■発表要旨
1.プロジェクトの目的
原子力材料において解決すべき重要な問題として応力腐食割れと照射硬化がある。これらの問題に対して、金属強度と照射欠陥についての基本的問題を微視的な立場から解決することが必要とされる。そこで、転位(結晶の塑性変形に主要な役割を果す格子欠陥)移動に関する素過程と多結晶体の破壊の2つのテーマについて大規模数値シミュレーションを駆使した研究を実施する。
- 「第一原理計算手法による体心立方結晶中の転位の移動及び水素の影響シミュレーション」では、体心立方(BCC)結晶に属するMoおよびFe結晶内の転位の構造、転位が移動するために必要な力(パイエルス応力)を第一原理計算により求める。さらに、Feに関しては水素(材料の脆化に関係し、応力腐食割れの原因の一つとされている)を投入し、そのダイナミックスを追うことで不純物と転位の相互作用について解明し、鉄の水素に対する機械的特性の変化に関する知見を得る。
- 「経験ポテンシャル分子動力学法による多結晶金属の塑性、破壊現象シミュレーション」では、応力腐食割れで観測されている粒界破壊現象に対して、多結晶体の塑性、破壊の微視的過程についての知見を求めるため、原子レベルのモデル化により、多結晶体及び照射による欠陥のシミュレーションを実施しマクロな機械的性質が出現する微視的過程を明らかにする。
2.今年度当初の計画
第一原理分子動力学法では、MoおよびFe中のらせん転位原子構造の特定とパイエルス応力の評価をする。経験ポテンシャル分子動力学法では、EAMポテンシャルプログラムの実装、及びこれらを使って単結晶(単純な粒界を含む)のシミュレーションを実施する。
3.今年度得られた成果、および達成度
<成果>
第一原理計算を用いて、らせん転位双極子を含むモリブデン(Mo)原子231個から成るスーパーセルに対して、k空間の点をパラメータとして全エネルギーの収束計算を実施し、Mo中らせん転位芯の構造決定を試みた。最終的にエネルギー収束は現在確認中であるが、いままで色々な計算法で混乱していた転位芯構造がほぼ同定された。
<達成度>
- 第一原理分子動力学法:達成度 B
k空間中の点を増加させるMoらせん転位のエネルギー収束計算は、当所の見込みより多くのプロセッサを必要とすることが分かり、プログラムのチューニングにより90ノードから180ノードによる計算を実施中である。そのため、Feの計算が遅れている。 - 経験ポテンシャル分子動力学法:達成度 C
EAMポテンシャルの実装、プログラムの整備は終了したが、割り当て計算時間を考慮し、第一原理計算を先行させているので、まだ計算の実施に至っていない。