平成16年度地球シミュレータ研究プロジェクト利用報告会

利用責任者名 :秋山泰(産業技術総合研究所生命情報科学研究センター)

プロジェクトサブテーマ4 :「正常プリオンタンパク質から異常プリオンタンパク質への構造転移プロセスの解明に関する研究」

発表要旨

1.プロジェクトの目的

   本研究では、分子動力学法(MD)を用いてプリオンタンパク質のダイナミクスを理解することで正常プリオンタンパク質PrPCから異常プリオンタンパク質PrPScへの構造転移のプロセスを明らかにすることを目指す。提案者らは、H15年度にWild Typeとプリオン病を引き起こすアミノ酸置換を行ったMutantのシミュレーションから、Mutant中のNMRで構造決定されていない領域のβシート化する描像を明らかにしている。本提案では、最近のcrowdingシミュレーションの研究を考慮し、通常のMDでよく対象とする水溶液中にタンパク質を一つだけ配置した系を構築するのではなく、アミロイドを構成し得る複数のプリオンタンパク質を配置した系を対象にシミュレーションを行うことで、プリオンタンパク質間の分子間相互作用を考慮した、分子シミュレーションが実現することで、構造転移のプロセスを明らかにすることを目指す。

2.今年度当初の計画

   既に分子動力学シミュレーションプログラムについては準備が進んでおり(H16年1月現在ベクトル化率98%、並列化率97.44%)、H15年度までにプリオンタンパク質単量体のシミュレーションを実施し、分子内相互作用がダイナミクスを求めている。この知見をもとにして六量体のモデリングを行うことがH16年度の第一の課題となるが、いくつかの立体構造を作成し、シミュレーションを行いダイナミクス解析を繰り返して長時間のジョブ実行の為の構造を決定する。その後は順次ジョブ投入を行う。その結果トラジェクトリ解析は、資源を有効活用するために別計算機で行う予定であるが、ジョブ計算の結果として有益なシミュレーションが実施されたかどうかをできる限り速やかに判定し、次回の投入に備える。以上を繰り返し、当研究プロジェクトが目的とするシミュレーションを実施する。

3.今年度得られた成果、および達成度

<成果>

   電子顕微鏡のタンパク質立体構造決定により、この一年でプリオンタンパク質六量体仮説が否定されつつある。そこで、本プロジェクトでは、正常プリオンタンパク質の異常プリオンタンパク質への構造転移のメカニズムを探るために、シミュレーションターゲットをプリオンタンパク質の一遺伝子置換(D178N, P102Lなど)に転向した。この遺伝子置換を行うと、プリオンタンパク質がβストランドの多い異常プリオンタンパク質に構造転移するというものである。分子動力学シミュレーションの結果、野生型の102proがプリオンタンパク質の正常構造をシミュレーションを通して保っているのに対し、変異型の102Leuが異常構造とでもいうべきβストランドが多い構造を示した。この結果から、102Proが異常構造への構造転移を抑制しているのか、102Leuの構造転移を加速しているのかを明らかにすることを目指しており、その確認の為に P102Lの変異型に続き、P102AというLeuと同じく非極性残基の変異型のシミュレーションを行い、102番目のアミノ酸残基Pro,Leu, Alaの役割に関する議論を深めた。本研究結果については現在論文執筆中である。次年度は、これらのシミュレーションで得られた定性的な結果に対して、厳密な定量的な議論を行うために拡張アンサンブル法によるシミュレーションから自由エネルギー地形を描き、フォールディング経路の解析などを行っていく計画であるが、本年度にそのプログラムのチューニングを前述のシミュレーションやその結果解析と平行して進めている。

<達成度>

  予定通りに進んでおり、来年度末までにはプリオンタンパク質の正常構造から異常構造への構造転移に関して一通りの結果が得られる水準まで進んでいる。