平成15年度地球シミュレータ共同プロジェクト利用報告会
利用責任者名 : 深尾 良夫 (海洋科学技術センター 固体地球統合フロンティア研究システム)
共同プロジェクトテーマ : マントル対流の数値シミュレーション
発表資料 (594KB)
発表要旨
1.プロジェクトの目的
マントルのダイナミクスを理解するためには、数値シミュレーションは最も有用なツールである。これまでのマントル対流の大規模シミュレーションコードは個々の研究者により個々の目的に合わせて様々なものが開発されてきた。本研究ではそれらのコードを再検討することにより、地球シミュレータを有効利用し、かつ研究目的に合ったマントル対流シミュレーションコードをチューニング、選別あるいは開発する。これらのコードを用いて、複雑なレオロジーのプレート運動に与える影響、相変化の存在がマントル対流に与える影響、現在のプレート運動の再現、溶融などの化学変化がマントル対流に与える影響等を調べる。
2.今年度当初の計画
対象とする問題の性質により、マントル対流の時間発展を解く「フォワードモデリング」的研究と、 ( 時間発展を解かない、という意味で ) 「バックワードモデリング」的研究の 2 つに便宜上区分する。
- 「フォワードモデリング」的研究
- 各プログラムの ES 向け最適化、ベンチマーク、性能評価
- 高 Rayleigh 数、大粘性変化の 3 次元マントル対流の系統的シミュレーションによる、マントル対流の基礎的性質の研究
- 大陸プレートとマントル対流の相互作用による、プレート境界の自律的形成とマントル対流のダイナミクス・進化過程
- マグマの発生・固相 - 液相 - 気相 3 相系のダイナミクス
- 「バックワードモデリング」的研究
- 各プログラムの ES 向け最適化、ベンチマーク、性能評価
3.今年度得られた成果、および達成度
<成果>
「フォワードモデリング」的研究は、 FEM による 3 次元球殻用コード 2 件、 FVM による 3 次元箱型用コード 1 件により、「バックワードモデリング」的研究は FVM による 3 次元球殻用コード 1 件により行なっている。
- 時間発展を解く問題 ( 「フォワードモデリング」的研究 )
- FEM に基づいた 3 次元球殻熱対流計算プログラム「 TERRA 」 (LANL 作 ) を用いて、マントル対流に重要な諸効果を含んだ計算を行なっている。現在まで最大 128 ノードの利用が許可され、これにより全球規模で水平・垂直 30km 以下の分解能が実現できた。現在は深さ 660km( 上部マントルと下部マントルの境界 ) の相転移が対流パターンに及ぼす影響に特に注目し、相転移の Clapeyron 勾配の値を系統的に変えたシミュレーションを行なっている。マントル対流の層構造パターンが全層対流、間欠対流、二層対流となるパラメータ範囲を探査し、かつ層状構造崩壊の時空間スケールについて調査を行なっている。
- 安定化 FEM を用いた 3 次元球殻内計算コードの地球シミュレータへの移植と最適化を行っている。最新の数値流体力学の成果を取り入れていることなどにより、計算の精度に優れていることが本コードの特徴である。反面、非構造メッシュのデータ構造に起因する間接メモリーアクセスのため、ベクトル化が難しいという問題点があったが、今年度行なったチューニングにより、 99.86% のベクトル化率と単体 CPU で 811MFlops の性能を得た。またこのプログラムにより、粘性率コントラストが 10000 に及ぶ温度依存粘性のモデルの時間発展問題の数値計算を行なうことができた。現在は引き続き MPI 並列化の作業を行なっている。
- 「コア・マントル結合系のダイナミクス」グループと共同で、 3 次元箱型 FVM プログラムを新しく開発した。これにより、前年度作成したプログラムと比べ大幅な計算時間の短縮を達成した。また、特に粘性率が大きく空間変化する場合の計算が著しく高速化された。
- 時間発展を解かない問題 ( 「バックワードモデリング」的研究 )
- FVM による 3 次元球殻モデルにより、地表面のプレート境界位置、マントル内の粘性率及び密度構造を仮定して瞬間的なマントル対流のパターンを求める研究を行なった。これにより、現在観測される表面のプレート運動を再現するマントル対流モデルがある程度得られた。現在は計算精度の検証を行なっている。
<達成度>
今年度当初の計画のうち、フォワードモデリング 1 、 2 に関してはほぼ当初目標通りの成果を得た。特に計算コードの最適化・高度化作業については大きな進展が得られた。一方、現実のマントル対流の問題が関わるフォワードモデリング 3 、 4 及びバックワードモデリング 1 に関しては当初計画の半分程度しか達成することができなかった。この原因として、コードの最適化・高度化作業に予想以上の時間を要したこと、及び遠隔地の研究者が ES 上で頻繁に作業することができなかったこと、が挙げられる。しかし、現に ES で動作しているコードについては問題点は解消されつつあり、遠隔地の研究者も次年度以降に本格的に ES 上で動作させる予定でプログラム開発を進めている。これより、次年度以降は現実のマントル対流の問題に本格的に着手することができると思われる。