アジア地域の陸上生態系連動システムに関するマップ・データベースを構築

この研究課題では、衛星観測による植生(※)量(以下、衛星植生量)情報を用いて、アジア地域における植生変化の地域による特徴を気象データと統合して分析を行う。年々の植生と天候の連動関係をマクロな視点から明らかにするとともに、さまざまな農業データを取り入れることで農業との連動関連も解明し、その成果をマップ・データベースとして構築することが目的である。
2006年度には具体的な計画として次の5項目を設定した。(1)日本全国の水稲に対する農業保険金支払額と衛星植生量の経年変化との関係を明らかにする。(2)衛星植生量と光合成有効放射量(太陽光のうち光合成に利用されうる光の量[略称:PAR])の経年変化との連動関係を地球全体において調べる。(3)冷害に対する水稲の収量被害量と水田経営面積などの条件との関連を探る。(4)中国の農業データの整備を行う。(5)本研究課題と関連する生態系データセットの構築を進める。

※植生=陸上に生息している植物の集団

農業をはじめ、多分野での利用が期待できる研究成果

前述の(1)~(5)について研究成果を述べる。
(1)日本全国の日別衛星植生量データベースを構築し、そのアニメーションを作成。雲の影響は千葉大学のグループが開発したTWO(雲の影響の大きいデータを除外する手法)を応用して低減した。このデータセットをもとに全国平均での衛星植生量と農業保険金額、気温との経年変化の関係を調べ (図1)、その結果にもとづいて予測経験モデルを確立した。
(2)1986年から1995年の10年間における衛星植生量と、気温、降水量、PARとの経年変化の相関係数をマッピング (図2)。その結果、北半球ではおよそ北緯60度以北の地域で衛星植生量と気温との正の相関(一方の変数が増加すると他の変数が増加する関係にあること)が高いことが分かった。そのほかの多くの地域では、衛星植生量と降水量との正の相関係数が大きかった。PARとの相関が強かったのは南アメリカのサバンナ地域、中国の南東部、シベリアなど、雲量の多い地域にほぼ対応して点在することが分かった(Suzuki、 2007)。
(3)栃木県の茂木町、市貝町において、水稲の被害額と気温との経年変化の関係を分析。低温に対して鈍感で被害が小さい集落と、敏感で被害が大きい集落があることが分かった。概して、専業率の高く経営面積の大きい集落で被害が小さかった。その結果を使って、水稲の冷害に対する農業経済条件による集落別の冷害軽減量(冷害抵抗力)を評価するマップを作成した(図3)。
(4)「中国農業統計資料」のうち、1987年から2000年までの統計上重要な項目をデジタル化。また、北京の研究機関や出版社などを訪問し農業に関する資料を収集した。
(5)今後作成される陸上と海洋の生態系に関するさまざまなデータのリストをまとめた。

図1 全国の水稲に対する保険金支払額(青)と8月の全国平均の衛星植生量(緑)との連動。日本における平均気温(赤)の変動を参考に示した。

図2 衛星植生量(NDVI)と、気温(T)、降水量(P)、PARとの経年変化の連動関係の強さ。マゼンタ、シアン、黄色は、それぞれ衛星植生量と気温、降水量、PARとの1986~1995年における経年変化の関係の強さを示している。

図3 農業経済条件による集落別の冷害軽減量(=冷害抵抗力)。被害量は概ね気象条件に依存するが、経営面積に占める水田率や高齢労働力の割合といった集落の農業経済条件により、被害の軽減量が異なる。

■参考文献
1) Rikie Suzuki:「Preliminary analysis on interannual response of global NDVI for precipitation, temperature, and radiation」,Proceedings of the Seventh International Conference on Global Change: Connection to the Arctic (GCCA-7),293-296,(2007)