平成19年度 地球シミュレータ利用報告会

地球シミュレータ用・非静力・大気海洋結合モデルの開発

発表資料 (1.6MB)

1. プロジェクト名

地球シミュレータ用・非静力・大気海洋結合モデルの開発

Multi-scale weather/climate simulations with coupled non-hydrostatic ocean-atmosphere GCM on the Earth Simulator

2. プロジェクト責任者名

地球シミュレータセンター 高橋 桂子

Keiko Takahashi

3. プロジェクトの目的

本プロジェクトでは,地球シミュレータの能力を最大限に活用して,気象やより長い期間の気象現象など,異なるスケールの現象をシームレス結び付けた超高速シミュレーションを可能にする非静力・大気海洋結合シミュレーションコード(Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment: MSSG)を開発する。本研究開発は,地球シミュレータの資源を最大限に活用して初めて現実的な研究開発を行うことが可能となる,時空間的に異なるスケール間のメカニズムを数100mのスケールから数1000kmスケールを扱うことか可能な大気海洋結合モデルMSSGの開発を行うものである。マルチスケールシミュレーションにより気象現象の予測可能性の限界に挑戦する,世界に先駆けた予測シミュレーションコードの研究開発と位置付けられる。地球シミュレータ上における高解像度シミュレーションに加え,大気,海洋,陸面,都市モデル間の相互作用の可能な限り現実に近いモデル化と,高い精度の数値計算技術の導入と超高速計算を本コードで実現することで,従来よりもさらに現象を精度よく再現し、気象、気候変動メカニズムのより詳細な解明や、予測精度の向上が期待できる。本シミュレーションコードは,社会生活に大きな影響を与える台風,集中豪雨などの気象現象,および都市型気象や気候とそれをとりまくメソスケールの現象の予測シミュレーション,さらにメソスケールと全球スケールの大気海洋相互作用を取り扱うことが可能であるので,適用範囲が非常に広い。環境産業への応用や都市環境設計等へのアセスメントなど,社会貢献を意識した幅広く役立つシミュレーションコード開発とシミュレーション環境の提供を行う。

4. 今年度当初の計画

本年の主な開発計画は以下のとおりである。

  • (1) 新しい高精度計算手法および物理モデルの導入とその物理的性能評価
    • (ア) CIP-CSLRの高度化。
    • (イ) 乱流効果を取り入れた雲微物理モデルの高度化。
    • (ウ) 海氷モデルの導入と物理的性能評価。
    • (エ) 都市スケールのビル-地表面間の3次元放射モデルの開発と導入。
    • (オ) 動的適応型格子の実装とその物理的性能評価。
  • (2) MSSGを使用した予測シミュレーション事例研究
    • (ア) 台風,集中豪雨の事例再現実験と予測精度の評価。
    • (イ) 局所的な風況予測の可能性についての評価。
    • (ウ) より長期の予測シミュレーションために,3ヶ月夏季予測の実施とその可能性の評価。
    • (エ) メソスケール-都市型気象の事例としての都市型集中豪雨の再現シミュレーションと評価。
  • (3) 新しいモデルおよび計算手法の導入条件化でのMSSGの計算性能最適化と利用利便性の向上の資料(マニュアル等)の整備

5. 今年度得られた成果、および達成度

成果

(1) についての成果は以下のとおりである。

  • CIP-CSLRは、新たに特性線法による解法を導入し、トレーサーに加えて運動方程式においてもCIP法を適用した。Williamsonテストにおける検証で、保存性を保証しかつ時間ステップの緩和が可能であることを示した。
  • また、乱流効果を取り入れた雲微物理モデルを大気大循環コンポーネントMSSG-Aに導入し、実地形においても乱流効果を取り入れた雲微物理モデルの適用を可能にした。テストシミュレーションを実施し、導入前後における降雨分布の差異があることを確認した。
  • 海氷モデルを海洋大循環コンポーネントMSSG-Oに導入し、テストシミュレーションを行った。特に、オホーツク領域を高解像度で海氷生成の再現実験を行い、観測値と比較して妥当な結果を得た。
  • 都市キャニオンの熱的特性をより現実的にモデル化するために、3次元放射モデルを新たに開発し、大気大循環コンポーネントMSSG-A上に実装した。導入前後において、接地境界層における蓄熱が変化することを示唆した。
  • 動的適応型格子(AMR)を大気大循環コンポーネントMSSG-Aと海洋大循環コンポーネントMSSG-Oの両方に導入し、AMRを用いた結合モデルとしてシミュレーションが可能となった。テストシミュレーションの結果、観測値と比較して妥当な結果が得られることを確認した。

(2) の成果として、

  • 本年の台風の進路と強度に関する予測シミュレーションを結合モデルMSSGを用いて行い、予測結果の妥当性を示した。また、僭熱、顕熱フラックスの風の強さへの感度実験結果(実験室にて)を適用した新たなフラックスモデルにより、台風の強度への影響についてのテスト実験を行い、大気海洋間の熱交換モデルの感度の高さを示唆した。
  • 東京都心域、福島地域、竜飛岬域における局所的な風の予測シミュレーションを行い、観測値と比較して、妥当な結果が得られることを確認した。
  • 過去10年間の夏季3ヶ月について、MSSG-Aを用いた全球シミュレーションを行い、3ヶ月予測への可能性を示した。特に、解像度を160km、40km、10kmの場合の比較を行い、40kmおよび10km(途中結果)のほうが赤道域における降雨分布がより観測値に近いことを示した。しかし、接地境界層の温度が低い傾向があることがわかり、接地境界層、特に大気陸面相互作用のモデル化に問題があることがわかってきた。
  • 都市型集中豪雨の事例として、2006年、1998年の事例を取り上げ、テストシミュレーションを開始した。初期設定、境界値の設定、都市キャノピーモデルの設定を行っており、再現シミュレーションは現在進行中である。

(3) については、新しい各モデルの実装後、MSSG全体コードとの整合性をとりながら逐次進めている。各時点における計算性能を評価し、性能低下を招くことがないようなコーディングを行い、現時点においても、昨年度と同程度の高い計算性能を保持している。また、これまでのMSSGコードのモデルについてのマニュアル、使用マニュアルを一新し、初心者にもわかりやすい記述方式に変更した。加えて、新たに高精度計算手法を導入したときに、検証実験が容易に行えるようなコードと計算環境を新たに実装した。

達成度

  • (1) についての、新しい高精度計算手法および物理モデルの導入とその物理的性能評価は、全体として、80%の達成度である。特に(イ)、(ウ)、(エ)、については、90%の達成度、(オ)については、80%、(ア)については、70%の達成をしている。当初の計画通りに進んでいる。
  • (2) については、全体として70%の達成度である。(ア)、(イ)については、シミュレーション結果の解析と評価を現在も進めており70%の達成度、(ウ)については、解析結果をまとめる段階であるので80%の達成度、(エ)については、現在進行中であるので65%の達成度であるが、全体として、当初の研究計画のスケジュールどおりに進んでいる。
  • (3) については、当初計画していた以上の速度で達成され、現時点において、ほぼ100%に近い達成度である。

本年度は、各スケールの対象テーマに対して、非常に新しいシミュレーション結果が得られたことから、今年度残りの期間は、特に、JAMSTEC内外の共同研究者との共同研究をより強力に推進し、シミュレーションの解析結果をまとめてゆく予定である。