平成18年度地球シミュレータ研究プロジェクト利用報告会

プロジェクトテーマ : 先端的固体地球シミュレーションコードの開発

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発表要旨

1. プロジェクトの目的

固体地球科学の様々な領域において大規模な計算機シミュレーションによる解決が強く期待される問題がある。本プロジェクトの目的は、新しいシミュレーション手法の開発を通じて、先端的固体地球シミュレーション科学を先導することである。地球シミュレータの多ノードを使った大規模な並列計算を常に意識し、オリジナルのアイディアと独自手法の開発に徹底的にこだわる。これまでに開発してきた二つの手法「インヤン格子」と「ACuTE法」をさらに発展させるだけでなく、プレート・マントルの統合シミュレーションなどの新たな領域にも挑戦する。

2. 今年度当初の計画

今年度の「共同プロジェクト申請書」の中から「研究内容」の項目を以下にそのまま引用する:

      > 我々はこれまでに主に以下の3つのシミュレーションコードを開発した:
> (a) インヤン格子による球殻コア(ダイナモ)シミュレーションコード
> (b) インヤン格子による球殻マントル対流シミュレーションコード
> (c) ACuTE法による箱形マントル対流シミュレーションコード
> 今年度はこれらのコードを本格的に活用し、以下の3つのトピックで革新的な研究成果を
> 得る。
> (1) ダイナモ:上述のコード(a)を用いて磁場逆転機構の解明をめざす。
> (2) 球殻マントル対流:インヤン格子法[上述のコード(b)]と、現在箱形ジオメトリに
> 適用されているACuTE法[上述のコード(c)]を融合させる。
> (3) コア・マントル結合シミュレーション:2重対流系としての固体地球の物理を研究する。
> また、今年度から新たに:
> (5) プレート運動の再現を目指した新しいシミュレーションコードの開発。
> (4) 地震破壊過程の再現を目指した新しいシミュレーションコードの開発。
> の二つの研究テーマを開始する。今年度はシミュレーション手法の基礎的な研究開発を
> 行い、コードの完成と地球科学的成果の達成は2年から3年後となるであろう。

3. 今年度得られた成果

今年度の主な成果は次の4点である:

(1) インヤン格子とACuTE法を組み合わせた球殻マントル対流コードの開発:

本プロジェクトを通じて我々はこれまでにインヤン格子とACuTE法という二つの独自計算手法を開発してきた。インヤン格子は新しい球面格子、ACuTE法はマントル対流の新しい解法である。本年度はこの二つの手法を融合させ、3次元球殻マントル対流コードのプロトタイプを構築した。我々は昨年度までにインヤン格子を用いた3次元球殻マントル対流コードを既に開発し、過去の報告会でも報告していたが、そのコードで採用していたマントル対流の基本解法が本来、高解像度計算には適さないものであったため、地球シミュレータでの大規模計算が実際的上困難であった。そこで基本解法部分にACuTE法を採用した新しいコードを最初から作り直し、この問題を克服したのが今年度の大きな成果である。地球シミュレータ向けの最適化作業がまだ残っているが、基本的な並列化は終了している。小規模な系での並列計算、およびベンチマークテストの結果は良好である。

(2) インヤン格子を用いた高解像度ダイナモシミュレーション:

インヤン格子は球ジオメトリを扱う様々な計算問題を大規模な並列計算機を用いて解くのに適した新しい計算格子系である。我々はこれまでこのインヤン格子を用いたダイナモシミュレーションコードの開発に多くの労力をかけてきた。今年度はプロダクトランに集中し、地球シミュレータの512ノードを使った大規模なダイナモシミュレーションを様々なパラメータのもとで行った。これにより、これまでの計算よりも現実に近い(エクマン数の低い)ダイナモシミュレーションが可能となった。これまでのダイナモ研究では、地球の自転軸と平行に揃った円柱状の対流胞構造(対流柱)が流れと磁場生成(ダイナモ)の基本構造であることがわかっていた。ところがエクマン数が小さくなると、そのような対流柱構造はなくなり、プルームが基本構造となることがわかった。プルームの流れが磁場を引き延ばし、強い磁場を作るという新しいダイナモ領域が見つかった。

(3) 粘弾塑性流体の新しい計算手法開発:

マントルとプレートの統合シミュレーションが目指し、粘性、弾性、塑性の効果を含めた非線形流体の新しい数値アルゴリズムを開発した。本テーマは、今年度から開始した新しい研究内容であるが、短期間で大きな進展があった。

プレートはマントルに比べて3桁程度も高い粘性率を持ち、またその弾性効果も重要な役割を果たす可能性がある。そのような硬いプレート領域を、マントル対流シミュレーションの中で統一的に取り扱うためには、数値計算上以下のような課題がある。これらをそれぞれ右に矢印(→)で示した手法で解決した:

我々はACuTE法をこの問題にも応用した。さらにCIP法を組み合わせることで、プレートの高粘性領域の移流が高精度で追跡することができるようになった。本手法では、空間に固定した計算格子の上でMaxwellモデルに基づく構成方程式を解く。このとき共回転効果(ヤウマン微分)をCIPの手続きの中で半解析的に解く手法を開発することで、時間刻み幅を大きくとることに成功した。

この手法に基づいて2次元、および3次元のカーテシアンジオメトリにおけるコードを開発し、粘弾性流体のレイリーテイラー不安定性問題など、様々なベンチマークテストを行い、その有効性を確認した。

(4) 【鳥海プロジェクトとの連携】分子動力学計算から予測される粘性率構造を用いたマントル対流シミュレーション:

MgO の自己拡散に関する古典分子動力学計算から予測される下部マントルの粘性率構造を用いたマントル対流シミュレーションの実施に向けた基礎調査と、テスト計算を行った。詳細は鳥海プロジェクト「計算地球物質科学による地球内部物質の物性評価計算」において報告される。