平成19年度 地球シミュレータ利用報告会
1. プロジェクト名
AFESを用いた地球型惑星の大気大循環シミュレーション
Simulations of atmospheric general circulations of Earth-like planets by AFES
2. プロジェクト責任者名
林 祥介
Yoshiyuki Hayashi
3. プロジェクトの目的
火星や金星, タイタンといった地球型の惑星や衛星の大気は, 自転速度が遅くスーパーローテーションする大気をもつ金星とタイタン, 湿潤過程が支配する地球に対しダスト過程が支配する火星, 温暖な地球に対し暴走温室状態にある金星・暴走凝結状態にある火星, といった多様な特徴を有している. 本プロジェクトでは, 大気大循環モデルの力学的枠組として, 地球シミュレータセンターで最適化と改良がなされてきた大気大循環モデル AFES を用い, これと各惑星に適した物理過程モジュールを組み合わせることにより, 共通の枠組での各惑星大気の大循環シミュレーションを実現し, それぞれの惑星を特徴づけている個別的な力学過程を明らかにするとともに, そのことを通して個別的な構造の存在をより広いパラメタ空間の上に位置づける足がかりにすることをめざす.
4. 今年度当初の計画
計算条件として, 火星と金星, ならびに水惑星地球を考える. 水惑星地球とは, 地表面が海洋だけで覆われた仮想的な地球のことである. それぞれのシミュレーションの狙いは以下のとおりである.
- 1) ダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験
惑星規模循環と中小規模擾乱との相互作用の様子を調べるために, 水平解像度 20 km 程度の空間解像度での中長期積分, 及び別の季節条件における計算を実施する. この結果を基に中小規模擾乱の大気へのダスト供給と大気中ダスト量維持機構についても知見を得る.
- 2) 水惑星数値実験による熱帯域降水活動の多様性の検討
熱帯域降水活動の多様性を明らかにするため, 積雲過程, 放射過程, 鉛直混合過程などの物理過程の実装に対する解の振舞の依存性をより詳細に検討するべく, 個々の物理過程に踏み込んだパラメタ実験を複数の解像度で実施する.
- 3) 高解像度金星大気大循環実験
金星大気用の高精度な放射過程モジュールを開発し, さらにそれを地球大気用の大循環モデルである AFES に組み込むことにより, 現実的な輻射加熱率を与えて金星大気の高解像度計算を実施する.
5. 今年度得られた成果、および達成度
成果
「4. 今年度当初の計画」 に挙げた各計画に対する成果は以下の通りである.
- 1) ダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験
中小規模擾乱の大気へのダスト供給過程に特に注目して実験および結果の解析を行った. 特に, 北半球の秋の季節において, 水平解像度 100 km 程度, 鉛直 48 層から水平解像度 20 km 程度, 鉛直 96 層まで複数の解像度で実験を行い, 中小規模擾乱がダストを巻き上げる上でどの程度寄与しているかについて, 定量的に評価することを試みた. 実験の結果, 解像度の向上とともに巻き上げられるダストの総量が増加することが示された. この増加は主に低緯度における巻き上げ量の増加によって説明される. このことは低緯度における小規模の対流に伴う現象がダスト巻き上げに重要な役割を果たしていること, そしてより高い解像度での実験がダスト現象の解明に有益であることを示唆する.
- 2) 水惑星数値実験による熱帯域降水活動の多様性の検討
前年度までに行なってきた水惑星実験で得られた熱帯降水活動を抽出するために, コンポジット解析を行なった. コンポジット解析に必要なデータを再取得するために, 積雲パラメタリゼーションスキームを用いない場合について水平解像度 330 km 程度から 40 km 程度まで複数の解像度で実験を行った. 東進構造に準拠したコンポジット図では, 温度場と風速場の位相の西傾が観察され, ケルビン波の wave-CISK 的な構造の存在が示された. 西進構造に準拠したコンポジット図においては, 直立する直接対流の構造が現れ, 背景風によって移流される CIFK 的な構造の存在が示された. 水平解像度を向上させていくにつれて, 西進構造の水平スケールが減少し, より鋭い構造を示した. 一方, 東進構造の水平スケールは水平解像度を上げても顕著な変化は現れなかった. これらの結果は, 水平解像度を上げた場合には東進構造と西進構造がより明確に分離され, 全体としては階層構造を成すこと(平成 18 年度の成果)を反映したものとなっている.
- 3) 高解像度金星大気大循環実験
現実的な放射過程モジュールを用いた高解像度計算の準備として, 昨年度の成果に基づく簡易放射モジュール(ただし, 太陽光による大気加熱率は観測に基づく現実的な値)を用いて水平解像度 300 km 程度, 鉛直 120 層で実験を実施した. その結果, 金星大気の平均子午面循環は高度 0-10 km, 30-45 km, 60-85 km の各領域に分かれて存在することが示唆された. 最近の金星大気シミュレーションでは地上から雲層付近 (45-70 km) に達するような 1 つの子午面循環によって大気スーパーローテーションが生成されることが報告されているが (例えば, Yamamoto and Takahashi 2003), この子午面循環は大気下層で与えた非現実的な大気加熱によって駆動されている可能性が高く, 本研究のような現実的な加熱率での実験がさらに必要である.
予備的な高解像度計算の実行と同時に, 金星大気に適用可能な高精度放射過程モデルの開発を進め, 最新の吸収線データを用いた line-by-line 法の計算によって吸収係数の波長・高度依存性を求めた. 現在, この結果を金星大気用 AFES に取り入れるため, 相関 k-distribution 法を用いた放射過程モジュールを作成中であり, 当初の計画通り, 今年度中には計算を行えるようにしたい.
達成度
「4. 今年度当初の計画」 に挙げた各計画に対する達成度は以下の通りである.
- 1) ダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験
60%
- 2) 水惑星数値実験による熱帯域降水活動の多様性の検討
40%
- 3) 高解像度金星大気大循環実験
50%