地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

CDEX

地上の針に糸を通すような作業

 今回のプロジェクトでは水深7,000mの地点に直径約27cm、深さ1,000mの孔を2つ掘削する予定だ。第一の掘削孔では温度を計測し、第二の掘削孔では温度と圧力の計測を目指す。最優先に位置付けているのは第一の掘削孔。こちらは設置する温度センサの数が55個と多く、きめ細かなデータ収集が期待される。両方の掘削孔で温度を計測するのは、複数の計測方法を用意しておくことでデータ回収の確実性を高めるためだ。また、第二の掘削孔では温度と圧力のデータを同時に取ることにも意味がある。
 「地殻変動の痕跡は地層流体の圧力変化からも見て取れます。つまり、圧力を計測すれば流体の挙動がわかり、地殻の動きもわかるのです。そして温度とともに計測することで、より深い現象の理解につながると思います」
 これらすべてのデータを回収できるのが理想だが、まずは計画通りに観測装置を設置しなければならない。難しいのは、南海トラフの掘削孔が水深2,000mだったのに対し、今回は7,000mと非常に深いこと。そこに直径約14cmのパイプを用いて観測装置を設置するのである。
 この作業がいかに大変なことかは100分の1に縮尺して考えてみるとわかる。水深7,000mを高さ70mのビルに換算してみよう。1フロア4mなら18階建てのビルだ。その屋上から地上にある直径3ミリメートルの孔に目がけて、直径1ミリメートルの糸を垂らす。糸は風で揺れるし、距離があり過ぎて糸の先端をミリ単位で調整するのは不可能に近い。
 「確実に作業するには孔の付近を見る“目”が必要です。南海トラフでは遠隔操作する無人探査機(ROV)を深海に潜航させて、掘削孔周辺をモニタリングしながら作業しました。ただ、「ちきゅう」に通常搭載しているROVは水深3,000mまでしか潜れませんから、今回は光・電気複合ケーブルに接続したフレーム構造に水中カメラを装備し、ドリルパイプに沿わせて降下させ“海底を見る目”とします」
 今世紀に入って最大の自然災害と言われる東日本大震災。この計測装置によって、巨大地震と大津波を発生させたメカニズムが解き明かされる日が待たれる。。

■温度計測システム

第一の掘削孔内には55個の温度センサを設置する。まずは海底に掘削した直径27cmほどの孔に直径約11cmのケーシングパイプを挿入する。パイプ内には温度センサを取り付けたロープが通っている。ロープの先端には重しが取り付けられているので、孔内でロープはたるみなく伸びた状態になる。センサは断層付近では高密度に、ロープ上方では低密度に取り付けられている。それぞれのセンサが計測したデータはセンサとともに取り付けられた記憶媒体に記録される。一方、ロープの上端にはROVフックアイと命名されたパーツが取り付けられていて、その部分が地底に置かれたウェルヘッドという装置に固定されている。なお、今回の設置作業を確実に進めるために、光・電気複合ケーブルに接続したフレーム構造にカメラ、ライト、ソナーなどを装備した水中カメラを準備した。これをドリルパイプに沿わせて降下させて“海底を見る目”とする予定だ。ROVは対象物を横から見るが、水中カメラは上から下に向かって対象物を覗き込む。こうした作業は「ちきゅう」では初めてであり、新たな挑戦の1つである。

■ウィークリンク

第一の掘削孔内に設置したセンサは長期計測の後、ロープごと引き上げて取り出す。深海無人探査機「かいこうⅡ」を潜航させて、ロープ上端のフックを掴んで引き上げ、すべてのセンサを回収する予定だ。しかし、計測期間中に地殻変動が起こり、掘削孔およびケーシングパイプが変形する可能性もある。変形が激しいと孔内でロープが引っかかって引き出せなくなるため、ロープにはあえて切れやすいポイントを作っておくという。それがウィークリンクと呼ばれるもの。この金具に強い負荷がかかると2つに外れる仕組みになっているので、孔内でロープが引っかかっても、ウィークリンクより上方のロープとセンサは回収することができる。

■圧力計測システム

第二の掘削孔内には温度と圧力を計測するセンサを設置する。温度センサは第一掘削孔と同じくケーシングパイプ内に設置されるが、圧力センサはパイプの外側に設置される。使用するのは細い圧力伝達管を2本組み合わせた12×20mmの楕円状のライン。圧力センサはパイプの外側に這わせた圧力伝達管上端に取り付けられ、孔内はプロテクタで保護される。また、第一掘削孔ではセンサごとにデータを記録したが、第二の孔では地底に置いた装置内にデータロガーを設置し、そこで記録する仕組みになっている。データの回収方法は、深海無人探査機を潜航させてロガーに水中着脱コネクタを接続し、データを抽出する方法を採用する予定だが、データロガーそのものを回収する方法や音響による通信でデータを抽出する方法も検討されている。