地下微生物を選り分ける
しかし、堆積物の中から地下微生物を見つけるのは簡単なことではない。「海底下には、表層の1万分の1以下の細胞しかありません。普通の分析手法では見つけられません。」稲垣上席研究員と共同で地下生命圏の研究を行い、今回採取されたコア試料を分析する諸野祐樹主任研究員はそう説明する。ではどうするのかというと、堆積物を細かく砕き、比重の違う2つの溶液に入れ、重さで微生物を鉱物から選り分ける。「それでも鉱物の破片が混じりますから、微生物の遺伝子と結合する化合物を加えます。染色された細胞は、紫外線で蛍光を発しますので、それを手がかりに顕微鏡で探せばいいのです」諸野さんは実際にやってみせるが、微生物は顕微鏡の狭い視野の中にぽつんと光る緑の点でしかない。探す作業は機械化もしているが、「ちきゅう」船上では、自分たちの目と手で行う場合もある。
しかもこれだけではすまない。掘削に泥水を使い、人が作業をする以上、どうしても採取したコア試料には、泥水や海水、人間の周囲にいる微生物が混じるのだ。「よその微生物が混じるのはいわば汚染ですね。汚染が少ない試料を使う。そして見つけた微生物の遺伝子を調べる。人間の周辺や海水にいる微生物に近いものが見つかれば、それはどこからか紛れ込んだものです。そうやって、地下深部の微生物だけを絞り込んでいくのです。」諸野さんはそう説明する。
諸野さんを含め、稲垣上席研究員が率いる地下生命圏研究グループは、現在、コア試料から見つけた微生物細胞を1個体ずつ、自動的に取り出す技術も駆使して、最先端の生命科学研究を進めている。一昔前なら、微生物は培養皿の上で育てて、大きなコロニーにしてから扱っていたことを考えると、目がくらむような進歩だ。
科学に必要な精度
科学調査では技術と精度が重要だ。「掘削孔と循環する泥水から地下のガスをリアルタイムで本格的な地球化学分析するためのラボを「ちきゅう」船上に整備し、海底下の環境を探るための重要なデータを得ました。また、ライザー掘削システムは、孔壁が泥水で守られているため安定していますから、複数のセンサーを用いて、クオリティの高い地層のデータを安定的に取ることができました。」稲垣上席研究員は技術に裏打ちされた成果をそう説明する。採取された試料は高知コア研究所に保管されており、各国の研究者の求めに応じて試料を送る態勢も整っている。現在、乗船研究者を中心に、堆積学や生物学、様々な視点から分析が進行中だ。
一方、課題もある。「石油掘削で培われた現場の地層水を直接採取する最新技術を、今回初めて科学掘削に応用しました。現場の圧力のまま採集できた初めての試料です。ですが地下水以外の液体がかなり混入していました。科学目的に使うには、さらに純度を上げる必要があります。科学側からの技術開発の提案が必要でしょう。」稲垣上席研究員はそのように説明する。


