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シームレス環境予測研究分野

トピックス

「全球高解像度非静力学モデルを用いた気候実験の再現性」についての研究成果が Journal of the Meteorological Society of Japan に掲載されました

背景
気候変動の研究において、スーパーコンピュータによる気候シミュレーションは中心的な役割を果たしています。数十年以上という気候スケールのシミュレーションを短期間で行うため、多くの場合 100 km 以上の水平解像度を持った全球気候モデルが計算に利用されてきました。このような水平解像度では対流を直接表現できないため、経験的な定式化である対流パラメタリゼーションが用いられています。しかし、対流パラメタリゼーションの表現はモデルによって異なり、気候の将来予測がモデルによって異なる大きな原因になっています。また、粗い水平解像度では台風の強度を過小に再現してしまうため、その将来予測も十分な信頼性で行うことができません。高解像度モデルを用いて、出来るだけ不確定性を低減した気候シミュレーションを行うことが求められていました。

今回行ったこと
本研究では全球非静力学モデル NICAM1 を用いて、水平 14 km 格子という高解像度で 30年間の気候シミュレーションを実施しました。計算はスーパーコンピュータ「京」1において行い、約 200 TB という大容量のシミュレーションデータを取得しました。このような高解像度での気候シミュレーションは世界でもまだ数例しか行われておらず、特に対流パラメタリゼーションを使わない点では世界初です。今回発表した論文では、この新しいデータがどの程度現実を再現しているか、多面的な視点から初期評価を行いました。具体的には、降水、雲、気温、ジェット気流といった基本的な場に加えて、台風やマッデン・ジュリアン振動2、熱帯波動、アジアモンスーン、梅雨、成層圏変動といった特徴的な現象について解析を行いました。

成果のポイント
初期評価の結果、全体的にモデルは現実の気候をよく再現していることが分かりました。特に重要な成果は、台風の分布(図1)と季節変化が現実をよく再現できた、という点です。台風を追跡する際には中心風速 17.5 m/s 以上という台風の定義をそのまま用いており、台風の強度をよく再現できていることが分かります。また、台風発生や日本付近の天候に影響を及ぼすマッデン・ジュリアン振動についても、生成から衰退までのサイクルがよく再現されました。マッデン・ジュリアン振動は気候モデルによる再現が難しいとされており、今回の再現によって気候学的な研究がさらに進むと期待されます。さらに、全球の降水量(図2)といった基本的な場の再現性が良好であることも確認されました。

今後の展望
今回の研究によって、高解像度全球非静力学モデルの高い可能性が示されました。図3のようなシミュレーションデータが 30 年分も蓄積されています。また、本研究と並行して将来気候の予測実験も行っており、台風に関する最初の結果が同時掲載されています3。次のステップとして、これらの新しいデータを使って国内外の多くの研究者と協力しながら新しいサイエンスを発展させていきたいと考えています。例えば HighResMIP4 や CFMIP5 といった国際プロジェクトへ積極的に参画していくことで、高解像度モデルを用いた最先端の気候研究をけん引していきます。
一方で本研究の結果から、モデルの再現性にはまだまだ多くの課題が残っていることも明らかになりました。例えば、モデルは現実に比べて雲頂高度の高い雲を過剰に、低い雲を過小に再現する傾向があります。人工衛星などの観測データを用いて雲・降水プロセスの詳細を検証しながら、モデルにおける雲の取り扱い(雲スキーム)を改良してきます。このようなモデルそのものの課題に加えて、14km という水平解像度では対流や雲を表現するのに十分ではない、という問題もあります。新しい人工衛星による観測やポスト京1のようなスーパーコンピュータの能力向上に助けられながら、今後もモデルの検証・改良と現象の理解に向けた研究を推進していきます。

謝辞
・本研究で行われた計算は、文部科学省によるHPCI戦略プログラム分野3「防災・減災に資する地球変動予測」の研究課題「地球規模の気候・環境変動予測に関する研究」(課題ID hp120279, hp130010, hp140219)の一環として実施されたものです。


図1:(上段)台風の発生、(中段)経路、(下段)平均強度の分布。左が観測、右がモデルの結果。Kodama et al. (2015), J. Meteor. Soc. Japan のFig.10 から転載。


図2:各季節における降水量の気候平均値。上から順に、6~8月、9~11月、12~2月、3~5月平均。(a)観測。(b)モデル。(c)モデルの観測からの差。(d)黒:観測、赤:モデルにおける東西・全球平均。(Kodama et al. (2015), J. Meteor. Soc. Japan のFig.1 から転載。


図3:モデルが再現した外向き長波放射および降水量のアニメーション。外向き長波放射は雲、大気、地表などから宇宙へ放射される長波(主に赤外線)である。この値が小さいほど雲、大気、地表などの温度が低いことを表している。一般的に背が高い雲ほど低温であり、アニメーションでは白く表現されている。

脚注
1:NICAM、スーパーコンピュータ「京」、ポスト京
2:マッデン・ジュリアン振動
3:M. Satoh, Y. Yamada, M. Sugi, C. Kodama, A. T. Noda (2015), Constraint on Future Change in Global Frequency of Tropical Cyclones due to Global Warming, Journal of the Meteorological Society of Japan, 93, 489-500.
4:HighResMIP(高解像度モデル比較プロジェクト)
5:CFMIP(雲フィードバック・モデル比較プロジェクト)

論文情報
C. Kodama, Y. Yamada, A. T. Noda, K. Kikuchi, Y. Kajikawa, T. Nasuno, T. Tomita, T. Yamaura, H. G. Takahashi, M. Hara, Y. Kawatani, M. Satoh, and M. Sugi (2015), A 20-year climatology of a NICAM AMIP-type simulation, Journal of the Meteorological Society of Japan, 93, 393-424.
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