気候・海洋変動のメカニズムの解明およびその予測可能性の研究
Study on the mechanism of climate and ocean variability and their predictability
山形 俊男
Toshio Yamagata
短期気候変動のメカニズムの解明とその予測可能性の研究を主たる研究目標として、重要なメカニズムに関するプロセス研究と予測可能性研究の為に必須な研究ツールである大気・海洋結合モデルによるシミュレーション研究の両面から研究課題に取り組む。この研究を展開するに当たり、エルニーニョ/南方振動(ENSO)研究等により次第に明らかになって来た日々の天気のカオス性に打ち消されない長期変動(気候変動)に関する”potential predictability”を研究の重要な焦点として、また1999年に発見したインド洋ダイポール(IOD)モード現象にも注目して、その予測可能性と世界の気候に及ぼす影響についての先駆的研究を目指す。この研究推進に当たり、地球シミュレータを充分に活用して可能な限り高解像度のシミュレーションを実行し、社会的にも充分にアピールできる予測研究の推進を目指す。
1) これまで用いてきた大気海洋結合モデル(SINTEX-F1モデル)を用いて、熱帯気候の典型的なモードとして知られているIOD及びENSOのリアルタイム予測を昨年度に引き続き行う。但し、アンサンブルメンバー数を増やすことにより予測精度向上を目指す。2) また大気海洋結合モデル実験を用いた感度実験を行い、IOD及びENSOの予測可能性に対して果たすインド洋と太平洋の相互の役割、またインドモンスーンの変動性に果たす海洋力学の役割について理解する。3) 更に、上記モードとそれよりも空間規模の小さい現象とのスケール間相互作用を調べるため、大気海洋結合モデルの高解像度化を図る。
リアルタイム予測実験のアンサンブルメンバー数を昨年度の9から32まで増やし、IODやENSOの予測精度を向上させることができた。特に2007年に発生したIODを3シーズン前から予測することに成功した。IODの予測はアフリカにおける洪水被害やオーストラリアにおける旱魃被害を予防あるいは軽減するために重要なことであるため、本研究の成功によって、国際社会への貢献に大きな一歩を踏み出したと言える。この成果はいくつかの全国紙に取り上げられた。
インド洋或いは太平洋における大気-海洋間の相互作用をなくす感度実験を行い、インド洋(太平洋)における大気海洋相互作用が太平洋のENSO(インド洋のIOD)の予測可能性に影響することを示唆する重要な結果を得た。また海面水温に対する力学的効果を弱める感度実験を行ったところ、ソマリア沖の湧昇が弱まることによってインド西部のモンスーンに伴う降水が強まる可能性があることが示された。このソマリア沖の湧昇の弱まりはアラビア海における晩春の南西風の弱体化によるもので、これはセーシェルドームの変動、さらに風景の変動を経由してENSOの変動にまで遡ることができるようである。
SINTEX-F1による長期積分の結果は、自己組織化マップ(SOM)と呼ばれる新しい非線形統計解析手法を通して、IODやENSOといった長周期変動を理解するために用いられた。またこの結果はインド洋におけるIODとマッデン・ジュリアン振動との相互作用を理解するためにも用いられた。更にSINTEX-F1モデルによるハインドカースト実験の結果は、釜山のAPEC気候センター(APCC)を基盤として行われているCliPAS (US-Korea Joint Project on Climate Prediction and Its Application to Society)と呼ばれる国際共同研究にマルチモデル・アンサンブルの一メンバーとして、その予測精度向上に貢献している。
SINTEX-F2と呼ばれる新しい結合モデルは、T159L31の分解能を持つ大気モデルECHAM5、0.5°x0.5°、31層の分解能を持つ海洋モデルOPA9とカップラーOASIS3で構成されているが、これは現在ES上にてテスト中である。より現実的な結果を得るためのチューニングを進めている。
SINTEX-F1を用いた予測実験の成功における著しい成果、IODとENSOの予測可能性における関係の解明などから1)、2)については100%以上の成果を得たと考える。しかし高解像度のSINTEX-F2結合モデルがまだテスト段階であるため、3)については90%の達成度である。