地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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機械が進化しても欠かせない人間の五感

 安全に対するこだわりを象徴するのが発電機の冗長性だ。「ちきゅう」には5000kWの主発電機が6基、2500kWの補助発電機が2基搭載されているが、片舷ずつに水密ドアで区切られて配置されている。万が一、浸水などで片舷しか稼働できなくても、船体の位置保持に最低限必要な電力を供給できる設計となっている。また、航海中にメンテナンスで発電機を止めてしまうと、動力源が4基、バックアップが3基となって数が減るため、万が一の場合、必要な電力が確保できなくなってしまう。特に重要なのが掘削中の安全性確保なので、発電機のメンテナンスは掘削スケジュールを考慮して行われる。

機関長 堀江氏

 「船舶は一旦出港したら修理も何もかも乗員が担うものですが、とりわけ大きな使命を抱える『ちきゅう』の場合は安全に動かし続けることが重視されます。我々機関室の乗員は五感を駆使して機器類と向き合い、どんな些細な異変も見落とすことのないように、こまめに見て回っています」
 発電機が動いている機関室は、ときに室温が40度近くに達する。しかし、ちょっとした油漏れや振動、異音、異臭といったことにいち早く気づくことがトラブルを未然に防ぐことにつながる。もちろん機器類の異変をアラームで知らせるセンシング装置も搭載されているが「まずは現場で気づくことが基本」だと堀江機関長は強調する。
 現場力重視のスタンスだからこそ、突発的な事態にも柔軟に対応できる。「ちきゅう」はエンジンの冷却に海水を使用するが、3月11日の震災の後、海には大量の漂流物が流れ込み、それらが冷却用パイプラインのストレーナーに詰まってしまった。目詰まりしたまま放置すれば早晩冷却不能で発電機が止まってしまう。そこで機関室では10分ごとにストレーナーのゴミを除去するという異例の対応を実施し、船内に電力を供給し続けた。
 「機器類はどんどん進化して便利になっていますが、原理原則は大きく変わっていません。我々が五感を使って得た知恵や経験を若い乗員たちに伝えていきたいと思っています」

「ちきゅう」内部 機関室

船のエンジンを順調に動かすためには、機関室でのこまめな作業が大切であり、実際のエンジンの音や臭いを五感で感知する事が重要である。