平成16年度地球シミュレータ研究プロジェクト利用報告会

利用責任者名 : 松元 亮治 (千葉大学 理学部物理学教室)

プロジェクトテーマ : 宇宙の構造形成とダイナミックス
―階層構造を連結する流体、磁気、輻射プロセスへの新たなアプローチ―

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発表要旨

1.プロジェクトの目的

  宇宙には、星、銀河、銀河団など様々な階層の構造があるが、これらを支配する物理過程は、重力過程、流体過程、磁気過程、輻射過程に集約される。流体・磁気・輻射過程は、それぞれ音波、電磁流体波、電磁波を通じて局所と全体を結合し、系の進化に大きな影響を与えている。本プロジェクトは、宇宙における階層構造を、これらの基礎物理過程の観点からとらえ直し、局所と全体をつなぐ数値的方法論を確立することを目的とする。

2.今年度当初の計画

  多階層にわたる物理過程を同時に解くために、流体計算の多層格子化、輻射輸送の導入、輻射過程と磁気過程の結合を行う。地球シミュレータを用いて、銀河形成期における銀河のダイナミックスと進化を、ダークマターと星が作る時間変化する重力場中での流体運動を追跡することによって調べる。また、観測との詳細比較ができる太陽表面現象を例にして部分系と全体系の磁気的結合をシミュレートし、実際の観測データとの比較を行う。

3.今年度得られた成果、および達成度

<成果>

  地球シミュレータに実装した流体コードを用いて、銀河形成過程を、ダークマターの重力場に捕捉されたガスの運動、星形成、超新星爆発による加熱と重元素放出等を考慮したシミュレーションによって追跡した。超新星爆発という局所現象が系全体の進化に与える影響を明らかにするため、1024^3格子点を用いた高解像度流体シミュレーションを実施した。その結果、最近「すばる」望遠鏡で発見された、遠方にある、広がったライマンα輝線天体と類似した構造が得られた。これは、観測された輝線天体が誕生しつつある銀河であることを示しており、銀河形成過程を明らかにする画期的な成果である。より広領域を扱う際に必要になる多層格子流体コードの実装とテスト計算も完了した。

部分系と全体系の磁気的結合の例として、太陽表面における浮上磁気ループとコロナ磁場の相互作用の高解像度3次元磁気流体計算を実施した。その結果、ループ頂上付近でレイリーテイラー不安定性が自発的に成長し、浮上磁場領域で観測されるフィラメント構造が自発的に形成されること、磁気エネルギーが空間的にも時間的にも間欠的に解放されることを示した。この成果はNature誌に投稿中である。さらに、輻射による階層間結合をシミュレートするためのFlux Limited Diffusion (FLD)近似に基づく輻射輸送モジュールの並列化とテスト計算を行った。

<達成度>

  地球シミュレータを用いて行った高解像度シミュレーション結果が論文としてまとまりつつある。目標としていた多層格子流体コードの地球シミュレータへの実装が完了し、プロダクションランが可能になった。磁場と輻射による階層間結合をシミュレートするコードについても地球シミュレータへの実装の見通しを得た。