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CDEX
特集:南海掘削は驚きの連続

巨大地震・津波発生メカニズムの解明を目指す「南海トラフ地震発生帯掘削計画(南海掘削)」。そのステージ3となるIODP第348次研究航海では、科学掘削としては世界最深となる海底下3,058.5mまで掘削を進めるとともに、掘削同時検層(LWD)によって貴重なデータを取得することに成功した。今回の航海に、共同主席研究者として参画したペンシルベニア州立大学デミアン・セイファー教授は、「まさにエキサイティングだ」と熱い言葉でその成果を語った。
(2014年3月掲載)


取材協力者

デミアン・セイファー デミアン・セイファー
米国ベンシルバニア州立大学 教授
南海掘削第348次研究航海 共同首席研究者
ショーン・トシコ ショーン・トシコ
「ちきゅう」研究支援統括(EPM)
地球深部探査センター(CDEX)運用室
研究技術副主幹
協力:小山 輝之・深谷 宙生・ロス・マンソン(日本マントルクエスト株式会社)

最もエキサイティングな研究プロジェクト

 IODP第348次研究航海(Exp.348)の共同首席研究者であるセイファー教授は、次の言葉を強調した。「今回の第348次研究航海では、科学掘削としては世界最深となる3,085.5 mまで到達しました。科学的な視点で言えば、基本的な目的はすべて達成することができたと考えています。」当初の計画に対し、度重なる天候悪化や地層の状況から、当初の目標である海面下3,600 mまでの掘削は今後に委ねられることになったが、当初の運用上の目的は達成している。「コア試料を採取し、検層という地殻構造などの情報を収集した後、今後も掘削を継続できるよう、ケーシングと呼ばれるパイプを掘削孔に設置する事ができました。これらをすべて完結できたことは、私たちにとってまさにエキサイティングな成果です。」
 セイファー教授は南海掘削の計画作成時から関わってきた。それは、「ちきゅう」建造前で、IODPではライザー掘削が待ち望まれていた時期である。「ライザー掘削を行う研究航海は、毎回、自分の記憶に深く刻み込まれています。これまで掘削科学に関わってきた研究者にとって、ライザー掘削のスケールの大きさや掘削技術の難しさは驚異的です。この掘削を自分の目で見ることができた事にエキサイティングしています。」と熱心に語った。

 南海掘削への思いについて次のように表現する。
 「個人的には、この『南海トラフ地震発生帯掘削計画』は固体地球科学研究プロジェクトとしては、もっとも素晴らしい研究の1つだと思います。現在計画されている他の地震発生帯研究としては、米国カリフォルニア州のサンアンドレアス断層とニュージーランドの計画があります。しかし、研究全体のスケール感、地震の規模やその社会的影響などを考えた時、『南海トラフ地震発生帯掘削計画』にまさる壮大な研究は他にないのではないかと思います。」

海底下3キロの地殻構造

 今回の研究航海で研究支援統括を務めたショーン・トシコは、南海掘削で重要となる巨大分岐断層について説明した。「今回の研究航海では、巨大分岐断層と呼ばれる、プレート沈み込み帯から分かれて海底面まで上に延びる、巨大断層の活動履歴を収集するための準備を行いました。実際に巨大分岐断層に到達した時、検層データとコア試料を採取することが重要な目標の一つとなっています。この巨大分岐断層は、1948年に起こった東南海地震時に動いた断層と考えられています。私達はそこに恒久的な観測装置を設置し、巨大分岐断層を通る流体などを観測したいと考えています。これらの流体は、普段はプレート境界に閉じ込められていますが、ある日突然に巨大分岐断層を伝って海底面に抜けて行くのではないかと考えています。
 セイファー教授は研究航海の具体的な成果について次のように説明する。「掘削同時検層(LWD)によって約3,000mの深度まで掘り進むことができたのも、今回の研究航海での大きな成果です。このテクノロジーによって、掘削孔内部の圧力や岩石の物理特性といったさまざまなデータを、掘削しながら継続的に計測することができます。何より、岩石の組成に加えて、地層にどの方向から圧力がかかっているかを知る事ができるようになりました。」Exp.348では、プレート境界部の上側の地層で約100mの地層サンプルを採取できた。このコアは船上の研究室で半割され、岩石中の物性データが計測される。「このような研究を可能にする方法は、ライザー掘削以外にありません。」と付け加えた。
 「他の成果としては、カッティングを採取できたことがあげられます。沈み込み帯の陸側プレートで、深部に至るまでの連続した検層データを入手することができました。これは実際には世界で初のことです。」セイファー教授はこれらの科学成果がどのように重要なか次のように語る。「どんな種類の岩石なのか?どのように圧力を受けているのか?どのくらいの圧力に耐えうるのか?そのような疑問を解決してくれる試料です。今回の研究航海では、海底下深部において掘削同時検層と深層孔からのサンプル回収という2つの重要な成果が達成されたと言えます。」