平成19年度 地球シミュレータ利用報告会
1. プロジェクト名
大気・海洋顕著現象の理解と予測
Understanding and forecasting high-impact phenomena in the atmosphere and ocean
2. プロジェクト責任者名
地球シミュレータセンター 大淵 済
Wataru Ohfuchi
3. プロジェクトの目的
地球シミュレータに最適化されたコード群を用いて,主に中緯度における異常天候の予測精度向上に資する研究を実施し,様々な大気・海洋現象やプロセスのメカニズムを理解する。
4. 今年度当初の計画
主に中緯度における異常天候の予測精度向上の基盤となる(i)大気,海洋,および大気海洋結合系の変動メカニズム研究, (ii)大気海洋結合モデルの高精度化,(iii)データ同化・初期値作成手法の開発・改良,および(iv)予測可能限界に関する研究,を4つの柱として,各テーマおよび数値モデル群を相互に連携させながら研究・開発を推進する。
5. 今年度得られた成果、および達成度
成果
- i) 大気,海洋,および大気海洋結合系の変動メカニズム研究
大気海洋結合モデルCFESを用いた高解像度シミュレーション結果について,南インド洋での大気海洋相互作用に注目して解析を行った.急峻な海面水温前線付近に熱フラックスが強く局在化し,それが海上気温にも強い勾配を維持することが明らかにされた.これを通じて中緯度域の海洋が大気循環場へ影響すると考えられている.また,解像度が約10kmの高解像度海洋モデルOFESを用いた過去の再現シミュレーションを継続しており,時空間密度が不十分な海洋観測データを補うデータとして広く研究に使われ,海洋物理場にとどまらず海洋生態系研究においても成果が得られている
- ii) 大気海洋結合モデルの高精度化
大気海洋結合モデルCFESの大気部分(AFES)に関しては,雲分布の再現性を向上し,放射収支を改善することを主な目的として,乱流凝結スキームの導入や海面のアルベドの改善,及びエアロゾルの地理分布及び季節依存性の導入を行なった.海洋部分(OFES)に関しては,混合層分布の改善のために新たな混合層スキームを導入した.これらの高精度化によって東部太平洋南米沖における下層雲及び海上風,さらに海洋の力学応答を通じて熱帯太平洋全域で気候場の再現性が向上し,現実的な気候変動をより良く再現できるCFES長期積分の準備が整った
- iii) データ同化・初期値作成手法の開発・改良
大気大循環モデルAFESと局所アンサンブル変換カルマンフィルタLETKFからなるデータ同化システム(AFES-LETKF)の改良とそれを用いた観測データの影響評価を行なった.LETKFの観測データ同化アルゴリズムを改良し,計算効率の大幅な向上を達成し, 極域での不自然なノイズの除去に成功した.また,5年程度の同化実験に向けたシステムの改良を行った.AFES-LETKF同化システムを用いて,パラオでの集中観測(PALAU2005)で得られたドロップゾンデデータを同化した実験を行い,熱帯での誤差の影響が数日後には日本付近にまで及ぶことを明らかにした
- iv) 予測可能限界に関する研究
解像度が数10mの雲解像モデルCReSSを用いて,近年の竜巻等の強風事例の再現実験を行い,観測された竜巻だけでなく,複数の渦が台風のレインバンドや低気圧の寒冷前線に伴って存在することを明らかにした.また,AFESを用いて,竜巻を伴った台風,爆弾低気圧のアンサンブル予測実験を行い,それぞれ海面水温の微細な構造やユーラシア大陸上での降水過程が竜巻の発生する環境場の再現性に影響することを明らかにした
達成度
- 全体 : 80% (12月現在,順調に進行している)
- i) 大気,海洋,および大気海洋結合系の変動メカニズム研究 : 100%
CFES, OFES, AFES, CReSSなどの高解像度モデルのシミュレーション結果を用いた,変動メカニズムや顕著現象を解析して多くの成果を得ることができ,期待以上であった
- ii) 大気海洋結合モデルの高精度化 : 75%
モデルの高精度化をおこない,CFESによる長期積分の準備が整った
- iii) データ同化・初期値作成手法の開発・改良 : 80%
同化システムの改良を行い,今年度中に5年程度の初期値再解析データの構築を開始予定である
- iv) 予測可能限界に関する研究 : 75%
竜巻とそれが起こりうる環境場の予測可能性限界の研究をすすめている