ちきゅうレポート
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第1話 「いってきます」2012年04月17日

本レポートの本編は、ナショナル・ジオグラフィック誌オンライン版「Webナショジオ」でただいま連載中です。「深海7000メートル!東日本大震災の震源断層掘削をミタ!『ちきゅう』つぶやき編集長の現場レポート」


わたしはいま、仙台市から東へ250kmの場所の太平洋の上です。見わたす限りの水平線が広がっていて、もちろん陸地なんか、な~んにも見えません。ポツーン、と大海原にいます。

4月1日に清水港を出港した地球深部探査船「ちきゅう」は、一路、日本海溝を目指して航海してきました。毎回、出航というイベントでは、これから旅立つ人も、見送る人も、なんとなく感傷的な気持ちになるものです。

これからしばらくの間、家族や友人、恋人と離れ、しかも厳しいと分かっている仕事に向かうという心境は、文字通りに期待と不安が入り混じった複雑なものです。




4月1日に雄大な富士に見送られながら旅立ちました
写真提供:JAMSTEC/IODP



特に船長から指示があるわけでもないのに、出航の時間が近づくと、何となく各自がデッキに顔をだし、陸で見送ってくれる仲間や、わざわざ港まで見送りに来てくれたのに名前も存じ上げないみなさんに「ありがとう!いってくるよっ!」と、見えなくなるまで一生懸命に手をふりました(撮影中だったので心の中だけですけど。)わたしの隣にいたエンジニアの山崎クンとも、がんばろうなー、とお互いを励まし合うような妙な連帯感が、この瞬間からジワリジワリと湧き出してきます。




見送る人に「ちきゅう」のヘリデッキから手を振る科学者たち
写真提供:JAMSTEC/IODP



さて、いまわたしたちは、日本海溝という海底から、はるか7000m上方に浮かんでいます。「海溝」というのは、地球を覆っているプレートと呼ばれる分厚い岩盤が、ゆっくりと、でも着実に地球の奥底まで沈み込んでいく入口です。今では地球のあちこちに海溝があるのが分かっています。日本の西側ではフィリピン海プレートというヤツが動いているし、ここ日本海溝でも、太平洋プレートというヤツが年に約10cmの速さで動いています。そう、地球は動いています。


7000m↓の世界

さて、出航から2日後の4月3日朝8時に「ちきゅう」は調査海域に到着しました。ここには、海以外に何もありません。街も学校もありません。いま、わたしの足もとの青黒い海には、ただただ、その底まで7000mもの水があります。

深さ7000mの水。これはもう、圧倒的な量です。私は仕事柄、「ちきゅう」は大きい船だよ~、と小学校で授業をしたりするのですが、もう本船の小さいこと小さいこと。公園の池を見たアリのような気持ちです。なんだか暗く深い海の底に吸い込まれそうな気持ちにもなってきます。地球は水の惑星だということが、文字としてではなく、五感を通じて頭に刻まれます。




圧倒的な量の水をたたえる惑星に生きているんだと実感中
写真提供:JAMSTEC/IODP



その日本海溝の海底というのは、どんな世界なのでしょうか。実は、いま7000mまで潜航できる探査機は世界にほとんどありません。(JAMSTECの「かいこう7000Ⅱ」がそのひとつ。)ということは逆に、そんな世界のことなど、ほとんどわかっていないんだと言った方が正しいのだろうと、わたしは思っています。

海って言われると、海水浴、サーフィン、海の家、花火、あー青春、とか、わたしがイメージできるのは、これまで自分が見て触れたことのある情景がほとんどだということに気づきます。自分が知っていることだけで全てを理解したつもりになること。海に限らず思い当たる節もあり、反省するばかりです。

さて、そんな超深海の世界は、ものすごい圧力の世界です。宇宙空間とは逆に、深海には巨大な力がかかっています。たとえば、これから「ちきゅう」が掘削しようとしている海底では、みなさんの人差し指の先っぽ、その先に体重700kgの小人がニッコリと仁王立ちしているという計算になります。

もう一つ、実はすごく「遠い」ということです。7000mというのは7kmです(当たり前)。通勤距離が7kmだとすると、まあまあ楽な方だよね~、と言えるかもしれませんが、これを立ててみるとどうでしょうか。自分の家から7km↓。もうそこは未知の世界です。7km↑はなんとなく想像ができます、もっと高く飛行機は飛んでいますし。でも7km↓は見えません。暗いです。狭いです(たぶん)。

そんな↓の世界まで、太さ20cmばかりのドリルで調べようというのです。あー、あまりにも無謀、あまりにも弱小、と思いますよね。出航時のわたしの心細さを少し共感できたでしょうか。


さてようやく主役登場ですが・・・

今回の研究ミッションは、世界最強と呼ばれている(ような気もする)科学探査船「ちきゅう」にとって、実はひっじょーにチャレンジングな航海です。どんだけ厳しい戦いに漢(おとこ)たちが挑んでいるのかは、またいつかご紹介するとして、そういう研究をするぞー!と、先頭に立ってわたしたちのお尻をぺんぺん叩いているのが、共同首席研究者のモリ・ジェームズ・ジロウさんです。

この方、とっても気さくな人で、わたしもつい、「ジムさん、ジムさん」と気軽に声をかけてしまうのですが、実は京都大学防災研究所の教授です。こわっぱなわたしからしたら、ずいぶんとえらい方なのです。でもなんとなく、その人柄のフランクさや、英語での会話に甘えてしまって、「おいジム、調子はどうだい?」な~んて、テキサスのカウボーイのようなため口をきいてしまうのです。




ドリラーの操縦席に座り、ちょっと童心に帰ったジムさん
写真提供:Sanny Saito for JAMSTEC/IODP



さて、そんなモリ教授に、なぜ「ちきゅう」が持てる限りの力を出し切っても、ようやく達成できるかもしれない、という厳しい調査に挑むのか、お話を伺いました。

といったところで、続きはまた次回!になってしまったようです。ではでは!

(つづく)

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