地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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Discover the Earth:南下北沖で海底下2,000m を超えるライザー掘削を実施 海底下深部褐炭層の生命活動を探る

2011 年春、「ちきゅう」は下北半島の沖合約80km の海域で、これまでの海洋掘削科学における最高到達深度2,111m を上回る海底下2,200m をめざして、ライザー掘削を実施する(IODP第337 次研究航海)。従来のライザーレス掘削では困難だったガスを含む地層を掘り抜くのは科学掘削では初めての試みであり、新発見を含む多大な成果が期待されている。
(2011年2月 掲載)

稲垣 史生 博士 取材協力
稲垣 史生 博士
高知コア研究所 地下生命圏研究グループ

下北沖で海底下2,000m を超えるライザー掘削を実施
海底下深部褐炭層の生命活動を探る

ライザー掘削で最高到達深度更新をめざす

掘削地点

 2006 年、「ちきゅう」はシステム総合試験および操作慣熟訓練のため下北半島東方沖(水深約1,200m)において、海底下約650m までの掘削を実施した(テストホールC9001)。2011 年3 月中旬、「ちきゅう」はこのC9001 孔をライザー掘削によってさらに掘り進め、海洋科学掘削では未踏の海底下2,200m への到達をめざす。この付近には、約5000 万年前(新生代古第三紀始新世)の未成熟な石炭(褐炭)層があり、その上部には天然ガス域が存在する。こうした地層は、ライザーレス掘削が難しく、科学掘削は一度も実施されていなかった。「天然ガス田を掘進し、海底下深部に埋没した褐炭層まで掘ることにより、褐炭層を母岩とする炭化水素のエネルギー循環システムの全貌が見えてくるはずです。さらに、そこに微生物がどのくらい存在し、どのような役割を果たしているかという生命活動の実態を明らかにすることもできると期待しています」と首席研究者のひとりである稲垣史生博士は研究の目的について話す。「だが、そのためには大きな課題があります」と稲垣博士。それは良質なコア試料の採取だ。海洋堆積層とその下部にある陸源堆積層との境界をなす不整合面(海底下約1,800m)付近は研究にとって重要な場所だが、地層が非常にもろい場所でもあるため、汚染の少ない、きれいなコア試料が採取できるかどうかが問題となる。また、砂岩と褐炭が層構造を形成す る褐炭層も壊れやすいことが予測されている。こうした場所でクォリティの高いコア試料を採取することが、掘削航海の後に計画されている海底下実環境ラボでの研究を大きく左右する。