平成16年度地球シミュレータ研究プロジェクト利用報告会

利用責任者名 : 町田昌彦

プロジェクトサブテーマ5 : 超伝導ナノファブリケーションによる新奇物性と中性子検出デバイス開発のための超伝導ダイナミクスの研究

発表要旨

1.プロジェクトの目的

   最近発達してきた超伝導ナノファブリケーションのテクニックにより全く新しいタイプの超伝導デバイス開発の可能性が開けてきた。これを受けて本プロジェクトでは、以下の3つの新しい超伝導デバイス開発に関連したシミュレーション研究を行う。

  1. 中性子飛来の時系列を検出する超伝導デバイス開発のための研究。
  2. 1のテーマを基礎からサポートし、かつ新しい超伝導物理現象を探索するための研究。主に熱と超伝導ダイナミクスの相関をシミュレーションする一方、ナノスケール超伝導体の微視的状態も研究対象とする。
  3. 高温超伝導体と従来型金属超伝導体とをモザイク状に配置することで得られる量子ドットデバイスのシミュレーション研究。

 テーマ1では、コンソーシアムの複数の実験グループと協力し、高精度中性子検出デバイスを提案するための試行シミュレーションを実施する。

 テーマ2では、微視的状態を明らかにするため、ナノ超伝導体の基底状態の探索を行う。

 テーマ3では、量子コンピュータ・キュビットモデルとして有力視されている異なる超伝導体界面に現れる縮退半磁束のダイナミクスを大規模シミュレーションする。 

2.今年度当初の計画

平成16年4月~9月:

  1. 中性子検出シミュレーションの高度化を実施する。
  2. 行列対角化プログラムのベクトル並列化を行い超大規模行列の対角化を行い、新奇超伝導発現機構を探索する。
  3. 高温超伝導体の三角形ドットを超伝導基盤に埋め込んだ系をシミュレートする。

10月~12月:

  1. コードを電圧バイアス下条件でのシミュレーションに対応できるように改良を施す。
  2. 超大規模行列の対角化を実施し、超伝導を模擬するフェルミ原子ガス系の新奇超流動発現機構を探索する。
  3. 9月までの計画を引き続き継続する。

3.今年度得られた成果、および達成度

<成果>

 今年度得られた最も大きな成果はテーマ2)である。一般に酸化物高温超伝導体に代表されるような電子相関の極めて強い系の代表的理論的モデルとしてハバードモデルがあるが、当プロジェクトではこのモデルを有限に閉じ込めるために調和振動子型のポテンシャルを付加し、ポテンシャルが超伝導にどのような寄与を及ぼすかを超大規模行列(最大で千数百億次元に達する)の対角化を行うことで調べることとした。その結果、閉じ込めポテンシャルが有効に働き、ポテンシャル中心にモットコアと呼ぶ、1格子当たり1フェルミ粒子の状態を介して互いに隔たった周辺部で遠隔ペアリング相関が発達するという全く新しいタイプの超伝導を発見することに成功した。この超伝導は、固体で実現することは現状では困難だが、トラップされたフェルミ原子系においては近い将来実現可能である。このような結果から当プロジェクトでは、フェルミ原子ガスの分野に論文を提出しPhysical Review Letters にアクセプトされている。

<達成度>

   今年度、テーマ2のためのコード開発及びチューニングは当初の予定通り進み、達成度は100%であり、シミュレーション結果についても、当初の予想を超え、超伝導だけでなくフェルミ原子ガス系にも影響を与える新奇超流動発現機構を発見したことは極めて満足できる結果であると考えている。また、テーマ1及び3についても当初予定は十分達成されたことを記す。