
深い海の底、さらにその海底深く広がる地下世界は圧力の高い領域だ。しかし通常の方法で堆積物を採取し、海面まで引き上げると試料は自然状態よりはるかに低い圧力にさらされ、原型をとどめていない場合もある。地下世界の生のデータを手に入れるには、高い圧力を保持したまま試料を採集する仕組みが必要であった。それがハイブリット保圧コアシステムであり、その開発と運用に成功した。
(2013年3月掲載)
| 取材協力 水口 保彦 海洋研究開発機構 地球深部探査センター(CDEX) 運用室 工務グループ 技術主幹 |
高圧の地下世界
水圧。これは水中でかかる圧力で、水の重さによるものだ。深海の、さらにその海底下となれば地層の重さも加わってくる。こうして生じる圧力は、地上の数十倍、あるいは数百倍。深海の下に広がる地下世界は高圧の世界である。
地下世界では様々なことが起きている。色々な微生物がゆっくりと生き、地下水に溶けたガスが冷たい海底まで移動する。あるいは地下にあるやわらかい泥が火山のように噴き出して、泥ごとメタンを吐き出す場合もある(泥火山)。地下世界のこうした循環は興味深いものだが、具体的な姿はほとんど分かっていない。掘削することは出来ても、地下世界の高圧を保持したまま試料を採取する仕組みが確立していなかったからだ。
「ハイブリッド保圧コアシステムは、『ちきゅう』が用いているドリルパイプの中を昇降することができ、地下の圧力を保持したまま試料を採取できるシステムです。」地球深部探査センターの水口保彦技術主幹はそのように語る。深海掘削で用いられるドリルパイプは円筒状で、真ん中に穴が開いており、その先端に堆積物を掘り進むドリルビットがセットされている。海底下の堆積物を掘り進めば、中心が掘り残され採集用のブラスチック容器(インナーチューブ)にサンプルが入る仕組みだ。この円筒状に掘り残された堆積物がコアと呼ばれる。ドリルパイプを通してサンプルが入った容器を引き上げれば堆積物を採取すること出来るわけだ。
問題は、サンプルを船上に回収する時、場合によっては堆積物の構造が大きく崩れる事があることだ。例えば、高圧かつ低温の条件下で固体を保つメタンハイドレートは、海底から引き上げて圧力が下がると、気体であるメタンガスに戻り、激しく発泡し始める。堆積物の構造はめちゃめちゃになり、あるいは押し出されて、サンプル容器が空っぽになってしまうこともあるのだ。これを防ぐには掘り抜いた堆積物を密閉し、なおかつ現場の高い圧力をそのまま保つようにしなければならない。
ハイブリッド保圧システム、その仕組み
しかし、新しい仕組みやシステムを作るには技術的なことだけでは足りない。その装置が、現場でどのように使われるのか知っている技術者が、運用面の事柄も把握した上で設計する必要がある。水口技術主幹が手がけた仕事はそういうものだった。まず保圧システムは「ちきゅう」が用いているドリルパイプ内部を昇降できなければいけない。また、素材は高い圧力を保持できるものが必要だ。そこで既存のシステムをパイプに合わせて小型化し、堆積物の入る管の材料は鋼を採用した。圧力を保持するために管の上下をふさぐバルブは、ボールバルブを採用した。「蓋をスライドさせて閉じるという方法もあるのですが、それだと地上での使用前確認が出来なくなってしまいます。それでは研究目的の仕組みとは言えないでしょう。それにスライド式ですと、構造上、試験に支障が出てしまいます。仕組みにはそれぞれくせや制限があってそれを考慮しないといけません。」水口技術主幹はそのことを説明する。一方、採用されたボールバルブ方式は金属製のボールに穴を開けたもので、90度回転してパイプを塞ぐものだ。
ハイブリッド保圧コアシステムの一連の動作は、ドリルパイプ内を船上まで引き上げる過程の中で機械的に作動する。「今回改良した保圧システムは、バルブをスプリングで閉じる様にしました。リンク等で動作させる方法もあるのですが、機械式にシンプルに動作させた方が、トラブルが少ない利点があります。」水口技術主幹はそう説明する。まず、ハイブリッド保圧コアシステムをドリルパイプの中から引き上げるにしたがって、上部のシール(密閉フタ)がしまり、次に下にあるボールバルブがしまる。密封自体はこれで完成だが、さらに、上部に配置された窒素ガスの弁がいったん開き、ピストンを内部に押し込むようにして内側の圧力を高める。中の圧力を少し高めることで、中から外へ弁が押し付けられ、よりしっかりと密封される仕組みだ。
(下図参照:矢印をクリックして仕組みをご覧下さい)
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