■発表要旨
1.プロジェクトの目的
文部科学省次世代IT基盤構築のための研究開発プログラム「戦略的革新シミュレーションソフトウェアの研究開発」では、産業界での実用に耐えうる世界トップレベルの計算科学技術用ソフトウェアの開発を行っているが、その一環として基盤となるソフトウェア群を地球シミュレータに移植して従来の計算環境では不可能だった計算を実施することにより、我が国の計算科学技術政策の成果を目に見える形で世界に公表する。これにより、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)技術を産業界等広く社会に技術移転し有効活用されることを狙う。
本プロジェクトでは以下の3テーマを実施する
- <デジタルエンジニアリング対応>
- 高精度乱流モデルによるフォーミュラカーの空力評価と、空力設計へのHPCの展開
- <ライフサイエンス対応>
- 非経験的フラグメント分子軌道法によるタンパク質の大規模電子状態計算
- <ナノテクノロジー対応>
- 次世代半導体デバイス開発のための表面・界面反応シミュレーション
2.今年度当初の計画
1) 高精度乱流モデルによるフォーミュラカーの空力評価と、空力設計へのHPCの展開- ① 産業界における最も過酷な設計要件の一つであるフォーミュラカーを対象とし、高精度LES解析を行う上で最低限必要と考えられる1億メッシュ数解析(世界最大規模)の実現を図るため、解析プログラム(FFR)のES上での最適化、乱流モデルの精度検証、プリ・ポスト処理のHPCへの対応等を行う。
- ② 空力設計開発現場において要求される精度や開発スパンを考慮に入れた上で、解析結果を実験結果等と詳細に比較する。
- ③ 利用格子数や格子形状に応じたES上での非構造格子有限体積法の効率及びHPCにおけるプリ・ポスト処理上の各種問題を検討し、産業界でのHPC技術の有効利用について提案を行う。
- ① 地球シミュレータ64ノード(512プロセッサ)で、ベクトル化率95%以上、並列化効率50%以上を実現する。
- ② ビタミンD受容体(VDR)タンパク質のFMO-MP2計算を行い、リガンド分子(医薬品候補化合物)とVDRの相互作用を解析する。
- ③ MLFMO-CIS(D)法を開発し、ロドプシン等の光受容体タンパク質の高精度励起状態計算を行う。
- ① 並列化チューニングにより、5,000原子系の第一原理計算を可能にする。
- ② 浅い不純物準位、とくにSi中のV族不純物元素が作るドナーの電子状態を明らかにする。
- ③ 第1原理電子状態及び分子動力学シミュレーションコード「PHASE」等を対象に高速最適化を研究する。
3.今年度得られた成果、および達成度
<成果>
1) 高精度乱流モデルによるフォーミュラカーの空力評価と、空力設計へのHPCの展開- ① 解析プログラムのES上での最適化に成功し、1億2千万メッシュ数のフォーミュラカー(LOLA B351)を対象としたLES解析を実現(100nodes/515GBメモリ、ベクトル化率96%以上、並列99.9%)した。
- ② 3,000万メッシュ規模の空力モデルを対象にLES解析し、詳細な風洞実験データと比較した結果、通常PCクラスで行われている数十万~百万メッシュ規模のRANSモデルでは予測が困難であった空力特性の再現に成功した。
- ③ ②の結果より、車両空力評価において、我々の提案するLESを利用したHPC技術の重要性を示すことに成功した。尚、①のフォーミュラカー解析については計算時間の問題で、風洞実験と比較する為の詳細な乱流統計量の算出までには至っていない。
- ① 768プロセッサでのベクトル演算率98.143%、並列化効率を50%としたときの最大利用可能ノード数131ノードを達成した。
- ② FMO-MP2計算ルーチンを地球シミュレータへ移植し、VDR(253残基+リガンド分子)のFMO-MP2/6-31G計算を、64ノード(512プロセッサ)を用い3.3時間で実行した。
- ③ CIS(D)計算エンジンを開発し、地球シミュレータへの移植を開始した。
- ① 380ノード使用により実効性能13.5 TFLOPS を達成し、5,000原子系の第一原理計算を可能にした。
- ② Si 5,832 原子中の1ヶをAs原子で置換した系において、ドナー準位の構造、とくにバレー分裂効果を明らかにした。
- ③ 利用できる計算資源の制約の下で、より多くの原子数を扱える(現在では500原子以下程度)ように、新たに高速最適化手法を開発した。
<達成度>
1) 高精度乱流モデルによるフォーミュラカーの空力評価と、空力設計へのHPCの展開- ① 100%
- ② 100%
- ③ 80%
- ① 100%
- ② 100%
- ③ 70%
- ① 100%
- ② 70%
- ③ 90%