地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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石炭層を掘り抜く

 「そこからは快進撃でした。2,000m付近まで掘り進んで、真っ黒な石炭が採取された時には、本当にホッとしました。事前の探査から石炭があることは予想していました。しかし本当にあるのかどうかは、実際には掘らないと分からない。これは、まさに黒いダイヤだ、そう思いました。」嬉しそうに語る稲垣上席研究員の顔は、当時の心境を雄弁に物語っていた。
 それまで海洋科学掘削プロジェクトの最深度掘削記録は、アメリカのジョイデス・レゾリューション号による2,111mだった。2012年9月6日、「ちきゅう」は八戸市の沖合でその記録を塗り替えた。そこから先の世界は、科学界にとって初めてとなる領域だ。石炭は、いくつもの砂層と互層になって続いていた。予定していた深度2,200mを越えて、より深い石炭を追って掘り進めること2,400m。そこで予想外の石炭層に当たった稲垣主席上席研究員は、真夜中に陸上の支援部隊と連絡を取り合い、掘削深度の延長を協議したという。その予想外な石炭層は、ごく薄いもので、それを掘り抜けば、より完全な研究試料が得られると考えたからだ。最終的な深さは海底下2,466m。これが現時点における海洋科学掘削プロジェクトの最深記録である。

意外な温度

 もちろん、科学掘削なのだから記録更新だけでは終わらない。掘削孔に機器を降ろして様々なデータを深度ごとに記録する。意外なことに、石炭が埋まっていた地層の温度は、その最深部でさえ60℃程度だった。これには皆、驚いたそうだ。典型的な大陸沿岸の堆積物は、30mにつき約1℃上昇する。2,400mを越えたのなら単純計算で80℃以上のはずだ。堆積学を専門として調査に参加した高知大学、村山雅史教授は「下北半島の沖合は、冷えた海洋プレートが日本列島の下に沈む込み始めた場所です。下が冷たいので温度が低いのかもしれません。」そういう可能性を指摘している。
 石炭の熟成は地熱の作用でも進行する。温度が50℃と低いせいだろう、最後に掘り抜いた石炭層は熟成度が浅く、まだ多くの栄養成分を残していた。いわば、微生物たちのご飯が多くあったわけで、地下生命圏を探る上では良いニュースである。