発表要旨
1. プロジェクトの目的
光と電磁波の間にあるテラヘルツ(THz)波は、医療診断、環境センシング、大容量高速通信等の多数分野への応用が期待されているが、開拓中の電磁波である。また従来の半導体レーザ発振によるパルスTHz光は低出力などの点で応用が限られるところが指摘されており、高出力の連続波テラヘルツ波光源の開発が期待されている。高温超伝導体はそれ自体がジョセフソン結合構造であり、テラヘルツ帯域にジョセフソン・プラズマを励起する。そこに磁場、定電流を印加するとジョセフソンプラズマと共鳴した強い発振が起き、高温超伝導体から連続的にテラヘルツ波を高出力で空間へ放射する。この現象は強非線形現象であり、最適な発振条件を求めるには、強非線形方程式を多大な空間・時間メッシュにより解く大規模シミュレーションが必要である。このため地球シミュレータの大規模高性能計算能力を活用し、テラヘルツ発振超伝導素子の最適設計を行うこと、またその成果を大学、及び産業界の素子開発に役立てることが本研究の目的である。
2. 今年度当初の計画
- 発振条件の解明
- 最適発振条件の解明A(素子端面発振方式:実験先導のための最優先課題)
実験家に具体的指針を与える発振条件のデータ整備。H17年度から開始したが、計算資源制限から途上にある。18年度に継続し実施し、終了させる。 - 最適発振条件の解明 B(素子上面発振方式:素子機能拡大のため)
H18,19年度中に実施。 - 周波数可変幅を拡大する条件の解明(素子機能拡大のため)
H18,19年度中に実施。
- 最適発振条件の解明A(素子端面発振方式:実験先導のための最優先課題)
- テラヘルツ波応用シミュレーション
- テラヘルツ波と物質、生命分子の相互作用解明
テラヘルツ波と物質、生命分子の共鳴現象解明のための大規模シミュレーション技術を開発。(a) モデルの準備と大規模モデルの整備H18年度に、MORIS(タイトバインディング分子動力学法)を発展させ、相互作用モデルを準備、H19年度に大規模モデルの整備予定。(b) 生命分子との相互作用解析H20年度にテラヘルツ波と蛋白質分子の相互作用解析を実施予定。 - 大容量通信のための発振帯域拡大
0.3-10THzの広範囲で単一方式により高出力、周波数可変条件を解明するため超伝導物質の種類を変えた解析を実施。H18年度に予備解析、H19-20年度に詳細解析を実施予定。
- テラヘルツ波と物質、生命分子の相互作用解明
3. 今年度得られた成果
発振条件解明に予想以上の計算資源が必要になったため発振条件解明に集中した。
- 発振条件の解明 ①素子端面発振方式:発振現象を支配する主な制御パラメータをつきとめた。発振周波数は、By/λab(外部磁場/層方向の磁場侵入長)、層数で決まる。最も重要な1-4THz帯の発振は、外部磁場が1T以下で発生することを明らかにした。実験への指針として、従来の実験では磁束量子を規則的に分布させるため、外部磁場を1T以上に設定しており、それは不適切な実験条件であることを明らかにした。② 素子上面発振方式:素子上面に平行な振動電場が放射するため、振動電場と超伝導電流との関係の詳細方程式を新たに開発した。そのモデルをコードに組み込みテストランを実施中。③周波数可変幅を拡大する条件:周波数の可変幅は、磁束量子間の相互作用の強さを示すオーバーラップパラメータ(磁束量子の電流核の半径/磁束量子間の距離)で決まり、このパラメータ値を減じれば周波数の可変幅は拡大することを明らかにした。これは、周波数可変幅が広く、応用範囲が広い発振素子の設計条件を与える。
- テラヘルツ波応用シミュレーション ①テラヘルツ波と物質、生命分子の相互作用解
明:モデルの準備 時間依存分子動力学、第一原理分子動力学法モデルへの電磁界モデルの導入を検討中。②大容量通信のための発振帯域拡大:今年度の発振条件の研究成果から、本研究で対象としている物質Bi 2 Sr2Ca Cu2O8+を使い、By/λab、オーバーラップパラメータを制御することにより、大容量通信に必要な0.3-10THzの広範囲で高出力、周波数可変な発振素子を開発できる可能性があることを明らかにした。ただし、1THz以下ではジョセフソンプラズマ励起の不安定性も生起するため、他の超伝導物質で1THz以下での安定化条件を調べる。(次年度以降)