気候システムの一部を担う寒冷圏の雪や氷の変動を分析

地球上に存在する水の中で淡水は3%弱であるが、その淡水の80%が雪や氷の固体で占められている。これらの雪や氷は積雪・氷河・氷床、もしくは永久凍土として陸上に存在し、こうした寒冷な地域を寒冷圏と呼ぶ。寒冷圏の雪や氷は気候システムの一部を担い、その変動は寒冷圏のみならず地球規模での水循環や海水準(陸地に対する海面の相対的な高さ)の変動に大きく影響を与える。そのため寒冷圏の雪や氷の分析結果が、気候システム解明の確かな手がかりとなる。
本研究課題では、永久凍土が広くみられ、高緯度地域や山岳地域では氷河も存在するユーラシア大陸の寒冷圏(以下、ユーラシア寒冷圏)のシベリアやモンゴルを対象とし、この地域の雪や氷の変動を分析しながら気候システムの解明に向けた研究を行う。
ユーラシア寒冷圏が研究対象となる理由は、近年の地球温暖化により顕著な気温の上昇を示す地域で、気候システムの変動と深く関わっているからだ。例えば、この地域の北極海に注ぐ大河川流域は、20世紀前半から長期的に河川流量が増加する傾向にある。また、北極海の夏の海氷面積は年々減少傾向にあり、2007年は観測史上最小、2008年は下から2位、2010年は下から3位を記録した(2010年秋現在)。
これらの夏の北極海における海氷の激減は、ユーラシア寒冷圏の降水システムに影響を与えることが解明されつつある。また、近年では降水量の増加と永久凍土の温度の上昇に関連があることも分かってきた。

グローバルな気候変動の仕組みを解き明かす

このように雪や氷は、その水・熱・物質収支を通して海洋-大気—陸域の間のエネルギーを交換する複合的な働きを担っている。北極海を含めたユーラシア寒冷圏は、海洋-大気-雪氷(積雪・凍土)-陸域からなる気候システムから成り立つと考えられる。
しかし、北極海流入河川における流量増加の原因や気候システムの中で積雪・凍土が果たす役割、雪氷の変動過程など、まだ解明されていない問題が多くある。寒冷圏における水循環の過去、現在、未来の変動を知ることは、単なる地域規模での研究にとどまらずグローバルな気候変動の仕組みや私たちの生活への影響を知る上でも重要である。例えば、ユーラシア大陸の氷河の融解水はアジアの乾燥地域の貴重な水資源であり、この氷河の消長は人間活動にも影響を及ぼすだろう。
ユーラシア寒冷圏での気候に関わる各種変動をより正確に把握するため、今後も引き続き現地の研究機関との共同研究や現場に建てたタワーによる気象要素・地温などの測定を通じて、熱や水の動き、積雪や凍土の状態を調べていく。その研究成果を気候システムの解明に活かしていきたい。