ちきゅうレポート
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高校生との船上ライブ授業!2012年05月12日

みなさん、こんにちは。わたしは東北大学で研究(理学)を多くの方に紹介するためのアウトリーチ担当として働いています。そしてわたしは、火山の研究をしていた経験も持っており、地学はなじみの深い研究分野でもあります。そんなこともあり、昨年の3月13日に東北地域の高校生とその保護者の方々約20名と一緒に、八戸港に停泊中だった「ちきゅう」船内を見学する予定でした。しかし、それは実現できませんでした。

2011年3月11日、わたしは仙台市にある大学の職場で同僚と電話をしていました。地震の揺れはじめは、2日前に起きた大きな地震と同じだと思いましたが、揺れが変わっていくことに気づき、「大きそうですね。いったん切りましょう。」と受話器を置いた途端に、大きい揺れにおそわれ、急いで机の下に潜りました。

しばらく電灯はついたまま、途中おそらく瞬間停電3回、そして、その後に完全に停電。揺れが収まりかけたときに、2度ほど携帯電話をかけようとしましたが、また揺れが大きくなり切ったこと、揺れている間も本棚越しに友人と声をかわしていたこと、揺れの途中「また大きくなった」「(地震)いくつおこるの?」「(揺れの)向きが変わった!」と叫んだこと(「実況聞きながら地震を体験した。」とは友人談。)「東海・東南海・南海」の連動地震の地図が頭に浮かび、東北に重ね合わせていたこと、そんな記憶が残っています。

長い揺れがおさまり、それでも余震が次々起きる中で建物から退避しながら気になったのは、市街地の火事でした。遠く海の方に黒い煙をみましたが、見渡した市街地には煙がなかったので、つかの間、ひと安心しました。しかし、退避場所で、近くにいた方が携帯電話の動画ニュースを見ながら、「津波3m、6m、10m」の声をあげました。思わず「予報ですか?到達ですか?」と聞き返していました。かえってきた答えは「到達です。」というものでした。


そのとき、自分が津波のことを失念していたことに気づくとともに、とんでもないことが起こったという思いと、当面の家族の生活をどうするかという妙に冷静な考えと、一方で、何が起こっているのか、とにかく知りたいという感情が、どっと押し寄せてきました。


震災からのこの1年あまり、地震や津波について「知りたい」という声が聞こえると、自分の「知りたい」という感情とも重なり、協力くださる研究者に声をかけつつ、大学としてできる限り伝える機会を作ってきました。そんな中、「ちきゅう」による震源域の掘削の計画が聞こえてきました。一方で、「ちきゅう」のこのミッションを、震災を経験した高校生にこそ伝えたいという「ちきゅう」関係者の思いがあり、そして、同じように震災を経験した人と一緒に取り組んではどうだろうという意見があがり、そして、今回、私がその講義を行う機会を得ました。

私の「ちきゅう」への乗船は約1週間でした。すでに海上で掘削調査中の「ちきゅう」にはヘリコプターで向かうしかありません。あいにく天候が悪く乗船が数日遅れましたが、乗船期間中に衛星回線を通じた船上ライブ授業を宮城県と福島県の1校ずつと取組むことができました。

これも何かの縁、「ちきゅう」への乗船計画を立てる前から、高校生の課題研究のテーマの一つとして、震災に向き合い、そしてわたし久利と意見交換の機会のあった、古川黎明高校と福島高校と取り組むことになりました。両校とも大変興味を持ってくださり、実施に向けて、すぐに動き始めてくださいました。(授業でのネット中継も初めての経験とのことで、その練習から始めていただきました!)






ネット中継による講義は私にとってもはじめての体験。内心、どうなるかと不安も抱えつつ望んだ古川黎明高校のみなさんとのモニター越しの顔合わせ。お互い緊張していました。

船外にて櫓を背景に自己紹介&スタッフ紹介し、船内研究を紹介(X線CTスキャン、コア半裁室、古地磁気分析、カメラ、観察スペース)、それに乗船研究チームの林博士から、地層の電気の流れやすさについて掘削孔内をぐるりと360度測定することで、地層の力のかかり具体が分析できるという研究を紹介いただき、最後に生徒のみなさんからたくさんの質問をいただきました。






「船上生活は?」(やっぱり気になるよね。)「宮城県沖地震はまたおこるの?」(みんな不安だよね。)授業が終わり、ほっとしたと同時に、あれを伝えればよかった、これも伝えたかったとの思いでいっぱいでした。下船後の学校への出前授業を待っていてくださいね。

そして迎える2回目の授業は、福島高校と。事前に質問が届いていたこともあり、少し順序をかえ、質問の多かった断層の摩擦熱についての講義を、これまた乗船研究チームの林博士から紹介していただきました。

授業では質問が次々に!「コアサンプルってどんな形?」(すかさず見本を見せる。)「古地磁気測定で何がわかるの?」(さっきタオ博士が研究室を見せてくれたばかりだから気になるよね。)「ドリルで掘るときはどれくらい力がいるの?」(掘り方から説明しなきゃ!)「どれくらい固いの?」(けっこう本質的!)「サンプルをとったらどんな分析をするの?そして何がわかるの?」(船上にはたくさん研究室があったものね。今度ゆっくり説明するね。)、「断層の割れと掘削による割れは見分けがつくの?」(するどい!そのための専門家集団。)

などなど、うれしい悲鳴を上げつつ、「ちきゅう」スタッフに時間延長をお願いしつつ、高校生の皆さんと時間を共有しました。最後に、高校生の皆さんがモニターにかけよってバイバイと手を振ってくださったのがとても印象的でした。





船の上では、調査のために次々に作業が行われています。邪魔にならないよう相談しつつ、作業の様子や掘削のための施設などもたくさん写真を撮らせていただきました。船上には、研究者だけでなく、研究を円滑に進めるためのスタッフ、ドリラー(掘削のスペシャリスト)、看護師さんなども働いています。そんな方々にもインタビューをお願いし、高校生へのメッセージをお預かりしてきました。下船後の出前授業で紹介したいと思います。



この地震は多くの人の生活をおびやかす大変なことでした。それでも、いえ、それだからこそ、何が起きたのかを調査すること、それもできる限りはやく調査してデータやサンプルを得ることは、研究者がやらなくてはいけないことです。その現場を、私は直接目にする機会を得ました。船上からのライブ講義は2校のみでしたが、下船後の出前講義はそれ以外にもたくさん足を運びたいと思います。そして、少しでも多くの人に伝えていきたいと思っています。


授業の様子は、福島高校SSH(スーパーサイエンスハイスクール)通信でもご紹介いただきました

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