地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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海底火山の下に存在する大陸地殻を掘り抜く

 しかし、こうしてできたマグマがどうやって大陸地殻になるのかは依然として謎のままだ。初生マグマをはじめ、沈み込み帯で生み出されるマグマはほとんどが玄武岩のマグマである。海底火山自体も玄武岩からなるものが多い。玄武岩のマグマからいったいどうやって安山岩の大陸地殻ができるのだろうか?
 地震波の観測によるIBM弧の地下構造のデータからは、興味深い結果が得られている。玄武岩の海底火山の地下に、なぜか安山岩らしき中部地殻が厚く存在しているのである。「海底火山の下に大陸地殻ができ、どんどん成長しているように見えるのです」と田村チームリーダー。もしそうだとすれば、「生まれたての大陸地殻」ということになる。
 今年からは、田村チームリーダー率いる「大陸地殻掘削プロジェクト」が本格的に始動する。IBM弧の中部地殻を、地球深部探査船「ちきゅう」の大深度掘削によって取り出し、大陸地殻の成因を解き明かそうというプロジェクトだ。その前段階として、今年はアメリカの掘削船ジョイデスレゾリューション号を使った掘削が3回に渡って行われる。沈み込みがはじまる前の地殻やはじまったころの地殻、現在までの堆積物などを 採取し、この地域の歴史的変遷を明らかにするのが目的である。その後、海底火山の地下5.5kmの中部地殻を「ちきゅう」で掘削することを目指す。
 田村チームリーダーは、島弧の火山の下になんらかの理由でできる安山岩の地殻が、衝突によって地上に浮き上がり、それが集積することで最終的に大陸へと成長していくのではないかと考えている。生まれたての大陸地殻を手にできれば、その過程も明らかになるにちがいない。
海底下5.5kmという深さは「ちきゅう」にとってはじめての厳しい挑戦となる。だが、将来的にはさらに深いマントルへの到達も期待される。もしマントルの物質を調べることができれば、地球の成り立ちの全過程を明らかにすることができるだろう。「そのためにも是非、人類としてはじめて中部地殻への到達を成功させ、生まれたての大陸地殻を直接手にしたいと思います」田村チームリーダーはそう意気込みを語ってくれた。


 「ちきゅう」における短い滞在期間中、私は「歴史が作られつつある」という思いを禁じ得ませんでした。今まで誰も見たことのないサンプルを直接この目で見ることができ、そして、「なぜ生命がこの星に現れたのか」という謎を解くための扉を開けることができたのですから。
 「なぜ、たいへんな思いをして、多額の費用もかけ、誰も行かないような場所で生命の研究するのか?」
 そういう疑問もあるでしょう。しかし、それにはいくらでも説得力のある答えを挙げることができます。地球深部の微生物細胞を研究することで、地球における生命の起源や進化を理解するのに役立つ新しい情報が手に入るかもしれません。その遺伝情報を理解することで、生命の機能や適応領域を広げることができるかもしれません。そして、人類の産業や医療に応用できる能力をもっているかもしれないのです。地球深部生命圏を理解することで、地下深部の地層への二酸化炭素の貯留を可能にする、その地質学的環境を特定することにも役立つでしょう。海底下深部の経済資源の理解にも役立つことでしょう。
 地球深部の生命に関する研究は、こうした革新的な発展の可能性を秘めているものなのです。
 一つ、確実に言えることがあります。今回、有能なスタッフと、すばらしい研究者が参加した「ちきゅう」に訪問することができて、本当に良い時間を過ごす事ができました。「ちきゅう」を使って研究を行う事で、近い将来きっとすばらしい科学的発見がうみ出されるであろうと期待しています。

田村 芳彦