報というのは莫大なものになると思いますね。

いや~、なかなか大変そうですけれども、いまの稲垣さんの目を見ているとですね、非常に結果が出るのが楽しみです。ぜひまた笑顔で下船後にお話しできることを楽しみにしております。頑張ってください。どうもありがとうございました。

ありがとうございました。


さて、いかがでしたでしょうか。この研究航海では、人類が初めて挑戦することになる部分もあるということで、いったいどんな成果が出るのか、本当に楽しみですよね。

東日本大震災で「ちきゅう」が被災損傷したために延期になった研究航海が今回改めて実施することになったことを受けまして、稲垣さんから研究航海に賭ける気持ちをメッセージでいただいておりますのでご紹介します。

(稲垣からのメッセージ)
この研究航海は、昨年3月15日から開始することを予定していましたが、その4日前に起きた東日本大震災により延期されていました。

東日本大震災後、日本、もしくは世界のエネルギー需要が大きく変わりつつある中で、八戸沖のような海底資源環境の科学調査により、私たちが地球環境と調和し、より良い未来を作っていくための新しいヒントが生まれるかもしれないと感じています。




特に、二酸化炭素や天然ガスであるメタンのような「炭素」が地球規模で循環し、環境を維持するメカニズムは、本来、地球そのものが持っている天然のシステムであり、そこからわたしたち人間が学ぶことはまだまだ多いのです。

実は、私の実家は福島県で、両親や家族が被災しました。東日本大震災を経験し、地球のこと、生命(いのち)のこと、将来のエネルギーのことなど、いろいろと考えさせられ、震災の前と後では、この調査航海に対する思いや意義のようなものが大きく変わったと感じています。

地質学、物理化学、地球化学、微生物学、そして分子生物学によるゲノム研究など、さまざまな分野の研究を通じて、八戸沖の海底下深くの実態をシステマティックに解明していく、その研究の過程で、地球内部の生命の進化の謎や、今後、日本沿岸の海底資源環境をどのように利用していくかといった糸口がみえてくるのではないかと考えています。

森や人の腸内で微生物が重要な役割を果たしているのと同じように、膨大な海底下の微生物が、地球環境や炭素循環にどのような役割をはたしているのか、この航海で明らかにしたいと思っています。


私もみなさんと一緒に研究チームを応援していきたいと思います。探査船「ちきゅう」は7月26日に青森県の八戸港を出航する予定となっております。

さて、次回の「ちきゅうTV」では、東日本大震災の巨大地震と津波を引き起こした断層を特定し、震源断層の摩擦熱を計測するセンサー設置に挑んだ模様をお届けします。再挑戦と、なりますね。

次回の「ちきゅうTV」は2012年8月29日配信予定となります。

JAMSTEC presents Discover the Future ちきゅうTV、ナビゲーターのサッシャでした。See you next time, bye-bye.

[ ちきゅうTV Vol.17動画版はこちら ]





This program is brought you by JAMSTEC.

The expedition Deep Coalbed Biosphere off Shimokita is partly supported by Japan Society for the Promotion of Science,and implemented by JAMSTEC/IODP

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