発表要旨
1. プロジェクトの目的
カーボンナノチューブ(以下、CNT)はナノテクノロジの基幹材であり、その特性把握は激しい国際競争となっている。本研究は、技術的に難しいナノスケール実験に代わり、地球シミュレータを利用する大規模シミュレーションにより、産業界などが必要とするCNTの機械的、熱的、電子的な諸特性を明らかにする。さらに高品質CNTの生成、改質・加工などの応用プロセスシミュレーションを通じて新物質・新機能創製に関する基本情報を提供し、しかもそれらを戦略的知的財産として我が国のナノテクノロジの国際競争力の維持確保を支援することも目的としている。
2. 今年度当初の計画
- 素材特性の把握及び新奇構造、機能発現の探索 :産業応用に直結するCNTのバンドル複合体の引張、座屈、ねじり、曲げ等の機械強度特性を求め、高強度のファイバー応用の可能性を明らかにする。また、ダイヤモンド薄膜絶縁層とボロン伝導層からなる新ダイヤモンド複合構造の超伝導発現に関しシミュレーションし、並行して行なわれる実験を支援・誘導する。さらに次世代センサーとして産業応用が期待されるナノチューブと高分子との新奇機能物質等についてシミュレーションを行い、特性等を明らかにする。
- 次世代電子デバイスへ応用:ナノチューブ配線と周辺材との相互作用、最適選択、光デバイスの応答特性等について大規模シミュレーションから明らかにし、カーボン電子デバイスの可能性をさらに明らかにする。
- 高品質ナノチューブ生産プロセスの制御因子の特定 :まずコードを地球シミュレータ用に最適化し、生成メカニズムに及ぼす制御因子を明らかにする。
3. 今年度得られた成果
- 素材特性の把握及び新奇構造、機能発現の探索 :
①CNT複合体としての高強度ファイバー応用へ向け、CNTバンドル複合体を撚ってロープ状構造に至るシミュレーションを実施した。CNTの配置、巻き数、結合、固定結合(ダイヤモンド構造)など、ロープ構造の創製に関わる制御因子を明らかにするとともに、産業応用への新機能デバイスの可能性も見出した。 ②新ダイヤモンド複合構造の超伝導性発現の予測に関し、電子相関を静的平均場近似から乱雑位相近似へと精度を向上させ、さらに関与する原子個数を増やした大規模シミュレーション(4096原子)を実施し、超伝導転移温度Tcを予測するドープ量と超伝導転移温度の関係を得た。 ③超堅固、軽量、半導体性、磁性など新奇性状発現を期待されるマッカイ結晶の生成経路探索を実施。CNTの3次元重合構造からマッカイ結晶にいたるパスを発見した。今後の生成方法の開発に役立つ。④グラファイト表面構造のAr+8イオン照射による変化現象についてシミュレーション解析を進め、Ar+8イオンの衝突後にできるダイヤモンド類似構造は入射エネルギーに強く依存し、衝突の際の電荷移動と運動エネルギーの散逸過程が支配的であるとの知見を得て、実験側に反映した。 - 次世代電子デバイスへ応用:
CNTと金属電極(チタン)の接合界面の第一原理分子動力学シミュレーションを実施し、CNT囲むチタン原子の競り上がる安定構造が存在し、非常に大きな電子状態密度を示す炭素と金属の共存層となることをつきとめた。これはCNTデバイス配線における接合金属としてチタンの有効性を示唆するものである。 - 高品質ナノチューブ生産プロセスの制御因子の特定 :
生成触媒挙動に関するシミュレーションモデルの地球シミュレータへの最適化を実施した。 - 大規模モデル特性など
第一原理電子状態計算モデルのスケーラビリティとその応用性を確認するため、23000個の大規模原子系(扱う原子数では世界トップクラス)でGe/Si(001)系の3次元的島成長の構造最適化計算を実施しモデルの特性を確認した。