平成19年10月31日(水)、第6回地球シミュレータセンターシンポジウムを都内港区の「女性と仕事の未来館ホール」にて開催しました。
「シミュレーション科学の飛躍的発展を担って」をテーマに、地球シミュレータセンターが取り組んでいるさまざまな研究や、その成果を講演しました。原子などのミクロな現象、地球環境変動などのマクロな現象、それらの階層を"まるごと"取り扱うための方法論「連結階層シミュレーション」などの話題について紹介しました。
多数のご来場、まことにありがとうございました。

当日使われました講演資料は、各講演のリンクよりダウンロードできます。
佐藤 哲也 (地球シミュレータセンター長)
21世紀に入りまもなく(2002年)、地球シミュレータというスーパーコンピュータが現れました。このシミュレータは従来のシミュレーションの考えを180度転換しました。従来のスーパーコンピュータは、その能力不足から、解明したい対象システムを単純化し理想化して調べることしかできませんでした。理想化する限り、現実のシステムの未来発展は決して予測できません。地球シミュレータは、その取り扱う情報量の大きさとその処理速度の速さから、システムを"丸ごと"シミュレーションすることを可能にしました。"丸ごと"はシステムの未来の発展を科学的に予測することができることを意味します。それは、「未来を観る望遠鏡」を創り出したことに対応するほど重大な出来事であります。
シミュレーションの役割は、学問界の開拓にとどまらず、実社会における自然災害、環境変動に対する信頼のおける科学的予測を可能にするものであり、新機能、新材料、新製品の低コスト・短開発期間に寄与する産業生産方式の変革を主体的にもたらすものであり、その貢献は計り知れません。
地球シミュレータセンターの研究者は、安心・安全な社会の構築、産業の新しい形態の流布による社会の新しいあり方を創出するために、世界に先駆け、積極的にシミュレーションのアルゴリズムを開発し、近い将来、若者たちが、自らの将来の生き方、シミュレーションの予測を取り入れ、試行錯誤しながら積極的に選択していける社会の到来に向かい日夜奮闘しています。私はこの時代の到来が近いと信じ、「シミュレーション文化」の到来と呼んでいます。
小守 信正 (地球シミュレータセンター 大気・海洋シミュレーション研究グループ 研究員)
地球の大気と海洋は、互いに影響を及ぼし合いながら変動しています。近頃はお茶の間でも耳にする機会の多くなった、太平洋のエルニーニョ現象やインド洋のダイポールモード現象は、大気と海洋の大規模な相互作用の代表例です。
日々変化する天気とは違い、大気と海洋の相互作用によって生じる現象は、数年から数十年、あるいは数百年といった時間をかけて、ゆっくりと変化します。そのため、詳しく研究しようにも、観測データの蓄積が十分ではありません。そこで、計算機の中に仮想的な大気と海洋を作り出し、そこで起こる現象をつぶさに調べることが重要になります。
地球シミュレータを使って大気と海洋の高解像度シミュレーションを行うことは、さながら、超大規模な交響楽団を指揮するようなものです。講演では、大気と海洋が奏でる絶妙なハーモニーの一端をご紹介したいと思います。
彭 新東 (地球シミュレータセンター 複雑性シミュレーション研究グループ 研究員)
社会的な要請が高い激しい降雨や強い風などの予測シミュレーションに関連する現象は、大気や海洋における様々な条件が重なり合ってもたらされます。
複雑性シミュレーション研究グループでは、このようなさまざまな現象が影響し合って成り立つ大気や海洋の現象を捉え、シミュレーション予測に役立てようという挑戦を行っています。高性能で、効率よく、どんな現象にも柔軟に対応できるシミュレーションモデル、それは私たちが研究開発してきたシミュレーションモデルです。本講演では、これまで、私たちが取り組んできた全球から都市までを扱える非静力大気海洋結合モデルを使ってえられた、シミュレーション結果をご紹介するとともに、研究開発のなかで工夫を重ねてきた先進的な計算技術やその成果についてもご紹介します。
陰山 聡 (地球シミュレータセンター 固体地球シミュレーション研究グループリーダー)
宇宙から見た地球はきれいな球形をしていますが、考えてみるとこれは不思議なことです。地球の中身はそのほとんどがマントルと呼ばれる岩石の層なので、地球はいわば巨大な岩石のボールなのです。岩石であればところどころ尖っているゴツゴツとした形をしていてもおかしくないのに、地球はどうして丸くなっているのでしょうか? 実はとても長い時間スケール・大きな空間スケールで見ていると、さすがの岩石も水と同じように流れ出してしまうのです。マントル層を構成する岩石の流れ(マントル対流)こそがプレートを動かし、地震が発生させる源です。
さらにマントルの内側にはコアと呼ばれる鉄でできた領域があります。この鉄の一部は高温のため融けています。この液体コアも絶えず流れています。その流れをエネルギー源としてコアでは莫大な量の電流が発電されています。この電流が地球の周囲に磁場を作ります。つまり地球は巨大な発電機であり、電磁石でもあるのです。
本講演では、地球シミュレータセンターで研究しているマントル対流や、プレート運動、地震、コアでの発電効果など、地球内部のダイナミックな流れと、それに関わる様々な興味深い現象に関する計算機シミュレーションについてできるだけわかりやすく紹介します。
荒木 文明 (地球シミュレータセンター 高度計算表現法研究グループ 研究員)
シミュレーションといえば、コンピュータグラフィックス(CG)によるきれいな画像を思い浮かべる人は少なくないと思います。しかし、科学的なシミュレーションで得られる結果の多くは数字の塊に過ぎません。このような数値データからある特徴を抜き出してCG化する処理やその作業を、我々は「可視化」と呼んでいます。可視化を通してはじめて、我々はシミュレーションから新たな知見を見出すことができ、さらにその知見を広く世間に伝えることができるようになるのです。
昨今の環境問題への意識の高まりから、シミュレーションに対する世間の期待もいっそう膨らんできています。それらに伴って可視化が果たすべき役割も、いかに新たな発見を導き易くするか、いかに誰にでもわかり易くするかなど、多様化が進みつつあります。
本講演では、可視化の役割、機能、スタイル、表現など、それが持つ「能力」に焦点を当て、またそれを踏まえて、前述の問題点の克服へ向けた我々の着想と研究開発の現状、そしてその成果について述べたいと思います。
廣瀬 重信 (地球シミュレータセンター 連結階層シミュレーション研究開発プログラム 応用シミュレーション研究グループリーダー)

廣瀬 重信 グループリーダー
講演資料 (後日掲載予定)
摩擦は日常生活でもありふれた身近な現象ですが、まだきちんと解明されていないことも数多くあります。そもそも、摩擦はなぜ発生するのか?あるいは、物体の材質や接触の仕方は千差万別であるにもかかわらず、学校で習う「摩擦力 = 摩擦係数 × 垂直抗力」という単純な法則が広く成り立つのはなぜか?…などなど。このような摩擦現象の本質のいくつかは、物体の接触をミクロな原子レベルで観察することで理解できるようになってきました。
本講演では、まず、そのようなミクロな摩擦現象の基本的な性質を分子動力学シミュレーションを用いて解説します。さらに、日常生活でのマクロな摩擦現象を再現するシミュレーションに、ミクロな摩擦現象のシミュレーションを組み込む方法論(=連結階層シミュレーション)についてもご紹介したいと思います。
草野 完也 (地球シミュレータセンター 連結階層シミュレーション研究開発プログラムディレクター)
豊かな自然と生命を育む宇宙船地球号が飛び続ける暗黒の宇宙空間。しかし、最新の科学が暴き出す宇宙の姿は、激しい放射と爆発、強力な宇宙線に満ち溢れたダイナミックな世界です。我々の地球環境も太陽黒点など様々な天体現象と無縁ではあり得ません。しかし、地球と宇宙の不思議なつながりの背後には多くの未知なプロセスが潜んでいるため、そのメカニズムは未だに解明されていないのです。
地球シミュレータセンターでは「連結階層シミュレーション」と呼ばれる独自の方法論に基づいて、このなぞに挑戦しています。
連結階層シミュレーションは原子、微粒子、地球、宇宙など、それぞれの物理階層に適合した計算モデルを相互に連結することによって初めて可能となる、次世代のシミュレーション技術です。
この講演では、太陽及び宇宙と地球環境の関係に関する最新の研究成果をやさしく解説すると共に、連結階層シミュレーションの原理と方法をその応用例と共に説明し、最新のシミュレーション研究を通して地球環境の過去と未来を探る取り組みをご紹介します。