平成18年度地球シミュレータ研究プロジェクト利用報告会

プロジェクトテーマ : AFES を用いた地球型惑星の大気大循環シミュレーション

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発表要旨

1. プロジェクトの目的

火星や金星, タイタンといった地球型の惑星や衛星の大気は, 自転速度が遅くスーパーローテーションする大気をもつ金星とタイタン, 湿潤過程が支配する地球に対しダスト過程が支配する火星, 温暖な地球に対し暴走温室状態にある金星・暴走凝結状態にある火星, といった多様な特徴を有している. 本プロジェクトでは, 大気大循環モデルの力学的枠組として, 地球シミュレータセンターで最適化と改良がなされてきた大気大循環モデル AFES を用い, これと各惑星に適した物理過程モジュールを組み合わせることにより, 共通の枠組での各惑星大気の大循環シミュレーションを実現し, それぞれの惑星を特徴づけている個別的な力学過程を明らかにするとともに, そのことを通して個別的な構造の存在をより広いパラメタ空間の上に位置づける足がかりにすることをめざす.

2. 今年度当初の計画

計算条件として, 火星と金星, ならびに水惑星地球, すなわち地表面が海洋だけで覆われた仮想的な地球を考え, 個々の条件での計算を行う. 平成 18 年度は既に AFES への基本的な物理過程モジュールの組み込みを終えている火星および水惑星地球条件でのシミュレーションを重点的に実施し, 平行して金星用モデルの開発と予備実験を進める. 各惑星条件での数値シミュレーションの計画は以下の通りである.

  1. ダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験
    10 km スケールの空間解像度を与えた火星大気大循環計算を行い, 現在観測が困難な火星大気の中小規模擾乱の描像と, 中小規模擾乱による大気へのダスト供給過程を記述する.
  2. 水惑星数値実験による熱帯域降水活動の多様性の検討
    水惑星条件において, 解像度, 数値スキーム, 物理過程およびそれらのパラメタをさまざまに変えた計算を行い, 地球大気赤道域の降水活動とそれに関連する力学に影響を及ぼす要因を探る.
  3. 高解像度金星大気大循環実験
    金星大気を計算するための物理過程モジュールの開発を進め, AFES に組み込む. 同時に大気第循環モデルの力学コアを用いた金星大気計算の予備実験を実施する.

3. 今年度得られた成果

各計画に対する成果は以下の通りである.

  1. ダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験
    世界で初めて, 水平格子間隔 22 km の火星大気大循環シミュレーションを実施した. 本シミュレーションでは, 温帯低気圧に伴う前線構造や, 山岳周辺での数 100 km スケールの中規模渦の生成, そして 100 km 以下のスケールの小規模渦の生成が表現された. これらの計算結果の解析と同時に日射の日変化を無くす等の感度実験を実施し, これらの中小規模渦は, 平均風と山岳との相互作用だけでなく日変化がその生成に非常に重要な役割を果たしていることを明らかにした. さらに, 前線や中規模山岳に伴う大気擾乱が大気へのダスト供給に寄与していることも明らかとなった.
  2. 水惑星数値実験による熱帯域降水活動の多様性の検討
    これまでAFESを用いて実行してきた水平格子点間隔 40, 82, 165, 330 km の解像度の水惑星実験結果の解析を行った. 水平解像度を上げることにより,東進する総観規模降水構造の中に小規模の西進構造が内包されるという階層構造が出現する. この傾向は, 積雲パラメタリゼーションを除いた実験においても確認された. 高解像度計算の結果をスペクトルフィルターを用いて解析することにより, 東進する降水活動の生成機構はケルビン波による第二種条件付き不安定 (wave-CISK)的であること, 西進する降水構造は西進重力波による第二種条件付き不安定的なものと背景風で移流されるものとの二種類があることを示した. それぞれの出現と詳細構造は積雲パラメタリゼーションに大きく依存するが, 降水構造の組織化の傾向には一般性が見出された.
  3. 高解像度金星大気大循環実験
    地球大気用の大循環モデルである AFES を金星大気に適用するのに必要な物理過程モジュールの開発と AFES への組み込みを行った. これまでの金星大気モデルと比較して, 太陽加熱の強度や分布, 上層のレーリー摩擦などの物理過程においてより現実的な設定となるよう改善が図られている. また, モデル開発と平行して, 雲層で励起される熱潮汐波の力学的効果に関する理論的考察を行った. その結果, 熱潮汐波(特に半日潮)による運動量の下方輸送と地表面摩擦の効果でスーパーローテーションが生成されるという, 非常にユニークな仮説を得ることができた. 今後は物理過程モジュールの改良を継続すると同時に, 金星版 AFES を用いてこの仮説を検証し, 大気スーパーローテーションの生成メカニズムを解明するための数値実験を行う予定である.