
J・クレイグ・ベンター研究所のケン・ニールソン博士は、全海洋ゲノムプロジェクトや鉄還元細菌の代謝機能解明など、長く環境微生物学の研究で世界をリードし、NASAジェット推進研究所時代には火星からのサンプルリターンを計画するなど、宇宙生物学(アストロバイオロジー)のパイオニアでもある世界的な科学者だ。
今回、海底下深部の生命圏を探った青森県八戸沖での航海に合わせて「ちきゅう」に乗船し、採取したサンプルの確認などを行った。人類未踏領域への挑戦を続けるニールソン博士から本誌へ特別に寄稿いただいた。
(2013年3月 掲載)
宇宙探査ミッションと同等のむずかしさ
東北地方太平洋沖。その洋上で夕日を眺めていると、自分が世界屈指の探査船に乗船していることを忘れそうになります。
この船の名は、地球深部探査船「ちきゅう」。海底下を数kmも掘削し、そこから微生物探査を行うための岩石サンプルを回収する能力を有しています。さらには、船内にサンプルの分析を行う最先端のラボを備えている「驚異の探査船」です。
世界中から集まったプロフェッショナルたちが、掘削場所の海上で、「ちきゅう」の位置をセンチ単位の精密さで安定させ、地球深部からサンプルを採取するといった作業を、すべて船上で行っています。
「ちきゅう」は、ここで何をしているのでしょうか?
今回、私は、統合国際深海掘削計画(IODP)第337次研究航海として、探査船「ちきゅう」が地球深部の生命圏を調査している現場を訪れました。
地球深部の生命圏は、人類にとっての未踏領域の一つです。地球上の生物資源は、その大部分が海底下深部に眠っていると推定されています。この未知の生命圏は、バクテリア(真性細菌)とアーキア(古細菌)で構成されています。ひょっとしたら、未発見のユーカリア(真核生物)もいるかもしれません。
こうした微生物がつくる地球深部生命圏の解明は、まだ始まったばかりです。このプロジェクトは、先陣を切って、日本が建造しJAMSTECが運用する「ちきゅう」を使ってその謎に斬り込もうとしています。。
今回のミッションに関わらず、「ちきゅう」のミッションは、その困難さにおいて、宇宙探査ミッションと同等といえるでしょう。海底下から生物学研究に有用なサンプルを回収するには、他の物質などが混ざり込まないようにしなければいけません。そのためには、科学的な見地と経験に加え、高度な技術革新が必要なのです。
もちろん、地球深部探査ミッションと宇宙探査ミッションには大きな違いがあります。たとえば、火星探査ミッションでは、ローバー(自走式探査車両)を投入し、観測衛星を打ち上げて火星の周回軌道にのせるなど、無人で探査が行われています。しかし、火星から試料を持ち帰ったことは、まだありません。
一方で、地球深部への探査ミッションは、実際に「ちきゅう」という探査船を用いて人間が手を動かし、詳細な解析をするためのサンプルを持ち帰ることが可能です。今回の探査で、これまでの海洋科学掘削史の中で最深となるエリアから生物学分析用のサンプルを回収できたことに大きな期待を寄せています。そして、このサンプルを分析できるということは、科学者として大変な名誉なことだと感じています。
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