平成15年度地球シミュレータ共同プロジェクト利用報告会

利用責任者名 : 宇川 彰 (筑波大学 計算物理学研究センター)

共同プロジェクトテーマ : 地球シミュレータによる格子上の素粒子標準模型の研究

PDF 発表資料 (533KB)

発表要旨

1.プロジェクトの目的

素粒子標準模型とは、強い相互作用を記述する量子色力学 (QCD)と、弱電磁相互作用を記述する Weinberg- Salam 理論を統合した場の理論である。標準模型の確立は、素粒子物理学の最大の課題の一つであるが、それには、標準模型を四次元時空格子上に定義して、大規模数値シミュレーションにより解く必要がある。従来、この問題に対しては、膨大な計算規模と、奇数種類のクォークに対する計算アルゴリズムが未開発であることにより、近似無しのシミュレーションは行うことができなかった。本研究課題は、本グループにより最近確立した近似無しアルゴリズムPHMCを基礎として地球シミュレータの計算力を適用することにより、真に自然界に対応した素粒子標準模型のシミュレーションを始めて実現し、素粒子物理学の懸案の解決に大幅な進展を期する。

2.今年度当初の計画

(1)平成14年度に引き続き計算コードの移植と最適化を実施する。

(2)この作業が終わり次第、 24x24x24x48格子の計算を開始する。物理量については、本年度はハドロンの質量にテーマを絞る。このために必要なハドロングリーン関数は同時に計算を行う。その他の量は、グルオン配位を一旦保管し、必要に応じて再度ロードして計算する手法を取る。

(3) 24x24x24x48格子の計算が一定程度進んだ段階で、32x32x32x64格子での計算を開始する。

3.今年度得られた成果、および達成度

<成果>

(1)ノード内ではマイクロタスク、ノード間では MPIによる並列化により、プロセッサあたり約60%、プログラム全体で、最高約40%(32x32x32x64サイズ、16ノード)の効率を達成した。

(2)最適化コードの性能及び目標とする計算精度(統計)の検討によりサイズを 20x20x20x40に変更し、10個の物理パラメータセットに対し各7000トラジェクトリの計算を実行・終了した。同時に、π、ρ、K等の中間子基底状態の質量計算及び解析を行い、以下の結果を得た:

(i) 従来の近似計算では実験値との間でずれが見られていた中間子質量スペクトルについて、今回の近似無し計算により1%の精度でQCDの正しさを示す結果を得た。但し、(3)に記した格子間隔を小さくした計算により確認が必要。

(ii) 自然界の基本粒子である up,down,strange の三つのクォークの質量が、モデルによる推測値や従来の近似計算に比べ、大幅に軽いことを発見した。

(3)2004年1月からは 28x28x28x56格子での計算を開始する予定である。

<達成度>

(1) コード最適化については計算と通信を重ねる作業(ほぼ終了)を除いては、当初予定どおり終了。

(2) 24x24x24x48格子計算は20x20x20x40にサイズ変更したが、当初予定の計算はすべて終了し、物理結果の解析も進んでいる。2004年の早い時期に論文作成に入れる状況である。

(3) 32x32x32x64格子計算は28x28x28x56格子にサイズを変更して予定どうり開始の見込み。

 以上、当初予定は十分に達成できたと考えている。