研究の目的
私たちが行っている大気組成の観測的研究では、主に「対流圏オゾン」や「エアロゾル」に焦点を当てています。エアロゾル粒子のなかでも「黒い」粒子であるブラックカーボンやオゾンは、「短寿命気候影響汚染物質、SLCPs」として知られ、大気中の汚染物質であると同時に、地球温暖化を促進する物質です。これらの発生源や消失過程に関する科学的知見を得ることによって、大気汚染と温暖化の問題に関して、2040年ごろの近い将来、どのように緩和していくとよいのか、政策決定者が検討するうえで重要な情報を提供します。地球の表面温度が100年前より2度上昇すると大きな変化が起こると考えられており、CO2の削減による長期的な気候コントロールに加えて、即効的な効果が期待されるSLCPsの削減を行うことが重要とされています。
地理的には、急速な経済成長による地球環境の変化が著しい「東アジア・太平洋地域」に焦点を当てています。人間活動による窒素酸化物(NOx)や有機物の大気への排出量が増加し、大気中での光化学反応によって二次的に生成するオゾンやPM2.5の量や、窒素循環が大きく影響を受けています。しかしながら定量的な知見は十分に得られていません。我々は野外観測と衛星観測を合わせて、理解度の向上を目指しています。
我々は近年、北極海や外洋域へと観測対象地域を広げ、海洋地球研究船「みらい」を用いた大気組成変動の広域観測を実施しています。ここでは、より自然なプロセスについても研究しています。たとえば、海洋から発生するエアロゾル粒子が気候や雲に与える影響や、生態系との関係などを対象としています。北極環境変動総合研究センター(IACE)と共同で、中緯度から北極へと大気中を運ばれるブラックカーボン粒子の起源や輸送経路についても研究しています。また、我々は、野外観測やラボ実験のための独自の機器開発も光学的な手法などを用いて進めています。