東北地方太平洋沖地震調査掘削~実施期間2012年4月1日~5月21日
巨大地震と大津波を引き起こしたプレート境界断層の摩擦特性の解明に挑む

これまで、海溝型地震はプレート境界面深部の固着領域がひずみをためこみ、それが破壊され滑ることで巨大地震が起きると考えられていました。
しかし、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、プレート間の固着がないと考えられていた海溝軸付近まで大きな滑りが伝わり、海底が大きく変動していたことが地震後の緊急調査の結果から明らかとなってきました。この海底変動が大量の海水を押し上げたために巨大津波が発生したと考えられています。
地質学、地球化学、古地磁気学、堆積学、地球物理学、微生物学など、専門を超えた地球・生命科学の研究者が地球変動の実態に迫りました。

プロジェクト開始前の計画説明資料(2012年3月26日)

いま地球科学ができること

プレート境界断層で発生した摩擦熱は、地震発生後2 年ほどで周囲の地層に奪われ、計測が困難となります。また、プレート境界断層を構成する岩石も変質し、摩擦特性の分析が極めて困難になるため、早期の調査・研究が必要です。海溝型地震において地震発生後早期にプレート境界断層の温度計測を実施することは初めての試みとなります。
国際研究チームは、東北地方太平洋沖地震の発生直後から検討を開始し、緊急掘削研究課題として統合国際深海掘削計画(IODP)に掘削提案。緊急性と科学的重要性が評価され、海底地形や構造探査などの事前調査と、技術的な検討を重ねた掘削計画に基づき、このチャレンジングな航海に旅立ちました。

震源断層の摩擦熱を直接計測する

東北地方太平洋沖地震で大きな滑りが伝わったと考えられている日本海溝の海溝軸付近において、地球深部探査船「ちきゅう」による深海科学掘削を行い、実際に巨大地震を引き起こしたプレート境界断層を構成している岩石サンプルを直接採取し、その種類と物性を明らかにするとともに、断層面の摩擦熱の長期変化を地震発生後早期に直接計測することを目指しました。これにより、海溝軸付近まで大きな滑りが伝播したことを実証した上で、巨大地震発生時のプレート境界断層の摩擦特性(断層が高速で滑ったときの摩擦熱、断層帯の岩石の化学的性質、間隙率等)を分析し、巨大津波を発生させた海溝軸付近でのプレート境界断層の滑りのメカニズムを明らかにします。
この航海によって得られるプレート境界断層の摩擦特性に関する知見を、プレート境界断層の滑り量シミュレーションに活用することで、東海・東南海・南海地震等、他の海溝型地震による地震・津波の想定に寄与することが期待されました。

掘削予定地点
探査船「ちきゅう」は牡鹿半島の沖合約220キロメートル地点を目指しました。
(北緯37度56分 東経143度55分)
未踏の地球深部を探る大きな挑戦

水深が約7,000メートルもある日本海溝の海溝軸付近において、探査船「ちきゅう」により海底から約1,000メートル以浅まで掘削することを目指しました。これは海面からの総距離が約8,000メートルもの深度となり、科学掘削では世界最深となる大水深掘削調査です。
これまでの深海掘削計画の歴史においても、当時の米国科学調査船が水深7,034メートルの海域(マリアナ海溝)で海底下15.5メートルまでの掘削にしか成功しておらず、「ちきゅう」でしか成しえない大きな挑戦となりました。

掘削予定地点
掘削予定地点の海底地形データ。
日本海溝の深海底から太平洋プレートが沈み込んでいく
掘削航海の計画

「ちきゅう」が向かう日本海溝は、東日本をのせた北米プレートの下に太平洋プレートが沈み込む場所です。その海溝軸付近において深海底から約1,000メートル以浅までを最大2孔掘削する計画です。掘削と同時に物理検層データを取得し、掘削孔内に断層面付近の摩擦温度を計測する為の長期孔内計測システムの設置を目指しました。また、この工程に成功した後、断層帯の岩石サンプルの直接採取にも挑戦しました。
これらの掘削孔には、後にJAMSTECが保有する7,000m級無人探査機「かいこう7000II」が潜航し、長期孔内計測システムから観測データを回収することを計画しています。

掘削予定地点
掘削予定地点は水深が6,910メートルもある深海の世界