平成19年度 地球シミュレータ利用報告会

3次元不均質場での波動伝播と強震動のシミュレーション

発表資料 (37MB)

1. プロジェクト名

3次元不均質場での波動伝播と強震動のシミュレーション

Numerical simulation of seismic wave propagation and strong ground motions in 3-D heterogeneous media

2. プロジェクト責任者名

古村孝志 (東京大学地震研究所)

Takashi Furumura

3. プロジェクトの目的

3次元的に不均質な媒質中の地震波動伝播と強震動生成の数値シミュレーションを実施する。プレート境界や内陸活断層の破壊に伴い放射される地震動が、複雑な地殻・上部マントル構造を伝播し、さらに地殻表層部の堆積層によって強く増幅され、構造物に被害をもたらす強震動を生成する物理過程を、大規模数値シミュレーションにより明らかにする。

4. 今年度当初の計画

大地震の揺れを予測し地震災害軽減に資するために、3次元的に不均質な地下構造の地震波動伝播と地表の強震動生成過程を、大規模数値シミュレーションにより評価する。シミュレーション結果を、現在日本列島に展開されている高密度の地震観測網データ、および古地震記録との比較検証により地震波動伝播モデル(震源断層、地下構造)の高精度化を進める。これを用いて、将来発生の恐れのある都市直下地震や海溝型巨大地震の揺れを高精度に予測する。

2007年度には、2006年千島列島の地震などの波動伝播・強震動シミュレーションを行い、高密度地震観測データとの比較から、北海道~東北~関東の地殻・マントル構造モデルの調整を進める。これを用いて、近い将来に発生する宮城県沖の地震(M7.5)や茨城県沖の地震の強震動シミュレーションを行う。また、1900年代前後に多発した関東直下の大地震(1894年明治東京地震、1895年霞ヶ浦の地震、1922年浦賀水道の地震、1931年西埼玉の地震など)の強震動をシミュレータにより再現する。

海溝型大地震による海底地殻変動による、津波の発生と伝播を、3次元不均質地下構造と不均質海底面構造を用いた地震-津波連成シミュレーションにより高精度に評価する計算コードの開発を進め、これを用いた東南海地震や千島列島の地震・津波計算を行う。

5. 今年度得られた成果、および達成度

成果

(1)2007年能登半島地震、2007年新潟県中越沖地震の長周期地震動シミュレーション

2007年3月25日に発生した能登半島地震(M7.0)、および7月16日に発生した新潟県中越沖地震(M6.9)の地震波伝播・強震動シミュレーションを実施した。大都市圏大災害軽減化特別(大大特)プロジェクト(H14~17;東大地震研・ほか)で整備した、日本列島高分解能地下構造モデルと、近地・遠地地震波形の逆解析から推定された、これらの大地震の断層滑りモデルを用いた計算により、関東平野の長周期地震動の生成・伝播過程を詳しく調査した。

シミュレーション結果は、日本列島の高密度強震観測網(防災科研K-NET, KiK-net)の強震波形記録と比較した。観測と計算の相互比較により、シミュレーションモデルを検証し、またその結果を使って関東平野の堆積層形状と物性値を修正した。このようなモデルの高精度化により、中越付近を震源とする内陸地震による、周期2秒以上の長周期地震動の予測の目処が得られた。

いっぽう、能登半島沖地震では、糸魚川―静岡構造線を境にして、観測波形と計算波形の一致が急激に悪くなることが明らかとなり、構造線付近の地下構造モデルの修正の必要性が示唆された。本成果は、現在東大地震研で進めている文科省受託研究「糸魚川―静岡構造線断層帯における重点的な調査観測」による地下構造探査結果を用いて、シミュレーションモデルの修正に役立てられる。

(2)地震―津波連成シミュレーションコードの高度化

前年度に開始した、地震―津波連成シミュレーション法を改良し、長波近似に基づく従来の津波計算モデルを、3次元Navier-Stokes方程式に置き換えることにより計算の高精度化を図った。本計算では、非圧縮性流体式における圧力項をSOLA法に基づき反復計算し、また水平2方向の領域分割により計算を並列化している。全計算時間の80%以上を占める、上記反復計算をRed/Black法によりベクトル化した。2048x124x2048格子モデルの16ノード計算では99.3%のベクトル化率を達成した。これにより、数百kmを超える大規模な空間での地震―津波連成計算の実用化の目処が得られた。

(3)1896年明治三陸津波地震のメカニズム

上記モデルを用いて、1896年明治三陸津波地震の地震―津波連成シミュレーションを実施した。この地震は、震度(地震動)が小さかったにもかかわらず、最大38mの大津波が三陸海岸を襲い、22000名以上が犠牲となった特異な津波地震である。大大特プロジェクトにおいて、海洋研究開発機構と東大地震研が共同で開発した、日本海溝―海域地下構造モデルを用いて、この地震による地震動と津波の再現を試みた。シミュレーション結果より、日本海溝付近に5~10kmの厚さで堆積したポアソン比の大きな(柔らかい)堆積層において地震時に数メートルを超える海底隆起が発生し、これにより大津波が発生することが確認できた。また、堆積層は周期2秒以下の短周期地震動を大きく減衰させる効果があり、海溝から陸寄りの宮城県沖の地震に比べると震度の距離減衰が大きいこともわかった。すなわち、小さな震度と大津波は、三陸沖の地震で一般的に起きうる現象であり、津波防災対策の重要性を示した。

(4)地震波伝播の超並列計算コードの開発

 1万~10万CPUを用いた将来の超並列計算機(京速コンピュータなど)の利用を視野に入れて、地震波伝播計算の並列コードの効率化をさらに進めるためのモデル改良を行った。並列化度を従来の512並列から数万並列に高めるために、これまでの鉛直方向の領域分割を、鉛直・水平方向の3次元分割に置き換え、計算ノード内・外ともにMPI通信を行いたFlat MPI並列モデルに改良した。これにより、1024x512x512格子モデルの地震波伝播計算において、並列化率0.9995を達成した。同時に、マスク演算を用いて短いループ結合を行うことにより、大きな領域分割でベクトル長を確保した。これにより、上記モデルで99.6%のベクトル化率を達成し、128ノード計算(1024PE)計算においてES実効性能の47%にあたる3.8Peta FLOPSの演算速度を得た。

達成度

  • 達成度:85%

研究計画にあった、1900年代の関東直下の被害地震のシミュレーションが未達成。これは、能登半島地震や中越沖地震など他の地震シミュレーションを優先したためである。また、2006年千島列島の大地震の地震―津波連成計算を予定していたが、これより緊急性の高い三陸地震津波のシミュレーションを優先して行った。また、ES資源の効率的利用と、次世代並列計算機に向けて、計算コードの修正に時間を使った。なお、積み残し課題は、今年度末または、次年度の初めに実施を予定している。