平成18年度地球シミュレータ研究プロジェクト利用報告会

プロジェクトテーマ : 戦略的革新シミュレーションソフトウェアの研究開発

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発表要旨

1. プロジェクトの目的

文部科学省次世代IT基盤構築のための研究開発「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」では、産業界での実用に耐えうる世界トップレベルの計算科学技術用ソフトウェアの開発を行っているが、その一環として基盤となるソフトウェア群を地球シミュレータに移植して従来の計算環境では不可能だった計算を実施することにより、我が国の計算科学技術政策の成果を目に見える形で世界に公表する。これにより、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)技術を産業界等広く社会に技術移転し有効活用されることを狙う。 本プロジェクトでは以下の5テーマを実施する

<デジタルエンジニアリング対応> <ライフサイエンス対応> <ナノテクノロジー対応>

2. 今年度当初の計画

(1)フォーミュラカーを対象とした世界最大規模のLES乱流解析による非定常空力評価

  1. 実車走行時に則した走行条件の再現による解析の高精度化と、風洞実験値との比較による定常空力予測の定量的評価。
  2. 検証データが豊富な産業界との連携による、市販4輪車、2輪車への大規模LES解析の展開(数千万要素規模)。
  3. 解析ソフトの改良による、車両動的姿勢変化への対応と、市販4輪車、2輪車、フォーミュラカーの車両ヨー角動変化に伴う非定常空力解析。

(2)騒音発生メカニズムの解明ならびに主要な音源の特定による低騒音設計技術の確立

  1. 大規模LES解析を実現するため、コードのチューニングをし、並列効率を向上させる。具体的には、現状64の利用ノード数を128にする。
  2. ファン内部流れに対し、大規模LES解析を実施し、音源である動翼表面の圧力変動をサンプリングする。計算規模は約3~5千万要素とする。
  3. LES解析で得た動翼表面の圧力変動(=音源データ)を用いた音響解析を実施し、ここで得た音圧スペクトルを実験データと比較する。

(3)大規模産業機械の設計製造プロセスにおける高精度構造解析

  1. 構造解析プログラムFrontSTRの行列解法プログラムをベクトル化する。
  2. 大規模なモデルでの実証解析を行い、他のシステムでの計算時間と比較する。

(4)非経験的フラグメント分子軌道法によるタンパク質の超高速大規模電子状態計算

  1. 地球シミュレータ256ノード(2048プロセッサ)で、ベクトル化率95%以上、並列化効率50%以上を実現する。
  2. アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のFMO-MP2計算を行い、アリセプト(一般名:ドネペジル)とAChEの相互作用を解析する。
  3. MLFMO-CIS(D)法を地球シミュレータへ移植し、光受容体タンパク質の高精度励起状態計算を行う。

(5)次世代 デバイス開発のための新材料の特性評価

  1. 並列化チューニングにより、8,000原子系の第一原理計算を可能にする。
  2. 浅い不純物準位、とくにSi中のV族不純物元素が作るドナーの電子状態を明らかにする。
  3. バイオ材料の次世代デバイスへの応用を目指し、DNAの伝導度特性を明らかにする。

3. 今年度得られた成果

(1)フォーミュラカーを対象とした世界最大規模のLES乱流解析による非定常空力評価

  1. タイヤの回転や床ムービングベルトを再現した億要素規模LES解析を実施し、英LOLA社から提供された風洞実験データと比較した結果、揚力係数について1%程度、抗力係数について10%程度の誤差で定常空力係数の予測が可能であることを実証した。また、タイヤの回転やムービングベルトが車両周りの気流特性に与える影響を評価することで、車両設計・開発現場に対して有用な知見を提供した。
  2. 風洞実験による豊富な検証データを有する国内2社と研究連携を行い、フォーミュラカーの非定常空力解析を行う前段階として、連携企業から提供された市販4輪車及び、レース用2輪車とし、大規模LES解析を行い、その定常空力評価を行った。
  3. スライディングメッシュ機構の導入により、車両ヨー角の動変化解析が可能となった。ただし現段階でES最適化が十分でなく、解析規模が数千万要素に限定されている。

(2)騒音発生メカニズムの解明ならびに主要な音源の特定による低騒音設計技術の確立

  1. 並列効率を向上させ、128ノードのノード利用許可を得た。
  2. 要素数3,200万点の大規模LES解析を実施し、動翼8回転分の圧力変動データをサンプリングした。
  3. LES解析で得たデータを用いた音響解析を実施し、音圧スペクトルを予測した。実験データとの比較において、概ねよい一致を確認できた。

(3)大規模産業機械の設計製造プロセスにおける高精度構造解析

  1. 行列の格納法を変更し、ベクトル計算の効率を改善した。50万点規模の解析においてベクトル化率99%、並列化率99.5%で実行可能とした。また各CPUにおいてピークパフォーマンスの50%(4GFlops)を達成した。
  2. 50万節点の自動車部品の解析を実施、24時間以上の計算を1時間以内で実行できた。

(4)非経験的フラグメント分子軌道法によるタンパク質の超高速大規模電子状態計算

  1. 240ノード(1920プロセッサ)でのベクトル化率98.28%、並列化率99.96%を達成した。また、320ノードの限定解除を申請中である。
  2. AChE(532残基+アリセプト)のFMO-MP2/6-31G計算を、128ノード(1024プロセッサ)を用い3.0時間で実行した。
  3. MLFMO-CIS(D)計算エンジンを地球シミュレータへ移植し、DsRedのMLFMO-CIS(D)/6-31G法による励起状態計算を、128ノードを用い34.5分で実行した。

(5)次世代 デバイス開発のための新材料の特性評価

  1. 超大規模系に対応するため波動関数の実数表示バージョンを開発し、8,000原子系の第一原理計算を可能にした。
  2. Si 8,000原子中の1ヶをAs原子で置換した系において、ドナー準位の構造、とくにバレー分裂効果を明らかにした。
  3. DNAの電気特性の解析を行い絶対零度では絶縁体であるが、有限温度では塩基の運動により電流を運べることを明らかにした。