平成19年度 地球シミュレータ利用報告会
1. プロジェクト名
テラヘルツ発振超伝導素子に関する大規模シミュレーション
Large-scale simulation for a terahertz resonance superconductors device
2. プロジェクト責任者名
立木 昌
Masashi Tachiki
3. プロジェクトの目的
光と電磁波の間にあるテラヘルツ(THz)波は、医療診断、環境センシング、大容量高速通信等の多数分野への応用が期待されているが、開拓中の電磁波である。また従来の半導体レーザ発振によるパルスTHz光は低出力などの点で応用が限られるところが指摘されており、高出力の連続波テラヘルツ波光源の開発が期待されている。高温超伝導体はそれ自体がジョセフソン結合構造であり、テラヘルツ帯域にジョセフソン・プラズマを励起する。そこに磁場、定電流を印加するとジョセフソンプラズマと共鳴した強い発振が起き、高温超伝導体から連続的にテラヘルツ波を高出力で空間へ放射する。この現象は強非線形現象であり、最適な発振条件を求めるには、強非線形方程式を多大な空間・時間メッシュにより解く大規模シミュレーションが必要である。このため地球シミュレータの大規模高性能計算能力を活用し、テラヘルツ発振超伝導素子の最適設計を行うこと、またその成果を大学、及び産業界の素子開発に役立てることが本研究の目的である。
4. 今年度当初の計画
- (1) 素子機能の高度化
- ① 素子上面からの発振条件の解明:素子機能の拡大 :実験に具体的指針を与えるデータ整備のためH19,20年度をかけて解明する。本方式は、素子上面の面積が端面より1000倍程大きいため、より高出力の素子の開発が期待できる
- ② テラヘルツ波搬送のための最適導波管解析:H18,19年度中に実施。
- (2) テラヘルツ波応用シミュレーション
- ①テラヘルツ波と物質の相互作用解明:H19年度にカーボン系物質との相互作用モデルの構築、H20年度に多原子大規模モデルの整備を行う。
- ② 大容量通信のための発振帯域拡大0.3-10THzの広範囲での発振条件を解明する。H19-20年度に詳細解析を実施予定。
5. 今年度得られた成果、および達成度
成果
- (1) 素子機能の高度化: 本研究では、周波数可変、高出力、広帯域で発振が可能な外部磁場を印加したテレヘルツ発振の研究を進めているが、今年度前半に、米国にて磁場を印加しない発振実験に成功した。外部磁場を印加しない発振では、発振周波数が1THz以下でかつ発振周波数は素子の長さで固定されてしまい、出力も弱いという欠点がある。しかし、実験側より発振特性を改善するために、シミュレーションにより発振メカニズムを解明して欲しいという要望があった。そこで、本研究でのモデル、コードの検証も含め、研究内容を変更し、外部磁場ゼロでの発振メカニズム、発振条件解明のためのシミュレーションを実施し、以下の結果を得た。①向きが逆のフラクソンが同数生成し外部磁場ゼロの条件を満たしつつフラクソンが素子に侵入すること、②外部磁場を印加した場合と同様に、不規則分布のフラクソンからなるクラスターの間隔がジョセフソンプラズマの波長と一致し強い励起が発生するという発振のメカニズムを解明した。発振帯域、層の数の2乗に比例して励起強度が強くなる等の励起特性は実験と一致した。従って、本研究でのモデル、大規模計算コードは、高温超伝導体を使ったテラヘルツ発振素子の研究開発に有効であることが実証できた。
- (2) テラヘルツ波応用シミュレーション ①テラヘルツ波と物質、生命分子の相互作用解明:モデルの準備:カーボンを対象とした強結合モデル(CRTMD-PV)に電磁場モデルを導入したモデルを準備した。
②大容量通信のための発振帯域拡大: 外部磁場を印加した方式での課題であった1THz以下での安定な発振が、外部磁場を印加しない実験で成功したため、ペンディングとした。しかし、外部磁場を印加しない発振では、周波数が固定なため、外部磁場を印加した周波数可変でかつ安定な発振条件を解明するためのシミュレーションを次年度再開する予定。
達成度
(1)素子機能の高度化:外部磁場を印加しない方式の発振メカニズムを解明し、かつ本研究でのモデル、大規模シミュレーションコードの有効性を実験結果との比較により実証できた。130%。(2)テラヘルツ波応用シミュレーション: モデルの準備ができた80%。(3)全体:95%。